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新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー [クジラ]

 今回は、『 IKA-NET NEWS』67号に掲載した日本の北太平洋新調査捕鯨計画についてのエッセイ「新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー」をそのまま以下掲載しました。

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 新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー
                                  真田康弘
 
 2017年4月、IWC科学委員会は日本が同年より実施を計画している新北西太平洋鯨類科学調査計画(New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific: NEWREP-NP)に対する専門家パネル評価報告書を発表したが、その内容は調査捕鯨の継続を企図する日本政府側にとって極めて厳しいものとなった。新たな調査計画では捕獲予定頭数の算定根拠が不明確であるのみならず、なぜそもそも捕獲が必要なのかの立証すらも十分でなく、資源に対する悪影響が及ぶ可能性すら否定できないとして、これらについての問題が克服されない限り、致死的調査は行うべきではない、と新調査計画をほぼ全面否定するにも等しい判断を下したからである。
 では、なぜIWC科学委専門家パネルはここまで厳しい判断を下したのであろうか。本小論ではまず新調査捕鯨計画の概要を簡単に紹介した後、専門家パネルで指摘された主たる問題点につき検討を行い、最後に若干の考察を加えるものとしたい。

1. これまでの北西太平洋での調査捕鯨: JARPN II

 これまで北太平洋では、「第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(Cetacean Studies in the Western North Pacific under Special Permit: JARPN II)」と呼ばれる調査捕鯨が、2000年と2001年の予備調査を経て2002年から2016年にかけて実施されてきた。毎年のサンプル数は、当初ミンククジラ150頭(沖合100頭、三陸・釧路沿岸50頭)、ニタリクジラ50頭、イワシクジラ50頭、マッコウクジラ10頭とされたが、2005年にはミンククジラのサンプル数が220頭(沖合100頭、三陸・釧路沿岸120頭)、イワシクジラは100頭に増やされた。しかし2014年、国際司法裁判所の捕鯨判決敗訴後、①沖合のミンククジラの捕獲を中止、②沿岸のミンククジラの捕獲頭数を120頭から100頭に縮小、③イワシクジラの捕獲頭数を100頭から90頭に縮小、④ニタリクジラの捕獲頭数を50頭から20頭に縮小、⑤マッコウクジラの捕獲を中止している。
 しかし、こうした捕獲頭数の削減は、ICJ判決のわずか十数日後に決定されており、科学的知見を十分に踏まえた判断とは考えにくい。加えて、判決直前の2013年における沖合でのミンククジラ実捕獲は3頭、マッコウクジラは1頭であり、サンプル数を操業実態に合わせただけとの疑念を拭い得ないものであった。2014年のIWC科学委員会の場で日本はサンプル数を減らした理由について、これは調査目的をJARPN II最大の目的とされる海洋生態系での鯨類の役割の究明と生態系モデルの構築に絞ったからだ、と説明を行ったが(1)、この説明に対して科学委員会は説明不十分として追加説明を求め(2)、JARPN IIについての評価を行ったIWC科学委専門家パネルも同様に、なぜ捕獲頭数を変更したのか、その明確な理由を提示せよ、との勧告を行っている(3)。これに対して日本側は、すでに科学委員会に提出した文書で説明は尽くされているとして(4)、サンプル数修正についての追加説明の努力を諦めざるを得なかった。
 JARPN IIで最大の研究目的とされていたのは、「クジラが多くの魚を食べていて、人間の漁業と競合しているはずだから、この関係を明らかにした生態系モデルを構築して、資源管理に役立てるのだ」というものであった。クジラと他の魚類等を巡る生態系モデルを極めて限定された種のクジラの研究だけで可能なのかという疑問は当初より提起されていたが、JARPN IIの結果をレビューした専門家パネルは、生態系モデリングというJARPN II最大の目的の達成度に関し「現段階ではモデリングの結果は戦略的(資源)管理への対処には適してはいないと本パネルは結論する。少なくとも現状において、鯨類や他の海洋生物資源ないし生態系の保全管理の改善をもたらすものとはならなかった(5)」とほぼ全面否定の評価を下している。

2. NEWREP-NP調査計画

 日本が南極海捕鯨裁判で敗訴した要因の一つとしては、南極での調査捕鯨でも生態系モデルの構築を調査目的と掲げていながら、実際はミンククジラの捕獲ばかりを行い、他の海洋生物の研究も、またモデル構築作業も怠っていた結果、論理的整合性のつかない主張をせざるを得ない結果に追い込まれてしまったことが挙げられる。JARPN IIレビューでも生態系モデルに対して全面否定に近い評価に直面した水産庁は、新調査計画でこの部分を断念せざるを得なくなった。この結果、主要調査目的を①日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出と、②沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出の2つに主たる調査目的を絞った新調査捕鯨計画案を策定、2016年秋に発表している(6)。
 IWCでは商業捕鯨が再開された場合「改訂管理方式(Revised Management Procedure: RMP)」というスキームにより捕獲枠の算定が行われることがIWCで合意されている。商業捕鯨の中止がIWCで決定された最大の原因の一つとして、捕獲頭数算定に必要な種々のデータに不確実性が伴うことから、捕獲枠に関するコンセンサスを得られなかったことが挙げられる。そこでRMPでは、種々の不確実性をシミュレーションとして組み入れつつ、①過去の捕獲頭数と、②現在の推定生息数、という2つのデータのみで捕獲枠を計算することが可能となっている。その一方、その他の補助的データをRMPのシミュレーションに組み込むと、より現実にフィットした精緻なモデルを構築することも可能である。致死的調査によってしか入手不可能なデータがRMPにおけるモデル構築の精緻化に役立つのであれば、調査捕鯨の正当性を科学的に裏付けることも不可能ではない。生態系モデルの構築という余計な「突っ込みどころ」をそぎ落とし、対外的にも説明可能なものとしようと試みたと言えよう。
 以下がNEWREP-NPの主たる調査目的(primary objectives)と二次的調査目的(secondary objectives)である。

① 日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出
(i) 日本沿岸域のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の分布構造の解明
(ii) 日本沿岸域におけるJ個体群及びO個体群の資源量推定
(iii) 太平洋側O個体群に関し枝分かれした個体群が存在しないことの検証
(iv) 年齢データを用いてRMPを改善
(v) レジームシフトがクジラに与える影響について検討

② 沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出
(i) 北太平洋イワシクジラの資源量推定
(ii) RMP Implementationのための北太平洋イワシクジラの生物学的・生態学的パラメータの推定
(iii) RMP Implementationのための北太平洋イワシクジラの個体群構造に関する追加的分析
(iv) 北太平洋イワシクジラのRMP ISTsの具体化
(v) レジームシフトがクジラに与える影響についての検討

 捕獲頭数に関しては、①ICJ判決後中止していた沖合のミンククジラの調査捕鯨を復活し、27頭を捕獲、②沿岸ミンククジラの捕獲を100頭から147頭に増加、③イワシクジラの捕獲を90頭から140頭に増加、④ニタリクジラの捕獲は行わず、⑤マッコウクジラの調査捕獲も実施しない、との内容になっていた。
 以上の調査報告書を一読して筆者が気がかりに思ったのは、ミンククジラに関する捕獲枠が沖合が27頭であるの比べて沿岸分が147頭と突出して多い点であった。とりわけ三陸・釧路沿岸の極めて狭小な海域で100頭が捕獲予定である一方、それよりはるかに広大な沖合での海域の捕獲枠が27頭に過ぎない(図1参照)。商業捕鯨が再開できない沿岸捕鯨業者救済のために捕獲枠を手厚く取った一方、沖合はイワシクジラ主体に操業を行うという商業的・政治的見地から捕獲計画を立てた印象がぬぐえないものであった。
NEWREP-NP map 2.jpg
【図1:NEWREP-NP調査海域図。この図の海域7CSと7CNで100頭、海域7WR・7E・8・9の海域で27頭、海域11で47頭捕獲するという計画であった。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” pp. 81, 84.】

