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マグロ類消費世界一の責任-国際資源管理と日本の政策(『グローバルネット』寄稿) [マグロ]

 今回は地球・環境人間フォーラム発行の『グローバルネット』第324号(2017年11月)に寄稿しました日本のカツオとマグロに関する外交に関するエッセイを転載します。
 なお、掲載された原稿をPDF化したものをこの記事の最後にあるリンク先からダウンロードできるようにしました。

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【中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第13回年次会合(2017年12月)の模様。筆者撮影】

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マグロ類消費世界一の責任-国際資源管理と日本の政策
真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構 研究院客員准教授)

 日本は世界で漁獲・養殖されるまぐろの約5分の1を消費する世界最大のかつお・まぐろ類の消費国であるとされる。スーパーに行けば、我々は気軽にこれらを買うことができる。
 人には国籍があるが、魚には国籍はない。かつお・まぐろ類は日本近海のみならず他国の水域や公海にまたがって回遊する以上、資源保護の取り組みは漁獲国や沿岸国が協力して行わなければならない。このため日本沿岸を含む西太平洋については「中西部太平洋まぐろ類委員会(Western and Central Pacific Fisheries Commission: WCPFC)」という国際資源管理機関の下で保存管理が試みられている。
 このWCPFCの場で水産庁を中心に構成される日本政府代表団が以前から訴えてきたことが、カツオとメバチマグロの資源保護策の強化である。カツオについては近年日本近海に回遊する資源量が減少傾向にあり、これは熱帯域で多くのカツオを「先取り」してしまうからではないか、と日本側は訴えている。メバチマグロについても、人口集魚装置(Fish Aggregating Devices: FADs)を用いて熱帯域で巻網という巨大な網で魚を一網打尽にする漁法によって乱獲されているとして、日本側はWCPFCで資源保護策の強化を強く求めている。
 しかしこれに対して熱帯域の漁獲国は立場が大きく異なる。カツオについては、そもそも熱帯域での漁獲と日本近海での漁獲には関連性が薄く、日本近海での資源減少は日本自身による取り過ぎが原因ではないかというのがこれら諸国の意見である。また、親魚資源量も初期資源量(漁業がないと仮定したときの資源量)比で50%を超えているとされており、WCPFCでこの資源に対して設定されている「不合格ライン」の初期資源量比20%を大幅に上回っている。メバチマグロにしても、WCPFCの下に設けられている科学委員会で今年示された資源評価によると、親魚資源量は初期資源量比20%という「不合格ライン」を超えている可能性が高いとされている。
 日本側はこうした資源評価自体が楽観的だと批判している。そもそもこの資源評価はWCPFC科学委員会自体が実施するのではなく、太平洋の島嶼国やオーストラリアなどで構成される太平洋共同体(SPC)メンバーの科学者が実施し、科学委員会はこれを評価するに過ぎない。太平洋諸国等は言わば「お手盛り」の資源評価をして自分たちへの規制を強めないようにしているのではないか、との疑念を持つ日本側関係者も少なくない。
 ただ、こうした日本代表団を支持する声はWCPFCでは、環境NGOを含め、極めて少ない。日本側は自分が「被害者」の立場であるカツオやメバチでは資源保護強化を訴えておきながら、「加害者」側の立場になると文字通り意見を180度変えてきたという事実があることがその要因の一つと言えるだろう。
 まぐろ類のなかでも最も高価なクロマグロは現在初期資源量比2.6%と危機的水準にあるとされており、IUCNは絶滅危惧種指定している。この資源の大半は日本によって漁獲されている。これに対してカツオやメバチと同様、初期資源量比20%を中期回復目標と設定して資源保護を図れと米国など他の加盟国からさんざん言われてきたにも拘わらず、水産庁はこれまで頑なにこれを拒否し続けてきた。また同じWCPFC管轄魚種でもクロマグロなどの北太平洋の資源については「北太平洋まぐろ類国際科学小委員会(ISC)」という日本の科学者が多数参加するフォーラムで評価が行われてきたが、これについては運営が透明性に欠けるとの批判がWCPFC加盟国や各国の科学者・専門家からも上がっていた。カツオやメバチについては乱獲を指弾しておきながら、クロマグロになると自国の乱獲を擁護し、SPCでの資源評価は不透明性だと疑念を持ちながら、自分たちが中心とのISCについては不問に付す。立場に一貫性が見られないのである。
 筆者の専門分野でもある政治学では「ソフトパワー」という概念がある。米国の政治学者ジョセフ・ナイが名付けたものであり、強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力のことを指している。軍事力や経済力によって相手に何か本当はしたくないものを〝押し付ける〟のが「ハードパワー」である一方、科学的・専門的知見や主義主張等によって相手になるほどと思わせ、自分の考え方に〝引き寄せる〟のが「ソフトパワー」である。注意しなければならないのは、「ソフトパワー」とは〝押し付ける〟ではなく〝引き寄せる〟力なのであって、主張に〝引き寄せる〟ためには、その主義主張が一貫してなければならない。主張の一貫性、それこそが水産庁によるまぐろをめぐる日本の漁業資源外交にともすれば欠けてきたものである。
 これに類する問題はカツオ・マグロだけにとどまらない。例えば秋の味覚であるサンマの不漁が近年マスコミを賑わせており、これについて日本は「北太平洋漁業委員会(NPFC)」というこの魚種を管理する国際委員会で資源保護強化を訴えている。ただNPFC科学委員会は当該資源が乱獲状態に陥っていると評価しておらず、漁獲を近年急増させてきた中国、台湾など他の漁獲国の腰は重い。日本はこれに対して、たとえ資源は乱獲状態に陥っていないとしても、それ以前の段階から十分予防的な対策を講じるべきであるとNPFCで訴えている。しかし日本は中国などの漁獲急増が起こる前、サンマの資源保護に対して実際の漁獲量を上回る漁獲枠を設定するのみで、何の実効的な国内資源管理策を実施してはこなかった。ろくな資源管理を国内的にしてこなかった国がいくら保護的な資源管理を国際的に訴えても、それに耳を傾ける国がどれほどいるだろうか。
 日本は世界有数の魚の漁獲国であり消費国である。もし日本が厳格な資源管理対策を国内的にも実施して資源回復に成功すれば、それは一つの成功モデルとなるだろう。徹底した資源管理とその成功を背景に国際的にも資源保護を訴えるならば、日本の主張は〝引き寄せる力〟を有するようになるだろう。
 クロマグロについて日本はWCPFCでの各国からの強い批判に押される形で、今年ついに初期資源量比20%を中期目標とし、2034年までにこの水準まで回復させることに合意した。今後はこれに基づき、既にWCPFCで設定されている漁獲枠を遵守し、資源回復を図るため国内的な措置を着実に実行することが必要である。クロマグロの資源が低位にある限り、カツオやメバチのことをWCPFCで訴えても、「クロマグロに比べれば全然ましではないか」と太平洋諸国はクロマグロを言わば「カード」として使ってくるだろう。そうした負のカードを日本は一刻も早く捨て去らなければならない。
 WCPFCを巡るまぐろ資源外交で日本がリーダーシップを取るためには、まず最低条件として、クロマグロを可及的速やかに資源回復させなければならない。他のマグロや魚種についても同様に、徹底した資源管理を実施して世界に一つの範を示す必要があるだろう。その上で、どの交渉の場でも首尾一貫して予防的な資源管理という立場を貫くこと、それが我が国が漁業資源外交の分野での「ソフトパワー」を発揮し、国際社会において名誉ある地位を占めるための条件なのである。

https://www.dropbox.com/s/gogf3hwpeecqrqe/%E7%9C%9F%E7%94%B0%E3%80%8C%E3%81%BE%E3%81%90%E3%82%8D%E9%A1%9E%E6%B6%88%E8%B2%BB%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E3%81%AE%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E3%80%8D.pdf?dl=0
【真田康弘「マグロ類消費世界一の責任-国際資源管理と日本の政策」『グローバルネット』第324号(2017年11月)、16~17頁】





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「捕鯨と環境倫理」研究会発表資料 [クジラ]

本日(2017年11月19日)国立民族学博物館で開催された「捕鯨と環境倫理」研究会での私の発表分の報告資料をアップロードしました。以下のリンク先からダウンロードできます。

https://www.dropbox.com/s/91pymd092l9m5si/ICJ%E6%8D%95%E9%AF%A8%E8%A3%81%E5%88%A4%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%BE%8C%E3%81%AE%E5%B1%95%E9%96%8B.pptx?dl=0
【真田康弘「ICJ捕鯨裁判とその後の展開」(「捕鯨と環境倫理」研究会発表資料)】

内容は、国際司法裁判所(ICJ)での南極海捕鯨裁判(豪州対日本)についてと、その後の国際捕鯨委員会での議論についてです。国際司法裁判所の口頭弁論のビデオクリップが多数入っているので、ダウンロードするのにやや時間がかかるかも知れません。

ビデオクリップの入れていないものについては、以下からダウンロードできます。

https://www.dropbox.com/s/snsptwb0tbutxkf/ICJ%E6%8D%95%E9%AF%A8%E8%A3%81%E5%88%A4%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%BE%8C%E3%81%AE%E5%B1%95%E9%96%8B%EF%BC%88%E9%85%8D%E5%B8%83%E8%B3%87%E6%96%99%EF%BC%89.pptx?dl=0
【真田康弘「ICJ捕鯨裁判とその後の展開」(「捕鯨と環境倫理」研究会発表資料)(動画なし)】