3. NEWREP-NP専門家パネル報告

(1) 専門家パネルの構成

 専門家パネルは2017年1月30日から2月3日まで、日本鯨類研究所や共同船舶が所在する豊海振興ビルから徒歩僅か2分のところにある東京・豊海センタービルで開催された。専門家パネルはIWC科学委議長のCaterina Fortuna(イタリア)ら5カ国(米国6名、英国、イタリア、オランダ、ドイツ各1名)の計10名から構成された。パネルでは午前中に日本側より調査計画の説明と質疑応答が行われるオープンセッション(パネルメンバー、日本側、及びオブザーバーが参加)が開催され、午後はパネルメンバーのみでのクローズドセッションが開催され、調査計画及びパネル報告書の検討が行われるという形式が取られた。日本側提案者として水産庁(諸貫秀樹ら)、森下丈二IWC日本政府代表、東京海洋大(加藤秀弘、北門利英)、日本鯨類研究所、水産研究・教育機構の国際水産資源研究所等が参加した(7)。

(2) 調査の目的

 IWCでは「Annex P」と呼ばれる定める手続きに基づき、提出された調査捕鯨計画案に対するレビューが行われる。レビューは提出された調査計画が、鯨類及びその他の海洋生物資源の保全管理に貢献し得るか、致死的調査以外の代替手段はないか、等々といった観点から行われる。
 NEWREP-NPでの調査目的が鯨類資源等の保全管理に役立つのかという点に関し専門家パネルは、種々の注文を付けている。まず目的①(iv)及び②2(v)でレジームシフトが鯨類にどのような影響を与えるかが調査目的として掲げられている点について疑問を呈する。「レジームシフト」というのは海洋環境が数十年間隔で変化し、海洋生態系が大きく変化する現象のことを指す。確かに海洋環境の大幅な変化によって、クジラの食べる魚の量が大幅に変化し、それが捕食者であるクジラの生息数に対して影響を与えるということは理論的に想像することができる。しかし、NEWREP-NPの実施予定期間は12年間であるにすぎない。レジームシフトは通常数十年単位の変化であるため、12年の調査期間では多く見積もっても1回のレジームシフトがあるのがせいぜいということになる。調査期間に照らして合理性に欠くのではないかとの指摘である。専門家パネルは、これについては主たる研究目的として扱うのではなく、補足的なものにしたほうがよいであろうと勧告する(8) 。
 また日本側が今回主たる目的と主張するRMPへの貢献に関しても疑義を提示する。目的②(ii)のイワシクジラの生物学的・生態学的パラメータの推定はRMPによる鯨類の管理に最重要なものとは言えず、②(iii)の北太平洋イワシクジラの個体群構造に関する追加的分析についても、調査を通じて得られる新情報がRMP改善にどの程度寄与するのかが不明だ、と指摘している(9)。
 加えて、致死的調査の部分がNEWRE-NPで目指されている目的に寄与するかについて、①(i)のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の時空分布という目的に関しては、これまでの調査捕鯨等で得られた既存のサンプルを利用して研究できることが多いはずであり、捕獲を通じて新たにサンプルを得ることによって個体群構造の解明に寄与する可能性は低いと指摘する。また①(iv) と②(ii)で目指されているRMP改善に関しても、既に多数のサンプルがあるのだから、新たなサンプル収集が上記目的に果たして貢献するのか不明だ、疑問を提起した。同様に②(iii)の北太平洋イワシクジラの個体群構造に関する追加的分析に関しは、致死的部分は鯨類の保全管理には有用でないと結論付けた(10)。

(3) 沿岸捕鯨のデザイン

 ミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸でバランスを失していることについても専門家パネルは厳しい批判を行っている。まず前述したとおり、北太平洋沖合での捕獲頭数がたった27頭であるのに比べて三陸・釧路沿岸での捕獲頭数が100頭にものぼっており、これでは港の近くでの捕獲が過剰であると指摘する。
 さらに問題として指摘したのが、沿岸での捕獲が通例の鯨類の科学調査としては大きく異なっている点である。通常の調査では、偏りが生じないようにするため、予め決められたラインの上を調査船は航行し、原則としてここから外れることはない。ところが沿岸での調査では、確かに30カイリまでは調査船は決められた航路にそって航行するが、もしクジラに遭遇しなかった場合は、30カイリ以降はミンククジラを捕獲するため自由に船を動かしてよいという計画になっている(図2参照)。調査計画では「日本沿岸域のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の時空分布」が調査目的になっているにもかかわらず、これではサンプルに偏りが出てしまい、この調査目的達成に対して重大な障害となってしまうではないか、と専門家パネルは批判する。「調査提案者は本件も徹底的に検討すべきであり、現行のデータ収集計画を妥当とする更なる根拠もしくは計画の修正案を提示せよ」と専門家パネルは事実上計画の見直しを要求した(11)。
NEWREP-NP coastal vessels .jpg
【図2:沿岸調査捕鯨船の航路。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

(4) サンプル数

 新北太平洋調査捕鯨計画案の目的の一つが、捕獲によって耳垢を調べることによってクジラの年齢を特定し、このデータをミンククジラの捕獲枠算定に用いられるRMPに役立てることにより、捕獲頭数算定の精緻化に貢献するということにある。この目的を達成するためとして北太平洋三陸・釧路沿岸及び北太平洋沖合分として127頭の捕獲が必要であると日本側は主張する。127頭のミンククジラを捕獲して調査を行った場合、メスのミンククジラ1頭が子供を何頭産むかの割合が10年間で30%以上減少すれば、それを検知することができるからである、というのがその算定根拠とされた(12)。
 ところが、日本側はメスが子供を産む割合が10年間で30%減少したことを検知することができれば、どのように捕獲枠算定の精緻化に貢献することができるのか、その理由を提示していないと専門家パネルは批判する。確かにメスのクジラがどの程度の子供を産むかの割合の変化を知ることは、捕獲枠の算定の精緻化に役立つとの一般論は成り立つし、事実日本側はその旨の主張を行っている。しかしそのことと127頭の捕獲枠が必要であるとの論証は別の話であり、日本側は30%の変化がどの程度捕獲枠の精緻化に貢献するのか、具体的な数字を提示しての説明をどこにも行っていない。加えて、サンプル数は太平洋側の個体群は単一であるとの前提から算出されているが、新調査捕鯨計画での調査目的の一つは、太平洋側O個体群に関し枝分かれした個体群が存在するかしないかを検証することとなっている。これでは結論が前提に既に含まれてしまっていることになってしまう。以上の点等を鑑み、専門家パネルは「提案側は(北太平洋三陸・釧路沿岸での)サンプル数を論証できていない」と結論付けた(13)。
 他方イワシクジラのサンプル数に関して日本側は、このクジラの自然死亡率推定を算定根拠としている(14)。このデータを得られれば、新調査計画の目的の一つであるイワシクジラ捕獲枠算定の精緻化に貢献することができるからだとの理屈である。ところがこれについても、ではこのクジラを140頭捕獲採集することで、どの程度の捕獲枠の精緻化が図られるのか、それを数値としての具体的な論証がなされていない。従って専門家パネルはイワシクジラについても、やはりこの頭数の捕獲が必要であることの論証に失敗しているとの判断を下した(15)。

(5) 致死的調査の必要性

 致死的調査に代替する非致死的調査の一つとして世界で広く用いられるようになってきているのが、バイオプシー調査である。これは、「バイオプシー銃」からバイオプシーダートをクジラに放つなどの方法で皮膚の一部を採取し、これをDNA検査等に用いる方法である。クジラについてもバイオプシー調査は広く取り入れられつつあり、オーストラリアはこの方法で南極海のミンククジラ等の調査を行っている。
日本側はなぜこうしたバイオプシー調査では調査目的達成が不可能で、致死的調査が必要かについて以下のように説明する。すなわち、日本としてもバイオプシー調査を試み、確かにイワシクジラについては成功率が約5割程度であるが、俊敏に動くミンククジラの成功率は25%程度と低い。これに比較してミンククジラの致死的手法によるサンプル採取の成功率は6割以上である。非致死的調査は費用もかかり現実的でない、との理屈である。
 しかし専門家パネルはこれに納得しない。そもそも日本側の提出した文書によると、これまで非致死的調査が試みられたのは北太平洋のミンククジラは23頭にしかすぎず、調査自体の絶対数が極めて少なく、調査時間も足りていない。JARPA IIレビュー時に専門家パネルはバイオプシー調査に熟達した科学者を関与させるべきだと勧告したにもかかわらず、これも日本側は守っていない。日本は致死的調査ばかりに熱心で、非致死的調査を疎かにしておいて、それで「非致死的調査は現実的でない」というのでは到底納得できないとの理屈である。以上の観点から、専門家パネルは「バイオプシー調査が効率的なあるかどうか、もっときちんと評価せよ」との勧告を行った(16)。また、確かに年齢等一部のデータを入手するためには致死的調査が必要であり、こうしたデータが鯨類の保全管理の改善に貢献する可能性が理論上存在しているが、どの種のデータを集めればどの程度NEPRE-NPでの調査目的を達成することができるのか、定量的な評価を行うべきであるとの勧告を行っている(17)。