なおこのビデオクリップにも出てくるICJ捕鯨裁判については、共著にて以下のものを執筆いたしました。

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E6%8D%95%E9%AF%A8%E8%A3%81%E5%88%A4%E3%81%AE%E5%8B%9D%E8%80%85%E3%81%AF%E3%81%A0%E3%82%8C%E3%81%8B-%E7%9F%B3%E4%BA%95-%E6%95%A6/dp/4487809258
【石井敦・真田康弘『クジラコンプレックス:捕鯨裁判の勝者は誰か』2015年、東京書籍】

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日本の調査捕鯨は違法か [クジラ]

 今回は2015年12月に発行されたニューズレター『IKA Net News』第62号、5~12頁に寄稿した文章を掲載しました。脚注の引用のリンクが切れてているかもしれませんが、原文そのまま掲載します。
 なお、元の原稿についてはPDFファイルにしたものをこの文章の一番最後にあるリンク先からダウンロードすることができるようにしました。

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日本の調査捕鯨は違法か:義務的管轄権受諾宣言とNEWREP-A最終案
真田康弘(早稲田大学)
 
 2015年10月、日本は国連事務総長に対し、海洋関係の問題については国際司法裁判所(International Court of Justice: ICJ)の義務的管轄権から除外するとの宣言を行うとともに、同年12月に「新南極海鯨類科学調査(New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean : NEWREP-A)」と題する南極海での科学調査名目での捕鯨に対する捕獲許可証を正式に発給した。とりわけ日本の「調査」捕鯨再開は「日本は国際司法裁判所の判決を事実上破った」と諸外国において驚きをもって報じられた。
 そこで本稿では、まず日本の義務的管轄権受諾宣言の変更とのその意義について明らかにした後、NEWPREP-A最終調査計画書を分析し、その問題点すなわち調査目的に照らし計画が合理性を有さないため国際法上違法ではないのかとの点について検討を試みたい。