(6) 資源への影響

 専門家パネルは日本が実施しようとする調査捕鯨は鯨類資源に対する悪影響を与えるも排除できない、とも主張する。
日本側はミンククジラの資源に与える影響の分析に関して、日本周辺には日本海・黄海・東シナ海個体群(J ストック)とオホーツク海・西太平洋個体群(O ストック)の2つの個体群が存在するとの前提で行っている。ところが北西太平洋のミンククジラについてはさらにさらに個体群を分類できるとの仮説が存在しており、日本も個体群の同定をNEWREP-NPの目的の一つとしている。にもかかわらず日本側はこれらの前提を検討していない。加えて、たとえ日本側の個体群の数に関する前提に基づくとしても、Jストックが混獲等により減少する可能性が存在している。これは懸念すべき問題であると指摘したのである(18)。

(7) ロジスティクスとプロジェクト管理

 ロジスティクス面に関して日本側は、日本鯨類研究所では11名の科学者と2名の技術者がNEPREP-NPに携わるとともに、8つの研究機関や大学から約40名の科学者が関与することになるとして、調査は問題なく実施できる体制がそろっていると説明したが、専門家パネルは「これら日本鯨類研究所の研究者はNEWREP-NPだけに関与しているわけではなく、南極海の調査捕鯨NEWREP-Aやこれまで北太平洋で実施してきたJARPN IIの分析の完成にも携わるはずだ」と述べるとともに、JARPN IIの時から指摘していたことだが、日本はクジラを捕獲することにはやたら熱心だが、その捕獲したクジラを使っての定量分析やモデル構築作業が十分なされていない、事実  JARPN IIの文責すら未だ終わっていないではないかと批判する。
 以上に基づき専門家パネルは「NEWREP-NPの研究デザイン、データ分析、及びレビューの改善を行うための、十分高い訓練を受け有能な分析者・モデラーを雇用することを強く勧告する」と述べる(19)。現在の研究体制・人員では分析を行うに十分ではないとの強い批判と捉えられよう。

(8) 結論

 これら諸々の欠点として指摘した事項を総括するかたちで専門家パネルは、①致死的調査部分についてのサンプリング・デザインとサンプル数が十分正当化できていない、②追加的な年齢データが保全管理の顕著な改善に資するとの十分な正当化ができていない、③ミンククジラ捕獲が資源に与える影響についての評価(とりわけ、現在提案者が採用している方法を取った場合、幾つかのシナリオではJストックが減少することになる点)、の3点を主たる懸念事項と挙げ、以下の旨を述べる。

 「本パネルは、(NEPREP-NPの)主たる目的及び二次的目的が保全管理のために重要であると認めるが、その貢献度にはばらつきがある旨合意する。(NEPRE-NP)提案者の行った作業にかかわらず、以下の旨を結論する。(1)本調査提案は致死的サンプリングの必要性とサンプル数についてその正当性を十分に立証できてはいない。とりわけ、IWCにおける管理保全措置の改善にどの程度資するのかを定量的に立証できてはいない。(2)本調査提案の計画の基本的部分に欠陥がある(20)」

 以上を踏まえ、専門家パネルは、NEPREP-NPの致死的サンプリングを伴う部分については同パネル報告書で同定した点につき追加的作業を行い修正を加えるまで実施すべきでないとの判断を下した。

4. 結びに代えて

 NEPREP-NPに対する極めて厳しい判断に直面した日本側は2017年4月5日、計画の一部見直しを行う旨を明らかにし、5月に開催されたIWC科学委員会に対し、当初案でミンククジラ174頭とイワシクジラ140頭を捕獲する予定にしていたところ、ミンククジラ170頭とイワシクジラ134頭に修正した案を提出した。ミンククジラに関しては、沖合を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸を100頭から80頭に引き下げている。このままでは捕獲頭数について到底合理的な主張をすることができないと判断したためであろう(図3参照)。
NEWREP-NP ミンククジラ捕獲頭数.jpg
【図3: NEWREP-NPでのミンククジラ捕獲予定頭数】

 しかし専門家パネルは捕獲頭数に関する問題にも含め計29項目の勧告を行っている。科学委員会は決定を多数決で行うわけではなく、日本側科学者も出席できるため、あくまで自らが「これで十分な説明はついている」と主張し続ければ、科学委員会としてのコンセンサスは得られず、調査捕鯨に賛成する意見が科学委員会で示されたとの記録が残る。日本側としては、調査捕鯨に賛成の意見もあったとして、計画を実施するのであろうと予想される。
 しかしながら国際司法裁判所判決で示された通り、科学調査目的のための捕獲は、調査捕鯨実施国の一方的判断のみによって行うことはできず、調査目的に照らして捕獲頭数が合理的か等客観的な基準によって判断されるべきであるとされている。日本側がどの程度十分合理的な主張を行うことができたか、それに対して各国の科学者はどのような判断を下したかは、科学委員会報告書の発表を待つほかないが、おそらく各国の科学者を納得させる説明を行うことは極めて困難であることが予想される。
 北西太平洋の調査捕鯨は、商業捕鯨モラトリアムにより操業ができなくなっている沿岸捕鯨業者の救済と南極海調査捕鯨を実施している遠洋捕鯨業者(共同船舶)が南極以外でも「裏作」として操業できるようにしているという科学的観点とは異なる背景から実施されていると言え、これに半ば無理やり調査目的を後付けでくっつけている印象を拭えない。
 商業捕鯨モラトリアムの解除がなされない最大の要因は南極での調査名目での捕鯨を続けていることにある。このままでは理論的には再び他国が北太平洋の調査捕鯨を国際法違反であるとして国際海洋法裁判所等に提訴する可能性すら排除できず、こうなった場合、日本は南極海捕鯨裁判同様、あるいはそれ以上に苦しい弁明を強いられる可能性もあるだろう。そもそも、科学を政治的観点から歪曲することは、既にマグロ等において失われつつあるとも危惧される日本の漁業外交における科学的信頼性を更に毀損することにも繋がる。商業捕鯨の再開を真に望むのであれば、「調査捕鯨」という条約の言わば抜け道を用いて苦しい言い訳をこれからも続け、さらに商業捕鯨再開の道を自ら遠ざけるのではなく、全ての国あるいは少なくともモラトリアム解除に必要な4分の3の多数がIWCで得られるような妥協案の策定の努力を行うことが必要なのではないだろうか。


(1) Government of Japan, “Response to SC 65b recommendation on Japan’s Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific (JARPN II),” SC/66a/SP/10, 2015, p. 2.
(2) IWC, “Report of the Scientific Committee (Bled, Slovenia, 12-24 May 2014),” IWC/SC/Rep01 (2014), June 9, 2014, p. 74.
(3) IWC, “Report of the Expert Panel,” SC/66b/Rep06, 2016, p. 10.
(4) Tsutomu Tamura, et. al., “Response to the Report of the Expert Panel,” SC/66b/SP/01, 2016, p. 3.
(5) IWC, “Report of the Expert Panel,” SC/66b/Rep06, 2016, p. 35.
(6) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP).”
(7) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 51, Annex A.
(8) Ibid., p. 20.
(9) Ibid., p. 21.
(10) Ibid., pp. 42-43.
(11) Ibid., p. 29.
(12) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 18.
(13) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 30.
(14) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 33.
(15) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 31.
(16) Ibid., p. 15.
(17) Ibid., p. 15.
(18) Ibid., p. 15.
(19) Ibid., p. 36.
(20) Ibid., p. 44.