1. 日本の義務的管轄権受諾宣言変更

ICJに訴訟を提起するためには、紛争当事者がICJの管轄権を受諾している必要がある。つまり、一方が提訴しても、他方がICJの裁判管轄権を受諾しなければ、ICJは裁判をすることができない。例えば日本は2012年8月、韓国に竹島問題のICJ付託を提案したが、韓国がこれを拒否したため、ICJはこの問題に対して裁判をすることはできない。
その一方、ICJは規程第36条2項で、この規程の当事国は、条約の解釈等に関するすべての法律的紛争についての裁判所の管轄を、同一の義務を受諾する他の国に対する関係において当然に且つ特別の合意なしに義務的であると認めることを、いつでも宣言することができると定めている。これがICJの義務的管轄権と呼ばれるものである。この宣言を行うか否かは各国が自由に選択できることから「選択条項受諾宣言」とも呼ばれている。日本が南極海捕鯨裁判で豪州から提訴された際、これに応じざるを得なかったのは、日本が義務的管轄権受諾の宣言を行っていたためである。
日本が最初にICJ強制管轄権受諾宣言を行ったのは、1958年のことである。すなわち同年9月15日付ハマーショルド国連事務総長宛宣言書により、「この宣言の日付以後の事態又は事実に関して同日以後に発生するすべての紛争であって他の平和的解決方法によって解決されないものについて、国際司法裁判所の管轄を、同一の義務を受諾する他の国に対する関係において、かつ、相互条件で、当然にかつ特別の合意なしに義務的であると認める」と宣言している(1)。その後日本は2007年7月9日付潘基文国連事務総長宛の宣言書で、改めてICJの義務的管轄権を受諾しているが、この新たな宣言書では、紛争の他のいずれかの当事国が「当該紛争との関係においてのみ若しくは当該紛争を目的としてのみ国際司法裁判所の義務的管轄を受諾した紛争」または「国際司法裁判所の義務的管轄の受諾についての寄託若しくは批准が当該紛争を国際司法裁判所に付託する請求の提出に先立つ12か月未満の期間内に行われる紛争」には適用されないとの文が挿入されている(2)。これは、強制管轄受諾宣言を行っていなかった国が日本との紛争をICJに付託する目的で急遽宣言を行い、その直後に紛争を付託するという「不意打ち提訴」に応じないためのものである(3)。
ICJ捕鯨判決(2015年3月)の約1年半後の2015年10月6日付で潘基文国連事務総長宛に送付された今回の宣言書では「海洋生物資源の調査、保存、管理又は開発により生じるか、関するものか、又は関連するいかなる紛争(any dispute arising out of, concerning, or relating to research on, or conservation, management or exploitation of, living resources of the sea)」についてはICJの強制管轄を認めないとの新たな一文が挿入されている(4)。これについて外務省は「海洋生物資源に関する規定が置かれ,また,科学的・技術的見地から専門家の関与に関する具体的な規定が置かれている国連海洋法条約上の紛争解決手続を用いることがより適当」であるためと強制管轄除外の理由を説明している(5)が、柴田明穂神戸大学教授(国際法)が指摘する通り「南極海での調査捕鯨の再開(及び北西太平洋の調査捕鯨の継続も)は国際法的に危うい、少なくともICJに持って行かれるのはいやだ、というメッセージ (6)」と解することもできよう。
では、日本が今後海洋関係の紛争で提訴された場合に応ずるとしている国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea: UNCLOS)の下での紛争解決手続きとはどのようなものか。同条約第286条はまず、UNCLOSの解釈または適用に関する紛争で交渉等によって解決が得られなかったものは、いずれかの紛争当事国の要請により、管轄権を有する裁判所に付託されると規定する。締約国は国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所、特別仲裁裁判所のいずれかの管轄権を義務的なものとして予め選択的に受諾を宣言することができる(287条1項)。紛争当事国が同一の裁判所を選択している場合は、当事国が別段の宣言をしない限り、その裁判所に付託される(同条2項)。紛争当事国の宣言に共通の裁判所が存在しない場合は、仲裁裁判にのみ付託されることになる(同条3項)。したがって仮に豪州が日本をUNCLOSに定める義務的紛争解決手続きに付託する場合で同一の裁判所を選択していない場合は、別段の宣言をしない限り、仲裁裁判所に付されることになるであろう。この場合、日本は裁判を回避することはできない。
なお、国際海洋法裁判所は21名の裁判官で構成される(付属書Ⅵ、国際海洋法裁判所規程2条1項)。仲裁裁判所は5名の仲裁人で構成される。仲裁人5名のうち原告・被告側が各々1名を選任し、残りの3名は原告・被告双方の合意により選任される。原告・被告側が各々選任する仲裁人は自国民とすることができるが、双方が合意した3名については、紛争当事国が別段の合意をしない限り、第三国の国民としなければならない(付属書Ⅶ第3条)。
では、ICJで裁判を行う場合と、UNCLOSの下での裁判では法の適用に関してどのような違いが生ずるか。この点に関してケンブリッジ大博士研究員のMichael A Beckerは、UNCLOSに定める国際裁判の手続きに付されるのは「この解釈又は適用に関する紛争」(286条)であり、国際捕鯨取締条約の解釈は直接的には海洋法条約上の義務的手続きに付されるものではない、という点を指摘している。つまり豪州がUNCLOSに基づき再提訴する場合は、NEWREP-Aの実施がUNCLOS違反であると主張する必要がある。UNCLOS第65条及び120条は「いずれの国も、海産哺乳動物の保存のために協力するものとし、特に、鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する」と規定していることから、NEWREP-A実施を同条に基づく協力義務に違反していると主張することは可能であろうが、この立証は国際捕鯨取締条約違反より困難であろう(7)。
では、UNCLOSでの裁判手続きでは豪州は勝訴の公算がないのであろうか。これに関しては第87条及び第116条の存在を指摘したい。第87条では「公海の自由は、この条約及び国際法の他の規則(other rules of international law)に定める条件に従って行使される」とされ、この公海の自由には、「科学的調査を行う自由(freedom of scientific research)」が含まれる、と規定されている。また、第116条は「すべての国は、自国民が公海において」「自国の条約上の義務」に「従って漁獲を行う権利を有する」と定めている。しかるに、国際捕鯨取締条約は第87条に言う「国際法の他の規則」に当然含まれ、日本が公海で鯨類を捕獲する際には、国際捕鯨取締条約における「自国の条約上の義務」に服する必要がある。したがって、科学調査目的の捕獲許可発給を規定した国際捕鯨取締条約第8条に違反した鯨類の捕獲は、「国際法の他の規則に従っ」た「科学的調査」ではなく、「自国の条約上の義務」に服していないと解釈され得る。
こうした法的議論が可能なことは、豪州側も既に認識しているのではないかと考えられる。というのも、豪州が日本をICJに提訴する際の法的議論のベースの一つとした報告書に調査捕鯨が第87条と116条に抵触するとの記述が見受けられるからである(8)。
なお紛争が義務的管轄権を有するとして申し立てを受けた裁判所は、「紛争当事者のそれぞれの権利を保全し又は海洋環境に対して生ずる重大な害を防止するため」に適当と認める暫定措置を定めることができる(290条1項)。当事者間が義務的管轄権を有する裁判所について合意がない場合は仲裁裁判所に付託されることになるが(287条3項)、裁判官の選任等設立までに時間を要することが予想されることから、国際海洋法裁判所は「事態の緊急性により必要と認める場合」、暫定措置を定めることができる(第290条5項)。豪州及びニュージーランドは1999年に日本を相手取りミナミマグロの調査漁獲の即時停止を命じる暫定措置を同290条5項に基づき国際海洋法裁判所に請求したことがあり(9)、従って同様にNEWREP-Aに対してその停止を求める暫定措置命令を求めることも理論上考えられ得る。