北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について:専門家パネル勧告と調査計画最終案 [クジラ]

現在商業捕鯨は日本も加盟する国際捕鯨委員会(IWC)の下で行うことが許されていませんが、同委員会を設けた国際捕鯨取締条約では、第8条で「締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究を目的として(for purposes of scientific research)鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる」と定めています。

但し、南極海捕鯨事件判決で国際司法裁判所(ICJ)は、「要請された特別許可に基づく鯨の捕獲、殺害及び処理が科学的研究を目的としたものか否かは、当該(=捕獲許可を発給した)締約国の認識にのみ委ねることはできない」と、科学研究目的の捕獲許可発給は発給国の一方的判断にのみよるのではないと、判示しています。
ICJ, Whaling in the Antarctic (Australia v. Japan: New Zealand Intervening), Judgement of 31 March 2014, p. 28, para. 61.

ICJでは、当該捕獲許可が第8条に合致するためには、それが客観的に(1)「科学的であること」と(2)科学的研究を目的としたものでなければならないとしており、科学的研究を目的としたものと言えるためには、 調査計画案と実際に行われた調査の種々の要素が、調査計画で謳われている目的に照らして合理的か否かで判断すべきである、と判示しています。

この判決を日本は受け入れており、国際捕鯨委員会でも、調査捕鯨計画については上記判決を組み込んだ評価を行う旨決議しています。

したがって、捕獲頭数等が調査目的に照らして客観的に合理的か否か、国際法上合法であるか(つまり国際法上の脱法操業となっていないか)については、国際捕鯨委員会及びその下部組織である科学委員会での加盟国及び科学者の評価が重要な意味を持つことになり得るでしょう。

日本は今年より北太平洋での新調査捕鯨計画(NEWREP-NP)を実施しますが、これについては2017年1月30日から2月3日に開催されたNEWREP-NP評価のためのIWC科学委員会独立専門家パネルでは、日本政府側の提示した捕獲頭数等に対して調査目的から合理的に説明ができないと事実上全面否定する判断を下したことから、これを受け日本側は調査計画を一部修正しました。
細目については拙ブログ「北太平洋新調査捕鯨計画:IWC科学委での賛否動向について」(http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-06-11)に表を掲載しましたが、以下、主要な論点につきIWC科学委専門家パネル報告の主旨と、これを受け日本側がどのように修正したか見てゆくことにします。

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まず、日本側が当初案で提示した「ミンククジラ合計174頭、イワシクジラ合計140頭」という捕獲頭数について専門家パネルは、この頭数は科学的・合理的にその正当性は立証されない、と全会一致で判断しました。なぜこの頭数であるのか、目的に照らして合理的とは言えない、というものです*。

* IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), pp. 39-31.


特にに問題とされたのが、太平洋でのミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸で大きく異なっていることでした。当初計画では下図の「7CS」と「7CN」という黄色に塗った海域で100頭、「11」という肌色に塗った海域で47頭、「7WR」「7E」「8」及び「9」という水色に塗った海域で27頭を捕獲する計画となっています。
NEWREP-NP map 2.jpg

しかしこの図からもわかる通り、水色のエリアで27頭しか捕獲しないのに、沿岸のごく限られたエリアで残りの147頭を捕獲するということになっています。これは余りにアンバランスで科学的な説明がつかない、というのが専門家パネルの全員一致の見解でした。

これを受け、沖合海域(上記図で水色に塗られた海域)を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸(上記図で黄色に塗られた海域)を100頭から80頭に引き下げました。

これは、当初案では沿岸域(7CS・7CN)75%、沖合域(7WR・7E・8・9)25%の比率で捕獲枠を配分していたところ、最終案では沿岸域60%、沖合域40%としたことによります。

NEWREP-NP ミンククジラ捕獲頭数.jpg
【修正されたミンククジラの捕獲予定頭数。網走沿岸域(海域11:肌色部分)は47頭、釧路・三陸沿岸部分(海域7CS・7CN:黄色部分)は80頭、北太平洋沖合(海域7WR・7E・8・9:水色部分)は43頭である。】

サンプル数の算定根拠は以下のようになっています。

ミンククジラ太平洋側(海域7~9)
当初案
① 成熟したO個体群の雌クジラ加入が10年間で30%変化したことが分かるためのサンプル数として計算し、107頭と算出。
② 沿岸域(7CS・7CN)75%、沖合域(7WR・7E・8・9)25%の比率で配分すると、沿岸域80頭、沖合域27頭
③ 沿岸域にはJ個体群が20%混交するためその分上乗せし、沿岸域100頭、沖合域27頭、合計127頭

http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-3.pdf
【Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP), pp. 25, 109-130.】

最終案
① 成熟したO個体群の雌クジラ加入が10年間で30%変化したことが分かるためのサンプル数として計算し、107頭と算出。
② 沿岸域(7CS・7CN)60%、沖合域(7WR・7E・8・9)40%の比率で配分すると、沿岸域64頭、沖合域43頭
③ 沿岸域にはJ個体群が20%混交するためその分上乗せし、沿岸域80頭、沖合域43頭、合計123頭

http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-6.pdf
【Government of Japan, “Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP), pp. 27, 111-147.】


専門家パネルでは、そもそもクジラ加入が10年間で30%変化することが、捕獲枠の改善にどの程度資するのか、定量的な説明がなされていないため、ゆえにこのサンプル数の算定根拠は正当化されない、と判断しました。

これに対して日本側は、専門家パネルに応えて定量的な根拠を示すのではなく、クジラの加入の変化が捕獲枠の改善に資することは疑いがなく、また他の国際漁業管理機関で同様のデータを用いている、との反論を行いました。したがって、更なる算定根拠の正当化を求める専門家パネルの勧告は拒否されたかたちとなりました。
比率が60%対40%にした根拠については、最終報告書においてその詳細についての言及は見当たらないように思われます。


また、今回の新北太平洋調査捕鯨では、沿岸については、①30カイリまでは直線状のあらかじめ定められた航路を走るが、②30カイリを超えて航行してもなお予定の頭数のクジラを捕獲することができなかった場合、あとは自由に動き回ってクジラを捕まえて構わない、という計画になっています。また、30カイリ以内で1頭捕獲できた場合は陸揚げするため港に帰り、帰る途中でクジラを発見したら、これを捕獲しても構わない、ともなっています。

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【沿岸の調査捕鯨の航路イメージ。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。cは30カイリ内で1頭捕獲できたため、港に帰ろうとしている。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

これについて専門家パネルは、これではサンプルの代表性が保てず、科学的に正当化されない、と全員一致の判断を下しました。
これについて日本側は、自分たちが調査で得ようとしているのは統計学的な捕獲時の年齢解析のために必要な年齢データであるが、これについてはランダムサンプリングは必要がないと反論し*、結果として、沿岸域について「30カイリを超えれば、自由に捕獲できる」とする調査計画の変更はなされませんでした。したがって、専門家パネルの勧告は受け入れが拒否されたかたちとなりました。

* IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 70.

最後にイワシクジラについて、自然死亡率の推定を行うためとして、140頭の捕獲を行うと当初計画で提案しました。

これに対して専門家パネルは、イワシクジラを140頭捕獲採集することで、どの程度の捕獲枠の精緻化が図られるのか、それを数値としての具体的な論証がなされていないとして、この頭数の捕獲が必要であることの論証に失敗しているとの判断を、やはり全会一致で下しました。

これに対する日本側の対応ですが、IWC科学委員会位の後日本側が提出した最終的な調査計画では、イワシクジラについてはやはり捕獲頭数は134頭と6頭を減じていますが、その算定根拠を示した説明書(Annex 16)も、当初案と概ね変わらないものとなっています。したがって、専門家パネルの勧告は受け入れが拒否されたかたちになりました。


次回の国際捕鯨委員会は来年ブラジルで開催予定ですが、専門家パネルの勧告の上記部分については少なくとも受け入れを事実上拒否した北太平洋新調査捕鯨計画は、相当程度の議論を呼ぶことになることが予想されます。

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【昨2016年スロベニアで開催されたIWC隔年会合の模様。筆者撮影】

調査捕鯨:IWC科学委専門家パネル勧告の進捗状況について [クジラ]

本年5月スロベニアで国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)科学委員会が開催され、ここで日本が今年から実施する予定の北西太平洋での新調査捕鯨計画案(NEWREP-NP)が議論されました。この計画についてはこれに先立って開催されたIWC科学委員会独立専門家パネルで「致死的調査の必要性が立証できてはいない」とする厳しい評価を受け、これを改善するための必要なものとして多数の計画修正勧告が行われました。
これらに基づき日本は調査計画を若干修正し、最終のものとしてIWC科学委員会に提出し、科学委員会では専門家パネルの勧告の進捗状況につき検討が行われました。
以下、これら検討の進捗状況を簡単に示すため、十分な修正が行われた改善勧告を達成したものには緑色、部分的に進展が見られたが、勧告を十全に達成するにはまだ至らないものには黄色、勧告に応えておらず、進展が見られないものに赤色をつけてみました。