2. IWC科学委での議論

NEWREP-AはIWC科学委員会の下に設置された専門家パネルで2015年2月レビュー会合が行われたが、同パネルは捕獲予定数の333頭についての根拠が薄弱であること、非致死的調査を十分に考慮していないこと、捕獲することによって商業捕鯨再開時の捕獲頭数管理方式の向上にどの程度役立つのか具体性に乏しいこと、他機関との協力についても不十分であること等を指摘したうえで、「現在の調査計画は……致死的サンプリングが必要であることを立証(demonstrate)していない(10)」として計29の勧告を行った。加えて、捕獲が一時中断したとしても調査に大きな影響は与えないとして、致死的調査実施の前に上記勧告の全てが実施され、それが評価されるべきであるとの判断を下している(11)。
これに対して日本側は、「致死的調査・サンプル数の妥当性に関する評価に不可欠な作業に関する勧告」と自らが考える5つについては、具体的な作業計画を提示し、科学委員会でその結果報告を行うとする一方、それ以外の勧告については、NEWREP-A実施を通じて対応するとし、全ての勧告を完了せずとも捕獲は実施するとの立場を表明した(12)。ここで日本側自らが科学委員会で結果報告を行うとした5つの勧告は、①調査捕獲によって得られる自然死亡率・性成熟年齢・妊娠率・加入率・寿命などのデータ精度が向上によって捕獲枠の算定方式であるRMPがどの程度改善されるのかの評価実施、②資源解析のアップデート、③自然死亡率推定の実行可能性・精度を判断するための既存データの分析、④捕殺によって得られる性成熟年齢データを資源解析に用いた場合、どのような利点があるのかを測定する基準の策定、⑤性成熟年齢の変化の検知に必要となるサンプル数に関する詳細な検出力分析の提出、である。
2015年5月から6月にかけて開催された科学委員会は、ワーキンググループを設置し、日本の追加作業の評価を行った。しかしここでも、日本が致死的調査・サンプル数の妥当性に関する評価に不可欠な作業に関する勧告としたものについても、日本の追加作業が完了していないとの見解が提示された。すなわち、上記①について日本側は、シミュレーションをしてみたところ、捕獲によってしか得られない耳垢に基づく年齢測定データが資源解析には必要なことが論証できた、これを用いてRMPも改善するつもりだ、とした。しかしながらワーキンググループは、確かに専門家パネルの勧告に則した作業が行われてはいるが、クジラの捕獲によってどの程度精度が改善するかについて十分な評価を行っていないと評価し、②の資源解析のアップデートについても勧告されたことが部分的にしか対処されていないとした。③の既存データ分析は何も追加作業は行われておらず、④の捕獲によって得られる性成熟年齢データを用いると、資源解析の点でどういうメリットがあるのか説明すべきとの勧告についても、日本側が提示したシミュレーションの結果からは性成熟年齢は年齢解析の結果の多くにほとんど影響を与えないことが示されており、どのようなメリットがあるのかが証明されていない、と指摘されている。⑤のサンプル数計算についても十分であるとはされなかった(13)。これを受けて科学委員会は「ワーキンググループの結論に合意する」とともに、日本の追加説明に示された「分析は不完全であり、十分な評価をすることができない」こと、したがって「十分なレビューを行うためにより詳細な情報が必要である」との点で合意している(14)。40名を超える科学委メンバーはこれとは別に共同ステートメントを発表し、日本側がサンプル数評価に必要不可欠としている項目についても作業が完了していない以上、致死的調査が必要だということが証明されておらず、捕獲調査を行わず専門家パネルの勧告で求められていることを実施すべきであると結論付けている(15)。
2014年9月にスロベニアで開催されたIWC総会では、科学委員会に対してICJで判示された基準にNEWREP-Aが合致しているか検討を指示する決議(16)が採択されており、科学委ではこれに関する議論が行われた。ここでは、サンプル数について十分な説明ができてもいないのだから、日本の主張する調査目的からみて合理的かどうかも当然わからないし、ミンククジラが南極海で食べているのはほとんどオキアミであること等は既に十分わかっていることなので、これ以上捕獲して調査しても鯨類の保全管理に何も役には立たない、との意見が出される一方、日本側が説明した通り非致死的調査だけでは保全管理に資する十分なデータが得られないとの意見も提示され、コンセンサスに至ることはできなかった(17)。