これで見ると、達成された勧告は10、部分的に達成されたが、部分的に未達成のものは10、進展がみられず達成されてないものは8、となります。
(ただしこの色付けについては判断が分かれるであろう個所もあるため、あくまで参考程度のものです。なおこの記事については今後補正・改訂する可能性があります)

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https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=6557&k=e44fb84b94
【IWC, “Report of the Scientific Committee,” pp. 116-121.】


 現在日本が南極海で実施している調査捕鯨(NEWREP-A)についても、2015年2月にIWC科学委員会独立専門家パネルが開催され、「現在の調査計画は調査目的を達成するために致死的サンプリングが必要であることを立証していない」とする極めて厳しい評価を下すとともに、これに対する改善点として合計29の勧告を行いました。

 上記勧告に関し、日本側は「致死的調査・サンプル数の妥当性の評価に不可欠な作業に関する勧告については、具体的な作業計画を提示し、科学委員会(本年5月)で当該作業の結果を報告する」としました。

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 2017年に開催された科学委員会では南極海の調査捕鯨についても進捗状況につきレビューが行われました。
 そこで、ここでの日本側及び科学委員会からのパネル勧告に関する進捗状況についても、科学委員会報告書をもとに一覧にしてみました。

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 日本側が「致死的調査・サンプル数の妥当性の評価に不可欠な作業に関する勧告」としてもののうち、日本側の評価において未完了であるものは5つのうち2つ、他方科学委員会側から「日本側から新たな情報が提示されなかった」と、進捗がなかったものは5つであることがわかります。

 詳細はIWC科学委員会報告書(IWC, “Report of the Scientific Committee, Annex P: Statements Related to Item 19. Special Permits,” IWC/67/Rep01(2017)pp. 1-8.)をご覧ください。

北太平洋新調査捕鯨計画:IWC科学委での賛否動向について [クジラ]

本2017年5月9日から21日にかけてスロベニアで国際捕鯨員会(IWC)科学委員会が開催されていましたが、その報告書が発表されました。
https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=6557&k=e44fb84b94
【国際捕鯨委員会科学委員会報告書】

ここで日本の北太平洋で今年から実施する予定の新調査捕鯨計画(NEWREP-NP)が検討されました。
新聞によりますと、「IWCが公表した報告書では、日本の主張に賛同する意見の一方、サンプル数の算定などでさらなる作業を求める意見も併記されている」(朝日新聞電子版2017年6月7日21時00分)とされています。

http://digital.asahi.com/articles/ASK674F20K67ULFA012.html
【朝日新聞電子版2017年6月7日21時00分配信「調査捕鯨計画をIWCに提出 水産庁、今月にも開始」】

また水産庁は科学委員会報告書で「『合理的に対応済みで調査の実施は正当化された』との意見が盛り込まれたことを明らかにした」とし、「同庁は“お墨付き”を得たとして、近く同海域で今年度の調査捕鯨を始める」と報道されています。

http://www.sankei.com/life/news/170607/lif1706070061-n1.html
【産経ニュース2017年6月7日22時5分配信「水産庁、調査捕鯨を月内開始へ IWC報告書は「両輪併記」」】

実際科学委員会の報告書の本文でも、「ある国は賛同したが、他の国は反対した」としか記載されていないため、どの国の誰が賛成したかは本文からはわかりません。
ただ、科学委員会の報告書では付録として北太平洋の新調査捕鯨計画に関する賛成意見と反対意見が付されています。ここではどの国(の誰)が賛成/反対したかがわかります。

まず新調査捕鯨計画に賛成を明示的に表明した国として、日本があります。

https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=6557&k=e44fb84b94
【IWC, “Report of the Scientific Committee: Annex P: Statements Related to Item 19. Special Permits,” pp. 18-19.】


報道によると(産経ニュース2017年6月7日22時5分配信)「ノルウェーなどの捕鯨国が日本とともに正当性を主張し」とありますので、日本の他にノルウェーが賛成意見を表明したことがわかります。

他方、新調査捕鯨計画に反対を明示的に表明したのは、以下の科学者です。

G.J. PIERCE(スペイン), R. ALMEIDA(ブラジル), E. ARGUEDAS(コスタリカ), C.S. BAKER(米国), E. BELL(オブザーバー:Earth Investigation Agency), R.L. BROWNELL JR.(米国), E. BURKHARDT(ドイツ), D. CHOLEWIAK(米国), P. CLAPHAM(米国), J. COOKE(IUCN), M.COSENTINO(ルクセンブルク), W. DE LA MARE(豪州), M. DOUBLE(豪州), P. FRUET(ブラジル), P. GALLEGO(ルクセンブルク), A.M. GONZALEZ(コロンビア), N. HIELSCHER(ドイツ), M. INIGUEZ(アルゼンチン), Y.IVASHCHENKO(米国), K. JELIÆ(クロアチア), G LAURIANO(イタリア), R. LEAPER(英国), K. LONG(米国), D. LUNDQUIST(ニュージーランド), S.D. MALLETTE(米国), J. MCKINLAY(豪州), S. PANIGADA(イタリア), S. REEVES(英国),V. RIDOUX(フランス), F. RITTER(ベルギー), J. RODRIGUEZ(コスタリカ), H. ROSENBAUM(米国), M.B. SANTOS(スペイン), M. SCHEIDAT(オランダ), M. SEQUEIRA(ポルトガル), M. SIMMONDS(英国), M. STACHOWITSCH(豪州),A. STRBENAC(クロアチア), E. VERMEULEN(ベルギー), P. WADE(米国), AND A. ZERBINI(ブラジル

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【IWC, “Report of the Scientific Committee: Annex P: Statements Related to Item 19. Special Permits,” p. 18.】

したがって、日本の新調査捕鯨計画に対して「合理的に対応済みで調査の実施は正当化された」との“お墨付き”を与えたことが科学委報告書及び報道からわかる国としては、日本とノルウェー、現段階では科学的に正当化されないと明示的に反対しているのが報告書からわかるのは、スペイン、ブラジル、コスタリカ、米国、ドイツ、ルクセンブルク、豪州、コロンビア、アルゼンチン、クロアチア、イタリア、英国、ニュージーランド、フランス、ベルギー、オランダ、ポルトガル、IUCNの科学者ということになります。


詳細についてはIWC科学委員会報告書をご覧ください。

https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=6557&k=e44fb84b94
【IWC, “Report of the Scientific Committee.”】


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【昨2016年スロベニアで開催されたIWC隔年会合の模様。筆者撮影】

早大国際シンポ「水産物の透明性と持続可能性」⑤:「シーフード・ウォッチ」と「SHUN」プロジェクト [漁業資源管理]

先日早稲田大学で開催された国際シンポジウム「水産物の透明性と持続可能性」ハイライトの続きです。
第2日目の最後の第4セッションでは、水産認証制度がテーマとなりました。
一般の消費者にしてみると、どの魚が持続可能でお勧めなのか、どの魚は持続可能性の観点からやめておいたほうがいいのか、簡単にはわかりません。
そこで、世界では大きく分けて2種類の方法でそれが簡単にわかるようになる取り組みがなされています。
1つは、個々の魚種・海域毎に魚を格付けして「これはお勧め」「これは勧めない」、あるいは点数方式で表すものです。
2つ目は、持続可能性の観点から自信を持って大丈夫と言えるものに対して、エコラベルをつけるというしくみです。
このシンポジウムでは、その双方を取り上げ、それぞれプレゼンテーションいただくとともに、研究者から論点や批判点などが提示されました。

まず1つ目の取組みとして、現在「水産研究・教育機構」で作成が試みられている「SH"U"N」プロジェクトについて、同機構中央水産研究所 水産政策グループ長の牧野光琢さんからプレゼンテーションがなされました。
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このプロジェクトは、各魚を5段階で評価して、消費者に「水産資源の状態を知っていただき、理解したうえで〝うまい〟さかなを食べていただ」くことを目指すもの、とされました。
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具体的な評価の方法としては、「資源の状態」「生態系・環境への配慮」「漁業の管理」「地域の持続性」という5つの角度から評価を行う、との紹介がされました。
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評価結果はウェブ上に公開されるとともに、スマホアプリなども今後作成されるとのことです。
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現在までのところ、マサバ太平洋北部系群巻網漁獲、マイワシ太平洋北部系群巻網漁獲など、4つについて施行評価が終わったのことで、したがって現在「水産研究・教育機構」のHPよりこれら4つについての評価を見ることができるとのことです。
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こうした情報は、今後、各地の団体や企業等が水産認証に申請する際に、これらの情報を活用することが期待できるとのことです。
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講演を通じ、これら「SH"U"N」では、科学的な観点から厳格な評価を行っていることが繰り返し強調されました。こうした科学的観点からの評価にもとづく「SH"U"N」などにより、「科学技術を使いこなす社会」に寄与したい、との意見表明がなされました。
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次に、米国モントレー・ベイ水族館フェデラル・ポリシー・マネジャーのジョシュ・マデイラさんから、同水族館が実施している「シーフード・ウォッチ」についての発表がありました。
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モントレー・ベイ水族館は、カリフォルニア州にある米国有数の水族館で、水族館としての機能の他に、研究機関としての役割も果たしています。
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こうした活動の一環として生まれたのが、「シーフード・ウォッチ」です。
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「シーフード・ウォッチ」では、魚を三段階に分けます。緑がお勧め、黄色は注意、赤は買うのを避けるべき魚です。
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「シーフード・ウォッチ」では、天然魚については①その魚の資源状態はどうか、②他の魚種の混獲などの点で問題がないか、③そのさかなはどのように資源管理されているか、④その魚の生息地やその魚の属する生態系の状態はどうか、といった観点から評価される、との説明が行われました。
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全米のシーフードの85%は「シーフード・ウォッチ」の評価によりカバーされているとのことです。
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「シーフード・ウォッチ」は紙としても配布されていますが、消費者の利便向上を図るためスマホアプリにもなっているとのことです。
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これらプレゼンテーションを受け、学習院大学教授の阪口功さんより「水産認証・評価制度の:現状と課題」と題した発表でコメントが行われました。
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ここで「SH"U"N」の問題として、その評価が果たして科学的に妥当であるかという論点が提起されました。
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まず「資源状態」からの評価基準については、
・データがあるだけで5点という最高評価が得られる。
・資源量がBlimit以下(=資源量が資源回復のための措置を必要となるほどに減っている)であったとしても漁獲死亡係数がFlimitを下回っている(=現状の漁獲水準が取り過ぎの状態にはない)であった場合、あるいは漁獲死亡係数がFlimitを上回っている(=現状の漁獲水準が取り過ぎの状態にある)状態にあっても資源量がBlimit以上(=資源量が資源回復のための措置を必要となるほどに減ってはいない)場合でも3点が得られる。
・資源枯渇リスクが中程度でも3点が得られる。
・環境変化を資源管理に反映せずとも環境変化の存在を把握するだけで3点が得られる。
― など、資源状態からみた評価が科学的に妥当と言えるかとの疑問が提示されました。
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https://www.fra.affrc.go.jp/shun/procedure_manual/procedure_manual.pdf
【水産研究・教育機構「SH"U"Nプロジェクト評価手順書ver1.0.1」。資源量がBlimit以下であったとしても漁獲死亡係数がFlimitを下回っている(=資源量が資源回復のための措置を必要となるほどに減っているが、現状の漁獲水準が取り過ぎの状態にはない)場合、あるいは漁獲死亡係数がFlimitを上回っている状態にあっても資源量がBlimit以上(=現状の漁獲水準が取り過ぎの状態にあるが、資源量が資源回復のための措置を必要となるほどに減ってはいない)の場合でも3点が得られ、環境変化を資源管理に反映せずとも環境変化の存在を把握すれば3点が得られる。】


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https://www.waseda.jp/inst/oris/assets/uploads/2017/02/cb0ad0f574086037b0db1c61419954fc.pdf
【阪口功「水産認証・評価制度の現状と課題」『国際シンポジウム 水産物の透明性と持続可能性 講演資料集』148頁。】

「シーフード・ウォッチ」でも評価対象とされている生態系への影響についても、「SH"U"N」では生態系の調査が行われているだけで3点が付与され、また希少種の混獲や一部の捕食者へ悪影響が懸念されていたとしても、これも3点が付与されるという採点基準の妥当性について疑問が提起されました。
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【水産研究・教育機構「SH"U"Nプロジェクト評価手順書ver1.0.1」。生態系の調査が部分的に行われていれば3点、また希少種の混獲や一部の捕食者へ悪影響が懸念されていたとしても3点が付与される。】


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【阪口功「水産認証・評価制度の現状と課題」『国際シンポジウム 水産物の透明性と持続可能性 講演資料集』148頁。】

「資源管理」の評価基準についても、「漁業者組織の一部が共同購入・共同販売等の活動を行っている」という資源管理とはあまり関係のない基準で3点が付与されるという問題点も指摘されました。
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【水産研究・教育機構「SH"U"Nプロジェクト評価手順書ver1.0.1」。「漁業者組織の一部が共同購入・共同販売等の活動を行っている」場合、3点が付与される。】


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【阪口功「水産認証・評価制度の現状と課題」『国際シンポジウム 水産物の透明性と持続可能性 講演資料集』148頁。】

「SH"U"N」にあって「シーフード・ウォッチ」にはないオリジナルな評価基準と言えるのが、「地域の持続性」という評価軸です。しかし、漁協が黒字であるだけで5点、高級消費用であるだけで5点、果ては高速道路が近くにあるだけで5点という評価がなされており、これは問題であるとの指摘がなされました。
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【水産研究・教育機構「SH"U"Nプロジェクト評価手順書ver1.0.1」。漁協が黒字であるだけで5点、高級消費用であると5点、港・空港・高速道路が近くにあると5点が付与される。】

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なお早稲田国際シンポについては、この後水産認証制度についての残りの発表をもう一度取り上げる予定です。

早大国際シンポ「水産物の透明性と持続可能性」④ [漁業資源管理]

先日早稲田大学で開催された国際シンポジウム「水産物の透明性と持続可能性」ハイライトの続きです。
第2日目では、三宅香・イオン(株)執行役(環境・社会貢献・PR・IR担当)より、イオンの持続可能性についての取組み一般が紹介されたのち、イオンでは2017年4月、「持続可能な調達2020年目標」を定めており、ここで水産物については、イオン連結対象の総合スーパー、スーパーマーケット企業で、MSC、ASCの流通・加工認証(CoC認証) の100%取得をめざすこと、主要な全魚種で、持続可能な裏付けのあるプライベートブランドを提供するとの紹介がありました。
な調達についての基調講演がありました。
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水産物の認証商品についてはまだ数がそれほど多くないため、販促キャンペーンを行うほか一か所に集めてコーナーをつくるといった取り組みがなされているとのことです。
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この基調講演を受け、同じくイオン㈱の山本泰幸さんより、イオンの水産物に関する取組みについてのさらなる紹介がありました。
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ここでは、イオンの定めた「持続可能な調達原則」の紹介が行われたのち、イオンがMSC・ASC認証水産物の調達を拡大する意図として、水産サプライチェーンにおけるトレーサビリティ・持続可能性確保を行うにあたり、それに裏付けになるものとしてMSC・ASCを採用しているとの言及がありました。
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イオンはグローバルに展開する多国籍企業の側面を有していることから、特に重視しているのは、「国際基準」すなわちグローバル・スタンダードであることだ、との指摘がなされました。したがってイオンが採用する認証スキームは、フェアトレードであれMSCであれASCであれ、それがグローバル基準として通用し得るものだから、という点が強調されました。
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 これを受けセッション3では、花岡和佳男・(株)シーフードレガシー代表取締役社長より、「マーケットイニシアティブによるIUU対策とサステイナビリティの追求」と題する講演が行われました。
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ここではまず、水産業と言えば日本では衰退産業というイメージがあり、実際に日本の水産業生産量は右肩下がりだが、これとは対照的に世界全体でみれば水産物生産量が伸びており、成長産業となっていることが指摘されました。
(下の写真の右下の表はFAOによる今後の水産物生産量見通し。日本だけが2025年にはマイナス13.7%と飛びぬけて減少傾向にある)
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こうした世界で成長する水産業のなかで、サステナブルなシーフードが一つのトレンドとなっており、NGO、水産関連ビジネス、政治・行政が連携し、マーケットを中心としたイニシアティブが進んでいることが報告されました。
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こうしたサステナブルなシーフードを支えるものとして、トレーサビリティの確立が必要となってくる旨の指摘がありました。この魚が誰によってどこで獲れたものであり、どのような経路をたどり売り場まで来たのが、等こうしたトレーサビリティを支えるものとして、各企業が調達方針を策定し公開すること、情報の標準化・電子化、情報の検証と担保、情報の透明化が必要になる、との主張です。
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イオンからはMSC、ASCへの取り組みが紹介されましたが、花岡社長からはこれに加えて漁業改善プロジェクト(Fisheries Improvement Project)の紹介がありました。FIPとは漁業者や市場などの様々な関係者が協力し、持続可能な漁業を目指し活動するプロジェクトで、MSC・ASCとともに世界各国で広がりつつあります。日本では「オーシャン・アウトカムズ(Ocean Outcomes)」がこれを実施しています。
日本ではFIP第一号として、東京湾でのスズキ漁業が取り組まれ、この結果FIPの対象である『瞬〆スズキ』が関東の西友主要20店舗で5月から販売されています。
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http://www.oceanoutcomes.org/jp/
【FIPを実施しているOcean OutcomesのHP】