3. NEWREP-A最終案

 専門家パネル及び科学委員会での極めて厳しい批判を受け、日本側は再度修正した調査計画最終案を2015年12月公表し、「我が国研究者による追加作業の結果、調査実施前に証明すべき事項については、必要な作業が完了した」として「NEWREP-Aを本年度から実施することを決定した」旨発表した(18)。同調査の調査目的は当初案通り、①商業捕獲のための捕獲枠算定メカニズムである改訂管理方式(RMP)を適用したミンククジラの捕獲枠算出のための生物学的及び生態学的情報の高精度化と、②生態系モデルの構築を通じた南極海生態系の構造及び動態の研究であるとされ、捕獲頭数も当初案通り333頭とされている。
 確かに最終案は当初案に比べて、いくつかの点で若干の改善が試みられている。例えばICJ判決で他の国際機関との研究面での協力がほとんど全く存在しないと批判された点に対応して「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)」とオキアミ調査で連携すると表明するとともに、同調査に関し当初計画より具体的な計画案が提示されている。しかしながら、専門家パネル及び科学委で指摘された勧告等に十分応えているとは言い難い。
 問題点の第一として、サンプル数の説得的な説明がなされていない点が挙げられよう。確かに最終計画案では333頭のサンプル数の根拠として、1年あたり0.1歳の性成熟年齢の若齢化もしくは老齢化を90%以上の確率で検出するためのものだとして、その計算論拠が提示されている。しかしながら、内容は当初計画案とおおよそ同様であり、なぜ0.01歳でもなく0.2歳でもなく0.1歳を基準とするのか理解することに困難が伴う。
また、なぜそもそも性成熟年齢だけを基準にしているのかも不明である。NEWREP-Aの調査目的であるRMPを適用したミンククジラの捕獲枠算出のための情報の高精度化と、生態系モデルの構築は、以前の調査捕鯨計画(JARPA II)にも含まれている。また、JARPA IIでは性成熟年齢に加えて、妊娠率、脂皮厚、系群混淆率等5つの基準からサンプル数の算定根拠が提示されている。しかしNEWREP-Aでは性成熟年齢からしか算定論拠が示されていない。2000年代半ばまで水産庁で捕鯨問題の陣頭指揮をとった小松正之も「性成熟率から333頭を積算した方法は、ICJに批判されたJARPA IIのサンプル数の算定方法より統計的有意性が低」く、「検出の有意性成熟年令の変化の程度と調査期間で、サンプル数は変化させられる」と批判し、捕獲頭数は「国内の鯨肉需要に焦点を合わせた妥協の産物」だ、と批判している(19)。
加えて、2つの調査目的のうちの1つである南極生態系解明という観点からなぜこの数が必要かの説明が一切なされていない。NEWREP-A調査計画最終案でも、当初案と同様、南極海生態系という調査目的からのサンプル数計算が「現段階では実現不可能」であり、333頭を捕獲するのしないのとでどの程度の南極生態系解明という調査目的達成の点で違いが出るのかはわからない、と説明を諦めている(20)。
ICJ判決では、発給された捕獲許可が科学研究目的であるかは、当該発給国の認識のみに委ねることはできないとし(21)、サンプル数は調査目的に照らして合理的でなければならない、と判示している(22)。しかるに、日本側の説明は、一番目の調査目的であるRMPを適用したミンククジラ捕獲枠算出のための生物学的及び生態学的情報の高精度化という観点からも不十分であり、二番目の調査目的である南極海生態系の解明という観点からは全くなされていない。ゆえに、調査捕獲が国際捕鯨取締条約第8条で許容されている科学目的であるか否かの客観的基準としてICJが採用し、2014年のIWCで採択された決議でも盛り込まれた、「調査目的に照らしサンプル数を合理的であること」との基準を満たしていない。
第二の問題点として、調査の目的と致死的方法という手段に整合性があるのか、という点が挙げられる。日本側は、捕獲枠算定メカニズムであるRMPを適用したミンククジラの捕獲枠算出のための情報を収集して高精度化を図ることを2つの目的のうちの1つとしている。そもそもRMPで捕獲枠を算出するためには、①過去の捕獲実績と、②推定生息数の2つの情報だけで足りる。これに対して日本は、クジラの他の生物学的情報も収集すれば、資源に悪影響を与えることなく捕獲枠を多く算定することができるが、こうした情報のうち性成熟年齢については年齢データがなければわからず、年齢を知るためには捕殺が必要である、と主張している(23)。ところが調査計画では、サンプル数計算のベースとして用いられた1年あたり0.1歳の性成熟年齢の若齢化・老齢化を90%以上の確率で検出ことが、RMPをどの程度高精度化させるのか、数字による具体的な説明が示されていない。捕獲枠計算の高精度化を図るというのであれば、なぜこれまでの20年以上にわたって実施されてきた調査捕鯨で、こうした高精度化について顕著な具体的成果が得られなかったのであろうか。これまでも達成し得なかったものを、具体的な数字もなく達成できるという説明は理解に苦しむと言わざるを得ない。
調査目的の2番目である南極海生態系モデルの構築に関しては「南極海の海洋生態系の構造と動態を解明するために必要な捕食者の消費を算定するには胃内容物が必要(24)」とミンククジラ捕獲の必要性を日本側は主張するが、南極海に生息する生物の中で、なぜミンククジラだけを捕獲し、他の鯨種は目視だけでよいのか合理的に説明することは困難である。事実、調査捕鯨の実施主体である日本鯨類研究所自身も「生態系モデルを構築するためには豊富に存在するすべての鯨種からのデータが必要」との立場を現在でも維持しており(25)、これはミンクしか捕獲しないNEWREP-Aと矛盾する。調査主体である日本鯨類研究所はまた、「漁業資源への影響に関することも含めて、捕鯨調査の重要性を示していきたい」と調査の意義を強調しているが(26)、南極海に回遊するクジラが食べているのは専らナンキョクオキアミであることは数十年前より周知の事実であり、南極海に生息する魚類を大量に捕食しているとの話を筆者は残念ながら寡聞にして知らない。調査する意義に極めて乏しいと判断せざるを得ない。
専門家パネルは、これまで多数のサンプルを捕獲してきたのだから、まずこれを調べれば良い話であり、捕獲を一時中断しても支障はない筈だ、と指摘している(27)。これに対し日本側は、南極海の鯨類資源は近年大きく変動し、ザトウクジラとナガスクジラ増加に伴いミンククジラの資源量停滞あるいは減少が起こっている可能性があるとし、こうした変動の動態を捉えるには継続的な捕獲調査が必要不可欠だ、と反論している(28)。他方、北西太平洋で実施している調査捕鯨(JARPN II)ではICJ判決を受けて沖合海域でのミンククジラ調査捕獲を当初100頭が予定捕獲数であったところ、これを0としていることに対し、海洋生態系の大規模な変化が一因と考えられる近年の発見頭数減少を受けたものだ、と説明している。南極海でミンククジラの捕獲を継続的に行うのは、南極海の生態系に大きな変化が起こっているからだと主張している一方で、北太平洋でミンククジラ捕獲を中止した理由も、この海域の生態系に大きな変化があったからだと説明しており(29)、これは相互に矛盾する。この矛盾は2015年のIWC科学委員会でも指摘されており(30)、小松正之も「南極海新計画のミンク鯨はバイオプシー調査では無理だから、サンプル数333頭を示した」一方で「北西太平洋ではバイオプシー調査で対応するため、ミンク鯨のサンプル数を0にしている」と指摘し、「見れば見るほど、日本の調査捕鯨は支離滅裂」だ、と批判している(31)。
さらに付言すべきは、多数の科学的疑義があるにもかかわらず、なぜ捕獲調査が必要なのか、その科学的根拠を日本国内においてすら説明する努力を行っていないことである。数十億円の国費によって賄われる水産資源管理としては国内最大規模の科学調査事業の一つである筈にもかかわらず、実施主体である日本鯨類研究所にはIWCに提出した英文の調査計画書1本をつい最近になってウェブページにアップロードしたのみであり、この計画が何を目的とするものであり、どのような科学的成果が得られるのか、なぜこの頭数が必要であるのか、科学者から多数提示されている疑義に対してどう答えるのか、何の説明も行われていない。税金を用いて調査研究を行う機関として、科学的アカウンタビリティ(説明責任)に欠けると指摘せざるを得ない。

4. 小括

 以上見てきたように、NEWREP-A最終調査計画書は、IWC科学委及び同委専門家パネルの指摘事項に十分応えたと言うにほど遠い。同調査はICJ判決で示された基準を満たしておらず、科学目的であると客観的に立証したと言えない。ゆえに国際法上違法と考えられる。日本の調査捕鯨再開を報じた英字紙の論調は総じて日本の立場に否定的であり、日本の主張に理解を示す報道はほとんど見受けられない。日本国内でも勝川俊雄東京海洋大准教授は日本の調査捕鯨は「〝科学〟として破綻している」として「国際裁判をないがしろにした形での調査捕鯨に反対」と明言(32)、日本経済新聞も12月6日付で「調査捕鯨の再開は拙速だ」との社説を掲載している(33)。「国際社会における法の支配」を外交の基本原則とする日本政府の基本方針と調査捕鯨の再開は背反しており、南シナ海・東シナ海での中国の海洋進出に対して国際法の遵守を求める日本の立場と矛盾する。国際社会における日本の威信と評価を下げるものであっても、上げるものとはなり得ない。国益に反すると言わざるを得ない。
 現在調査捕鯨再開に関して豪州一般世論での反応はそれほど激しい反発を招いてはいないと報じられているが、シーシェパードが調査捕鯨操業の妨害を公言しており、このため船舶を南極海に向け出港させている。捕鯨船とシーシェパード妨害船との衝突は、豪州内での関心を一気に高めることも予想される(34)。かような場合、豪州は再び国際裁判に打って出る可能性も否定できない。
日本の新調査捕鯨NEWREP-Aは、科学的に正当化され得ず、ICJ判決の主旨を踏まえているとは到底言えない。国際捕鯨取締条約違反であり、言わば日本政府公認の「IUU漁業(違法操業)」であると判断されよう。南極海での調査捕鯨は中止すべきと思料される。