早大国際シンポ「水産物の透明性と持続可能性」③ [漁業資源管理]

先日早稲田大学で開催された国際シンポジウム「水産物の透明性と持続可能性」ハイライトの続きです。
第2日目のセッション3では、井田徹治・共同通信編集委員からの「日本のIUU漁業:その現状と対策」と題する報告の後、本シンポジウム共催者の一つであるThe Nature ConservancyのMark Zimringさんより"Mind the Gap: Tapping advanced technology & data analytics to fill key fisheries information gaps"と題する報告がありました。
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井田編集委員からも指摘のあった違法操業問題を解決するためには、漁獲や報告が適正に行われているか、きちんとモニタリングを行う必要があります。モニタリングが行われなければ、「見ていないから大丈夫」と違法な漁獲、無報告、虚偽報告が蔓延してしまいます。
日本でこのような違法操業が蔓延するのは、性善説ベースの自己申告が中心になっているからだ、と井田さんは指摘されました。
しかしモニタリングをきっちりするためには常時人が見張っていなければならないのか。もしそうだとすれば、コストが非常に高いものになってしまいます。
しかしこれは克服できる、とMark Zimringさんはその一つの解決策として、最新のテクノロジーを用いたEモニタリングの手法を紹介されました。
こうした手法はオーストラリアやカナダなどで実行され、優れた成果を収めている、との内容です。
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このEモニタリングの手法は、日本からも少なからぬ漁船が操業している中西部太平洋のはえ縄マグロ漁にも適用可能だ、とMark Zimringさんは指摘します。これら海域でのはえ縄マグロ漁のオブザーバー乗船率は、操業国の反対もあり、わずか5%にとどまっています。反対の理由の一つとして挙げられるのが、コストの問題です。
しかしモニタリングをビデオカメラや電子的な監視装置などで無人化し、位置情報が直ちにわかるようにしてしまえば、この問題の多くは解決できるはずである、とZimringさんはこうした技術の積極活用を呼びかけます。
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実際にこれを実証するため、パラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島、ソロモン諸島でプロジェクトが実査されているとのことです。当該海域で操業する日本、中国、台湾漁船の協力も得ているとのことです。
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脱法・無報告操業といったIUU漁業を抑止するために資する技術はすでにいろいろ揃っている。Zimringさんの報告は日本の国内漁業においても示唆をもたらすものとも捉えられるでしょう。

早大国際シンポ「水産物の透明性と持続可能性」②

先日早稲田大学で開催された国際シンポジウム「水産物の透明性と持続可能性」ハイライトの続きです。
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第2日目のセッション3では「水産物の透明性と持続可能性の実現に向けた政策・取組み」と題された発表では、井田徹治・共同通信編集委員より「日本のIUU漁業:その現状と対策」と題する講演が行われました。
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「IUU(違法・無規制・無報告)漁業」というと、なんだか遠い外国の話のようにも聞こえます。事実、第一目のセッションでは日本側講演者は、主として日本近隣でのIUU漁業が取り上げられました。
しかし、密漁・脱法・無報告操業は勿論「IUU漁業」そのものです。
残念ながら日本では水産物のトレーサビリティ確保の取組みが著しく遅れているのみならず、密漁・脱法操業が蔓延しており、政府統計によるとむしろ増加傾向にあるとの事実が紹介されました。
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特にシラスウナギ(ウナギの稚魚)の密漁は蔓延しており、流通しているウナギの70%がIUU由来である可能性がある(中央大学海部健三准教授調べ)との紹介が行われました。
これはつまり、コンビニやスーパーでふつうに並んでいる国産のウナギの蒲焼10匹のうち7匹は出自が違法・無報告のものであり、シラスウナギの密漁には反社会勢力が関係している場合もあることから、ウナギの蒲焼を買うと、そのうちの一部はこうした勢力の資金源になっている可能性も否定できないということを意味します。
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また、太平洋クロマグロに関しても未報告操業や密漁が多発しているとの報告が行われました。
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こうした日本国内のIUUについては、漁業法での罰則規定があるのですが、3年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金でしかなく、しかも懲役刑となる事例は極めて少ないとの指摘が行われました。都道府県の漁業調整規則に違反してシラスウナギを取ったり、売ったりしても罰金は10万円が相場であり、これでは一回の密漁をして得られるお金と罰金を比べると、密漁で得られる利益のほうが大きくなってしまうため、密漁に対する抑止策として機能していない、と井田さんより指摘がありました。
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外国人に対しての罰金上限は3000万円であるのに比較しても、国内のIUUの罰金上限が300万円であるのも犯罪抑止に十分繋がっていないばかりか公平性に欠ける、と主張されました。
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最後にまとめとして、日本ではIUUが横行しており、処罰も十分なものとなっておらず、そもそも漁獲などの情報提供が自己申告という性善説ベースになっていること、特にウナギ、マグロなどについては特段の措置が必要である、と結論付けられました。
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この発表などを受け北海道漁連の代表の方からも、自分たちとしても密漁の問題は生活に直結する大変切実な問題であり、大きな被害を受けている、もっと積極的に国内の密漁問題に取り組みを行うことが必要不可欠であると強く訴えるコメントがなされました。
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この後、フロアより水産庁の方から、我々としても何もしていないわけではなく、密漁に対して鋭意取り組んでいる、まだまだIUU問題は緒に就いたばかりだが、ゆっくりだが着実に一歩一歩、違法操業対策に取り組んでいきたい、との見解の表明がありました。
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これに対して、井田さんは以下のようにコメントされました。
「話の中で指摘しましたが、日本は密漁大国で規制も罰則もユルユルです。ご存じのようにクロマグロの保護問題が最初に国際的なテーマに上がったのは1992年のワシントン条約会議。2000年前後には欧米では漁業資源の深刻な減少やメロなどの違法漁獲が大きな問題となり、今世紀初めには多くの論文や書物によって警鐘が鳴らされました。サバトロの本を書いてシーフードウオッチやMSCのことを紹介したのが05年、ウナギの本を出したのは07年でした。今日、コメントしましたが、それからどれだけの時間がたったでしょう?日本の行政がどれだけの対策を講じたでしょうか?技術も政策も諸外国の経験も目の前にありながら、この有様です。政治的な意思もsense of urgency つまり危機感もありませんでした。最早言い訳はできません。残され時間はわずかです。四の五の言わずに行動する時です。」
会場から大きな拍手が起こりました。本シンポジウムの一番の盛り上がりどころとなりました。

なお、シンポジウムのスライドについては以下からダウンロードすることができます。
https://www.waseda.jp/inst/oris/assets/uploads/2017/02/cb0ad0f574086037b0db1c61419954fc.pdf


北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について [クジラ]

現在スロベニアで国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)科学委員会が開催されており、ここで日本が今年から実施する予定の北西太平洋での新調査捕鯨計画案(NEWREP-NP)が議論される予定です。この計画についてはこれに先立って開催されたIWC科学委員会独立専門家パネルで厳しい評価を受け、こうしたことから日本は調査計画を若干修正しています。そこでこの新調査捕鯨計画案の論点を紹介してみます。

日本が敗訴した南極海調査捕鯨裁判で国際司法裁判所は、捕獲調査が国際法上合法であるためには調査捕鯨実施国の一方的判断だけでは足りず、客観的に当該捕獲調査がこれを認めている国際捕鯨取締条約の規定に基づき、(1)それが科学的であり、かつ(2)科学的研究を目的としたものでなければならないとするとともに、科学的研究を目的としたものであると言えるためには、捕獲頭数が調査計画に照らして合理的か、調査計画から得られた成果は十分か、非致死的調査方法を最大限利用しており、利用できないときだけ致死的調査にしているか、という観点から客観的に合理的でなければならないとしています。そしてこの判決を日本は受け入れる旨表明しました。

北太平洋で新たに実施を計画してる新調査捕鯨計画では、もし商業捕鯨が再開された場合、そのための捕獲頭数の計算に対して資するデータの収集を目的としています。
現在の商業捕鯨の捕獲枠計算方式は、①過去の捕獲実績と、②推定資源量、の2つがわかれば計算することができるものとなっており、推定資源量は調査船が一定の決められたラインをジグザグ状に航行してクジラを目視調査することによって割り出すことができるものとなっています。つまり、捕獲頭数の設定については、捕殺は必ずしも必要とはされていません。
但し、①過去の捕獲実績と、②目視調査により得られる推定資源量、の2つのデータ以外のデータを用いて、捕獲頭数をより精密に割り出すことはできます。これは「コンディショニング(conditioning)」と呼ばれます。このコンディショニングに捕殺によってしか得られない年齢データなどを用いて、より精密な捕獲頭数を割り出す、というのが日本側の調査目的となっています。

捕獲頭数に関しては、①北太平洋沖合でミンククジラを27頭、北太平洋沿岸で147頭、②イワシクジラを140頭、それぞれ捕獲するという計画になっています。

この計画について、IWC専門家パネルは、以下のような判断を下しました。

まず、捕獲頭数については、この頭数は科学的・合理的にその正当性は立証されない、と全会一致で判断しました。なぜこの頭数であるのか、目的に照らして合理的とは言えない、というものです。

特に問題とされたのが、ミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸で大きく異なっていることでした。当初計画では下図の「7CS」と「7CN」という黄色に塗った海域で100頭、「11」という肌色に塗った海域で47頭、「7WR」「7E」「8」及び「9」という水色に塗った海域で27頭を捕獲する計画となっています(色はわかりやすいように私がつけました)。
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【Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” pp. 81, 84.】

しかしこの図からもわかる通り、水色のエリアで27頭しか捕獲しないのに、沿岸のごく限られたエリアで残りの147頭を捕獲するということになっています。これは余りにアンバランスで科学的な説明がつかない、というのが専門家パネルの全員一致の見解でした。

加えて、沿岸の黄色の水域と水色の水域では、調査方法が通常の調査と全く異なっていることが問題視されました。
先述したとおり、これまでのクジラの生息数調査では偏りが生じないようにするため、あらかじめ決められたジグザグ状の航路を辿る方法が取られています。日本がこれまで行ってきた、そして現在も行っている南極海での調査捕鯨でも、また北太平洋新調査捕鯨計画の沖合部分についても、この「あらかじめ定められたジグザグ状の航路を走る」という方法が採用されています。
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【北太平洋新調査捕鯨計画の沖合部分での調査航路。ジグザグ状の航路をたどる予定になっていることが分かる。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 132.】

ところが、今回の新北太平洋調査捕鯨では、沿岸については、①30カイリまでは直線状のあらかじめ定められた航路を走るが、②30カイリを超えて航行してもなお予定の頭数のクジラを捕獲することができなかった場合、あとは自由に動き回ってクジラを捕まえて構わない、という計画になっています。
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【沿岸の調査捕鯨の航路イメージ。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

確かに、この北太平洋新調査捕鯨計画の実際の目的は、商業捕鯨再開ができない現状で、小型の捕鯨船しか持たない捕鯨業者の救済という側面があるのかも知れません。小さい捕鯨船でわざわざ遠洋まで漕ぎ出すのは物理的にも経済的にも困難であるという事情もあるのかも知れません。
ただ、調査捕鯨は科学目的で行わなけば国際法違反の操業すなわち国際法上の脱法操業になってしまいます。ゆえに科学目的であることは国際法上も必須条件となります。そして科学目的であるか否かは調査捕鯨実施国の判断にのみ基づくものではない、というのが国際司法裁判所の判断です。日本はこの判決を受け入れました。

では科学者はどう判断したか。このような状態では、サンプルの代表性が保てない、科学的に正当化されない、というのがIWC科学委員会専門家パネルの全員一致の見解となりました。

また、新調査捕鯨計画では、非致死的調査の可能性をきちんと調べていない、と専門家パネルは判断しました。

加えて、現在の調査計画では、日本海・黄海・東シナ海にある「Jストック」と呼ばれる個体群が減少する可能性も否定できない、との懸念が表明されました。

以上等に基づき、IWC科学委員会専門家パネルは全会一致の見解として、以下の判断を下しました。

「本パネルは、(北太平洋新調査捕鯨計画の)主たる目的及び二次的目的が保全管理のために重要であると認めるが、その貢献度にはばらつきがある旨合意する。(北太平洋新調査捕鯨計画)提案者の行った作業にかかわらず、以下の旨を結論する。(1)本調査提案は致死的サンプリングの必要性とサンプル数についてその正当性を十分に立証できてはいない。とりわけ、IWCにおける管理保全措置の改善にどの程度資するのかを定量的に立証できてはいない。(2)本調査提案の計画の基本的部分に欠陥がある」
(IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 44)

こうした極めて厳しい判断を受け、水産庁はIWC科学委員会に修正を行った調査計画書を提出しました。
当初案でミンククジラ174頭とイワシクジラ140頭を捕獲する予定にしていたところ、ミンククジラ170頭とイワシクジラ134頭に修正し、ミンククジラに関しては、沖合海域(上記図で水色に塗られた海域)を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸(上記図で黄色に塗られた海域)を100頭から80頭に引き下げ、これがIWC科学委員会で検討されています。
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【修正されたミンククジラの捕獲予定頭数。網走沿岸域(海域11:肌色部分)は47頭、釧路・三陸沿岸部分(海域7CS・7CN:黄色部分)は80頭、北太平洋沖合(海域7WR・7E・8・9:水色部分)は43頭である。】

毎日新聞の太平洋クロマグロの記事・補足:境港での巻網の水揚量 [マグロ]

毎日新聞井田純記者によるクロマグロ特集記事「クロマグロなぜ絶滅危機 まき網で幼魚乱獲、政府の規制後手」(2017年5月18日付)のなかで「この背景について、水産庁時代に捕鯨やマグロ漁業などの交渉にあたった東京財団上席研究員の小松正之さんが解説する。「水産庁が日本近海での実効ある資源管理制度を導入できず、大中型まき網漁船がイワシやアジ、サバを取りつくしてしまったことが原因です」。取るものがなくなったまき網船や沿岸の小型漁船が小型クロマグロを取るようになった、というのだ」との記述があります。

そこで、クロマグロ巻網水揚量が日本で一番多い境港での他の魚種の水揚量をグラフにしてみました。
境港におけるまき網年別魚種別水揚量.jpg
出典は鳥取県の以下のHPです。
http://www.pref.tottori.lg.jp/87005.htm
【鳥取県「境港の年別まき網水揚量 」】

とりわけマサバ、ウルメ、カタクチ、マイワシが1990年代以降漁獲量が激減していることをデータが示しています。

こうしたなか、2004年より境港でのクロマグロの水揚量が急増してゆきます。
境港巻き網クロマグロ水揚げ状況.jpg
http://www.sakaiminato.net/site2/page/suisan/conents/report/maguro/
【境港市水産課「境港におけるクロマグロの水揚状況について(まき網)」】

図中にある「平均体重」とは、単に水揚量を水揚げ尾数で割ったものです。
境港市水産課の上記HPでは、以前は水揚げ尾数を公表していましたが、2015年分以降このデータを公表しなくなりました。したがって図中にある平均体重は以前同HPに掲載されていたデータを用いています。
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