(1) 秋月弘子「国際司法裁判所における手続き」、東壽太郎・松田幹夫編著『国際社会における法と裁判』国際書院、2014年、179頁。
(2) 同上。
(3) 外務省国際法局国際法課、「国際司法裁判所(ICJ)について」、2015年、5頁、http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000103330.pdf(2015年12月12日アクセス)。
(4) 同上;ICJ, “Declarations Recognizing the Jurisdiction of the Court as Compulsory: Japan,” http://www.icj-cij.org/jurisdiction/?p1=5&p2=1&p3=3&code=JP (accessed on December 12, 2015).
(5) 外務省国際法局国際法課、前掲注3。
(6) 柴田明穂Facebook、2015年10月18日付投稿、https://www.facebook.com/akiho.shibata.3?fref=ts(2015年12月12日アクセス)。
(7) Michael A Becker, “Japan’s New Optional Clause Declaration at the ICJ: A Pre-Emptive Strike?” EJIL: Talk! (Blog of the European Journal of International Law), October 20, 2015, http://www.ejiltalk.org/japans-new-optional-clause-declaration-at-the-icj-a-pre-emptive-strike/ (accessed on December 12, 2015).
(8) International Fund for Animal Welfare, Report of the International Panel of Independent Legal Experts On: Special Permit (“Scientific”) Whaling under International Law, May 12, 2006, pp. 48-51.
(9) 水上千之『現代の海洋法』有信堂、2003年、129頁。
(10) IWC, “Report of the Expert Workshop to Review the Japanese JARPA II Special Permit Research Programme,” SC/65/Rep02, 2014, p. 2.
(11) Ibid., p. 35.
(12) 水産庁・外務省、「新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)に係る国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会レビュー専門家パネル報告書への対応について」、2015年4月、1頁。
(13) IWC, “Report of the Scientific Committee – Annex Q: Matter Related to Item 17. Special Permits,” IWC/66/Rep01(2015) Annex Q, June 19, 2015, p. 2.
(14) IWC, “Report of the Scientific Committee,” IWC/66/Rep01(2015), June 19, 2015, p. 92.
(15) IWC, “Report of the Scientific Committee – Annex Q: Matter Related to Item 17. Special Permits,” IWC/66/Rep01(2015) Annex Q, June 19, 2015, p. 9.
(16) IWC Resolution, 2014-5.
(17) IWC, “Report of the Scientific Committee,” p. 96.
(18) 水産庁・外務省、「新南極海鯨類調査計画(NEWREP-A)の実施について」、2015年12月、1頁。
(19) 小松正之「緊急提言!IWC」みなと新聞2014年12月5日。
(20) Government of Japan, “Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean (NEWREP-A),” 2015, para. 3.1.1, p. 32.
(21) Whaling in the Antarctic (Australia v. Japan: New Zealand Intervening), 2014, p. 28, para. 61.
(22) Ibid., p. 33, para. 88.
(23) Government of Japan, “Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean (NEWREP-A),” 2015, para. 1.3, p. 9.
(24) Ibid.
(25) 日本鯨類研究所、「Q&A-南極海における日本の捕獲調査」、http://www.icrwhale.org/05-A-a.html(2015年12月18日アクセス)
(26) 藤瀬良弘日本鯨類研究所理事長の森山裕農水団人と面談した際の発言。水産経済新聞2015年12月8日「捕鯨3団体が森山大臣訪問」。
(27) 小松正之も「南極海のミンククジラはこれまでのJARPAとJARPA IIで約1万頭のサンプルが集積されているので、これに年間300頭余りのサンプルが追加されたところで、統計的な精度を向上させる意味合いは薄い」と指摘している。小松正之『国際裁判で敗訴!日本の捕鯨外交』マガジンランド、2015年、107頁。
(28) Ibid., para. 1.1, p. 5.
(29) Government of Japan, “Response to SC 65b recommendation on Japan’s Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific (JARPN II),” SC/66a/SP/10, 2015, p. 4.
(30) IWC, “Report of the Scientific Committee,” IWC/66/Rep01(2015), June 19, 2015, p. 92.
(31) みなと新聞2015年6月30日。
(32) 勝川俊雄Twitter、2015年12月7日。
(33) 捕鯨推進の旗振り役の一人であった大西睦子氏(大阪鯨料理「徳家」女将)も「南極海での捕獲調査に対する風当たりがあまりにも強く、実施が現実的に困難ならば、日本は大きな決断を下す時ではないでしょうか」と「南極海での捕獲調査を諦めるのも選択肢」と述べている。みなと新聞2015年6月30日、「大きな決断下す時 徳家女将大西睦子さん」
(34) Daniel Flitton and Andrew Darby, “Japan whale hunt tensions to flare as Australia considers court action,” Sydney Morning Herald (electronic edition), December 8, 2015, http://www.smh.com.au/federal-politics/political-news/japan-whale-hunt-tensions-to-flare-as-australia-considers-court-action-20151207-glhag4.html (accessed on December 13, 2015).


https://www.dropbox.com/s/66xr60ah4vqebqp/IKANet%20NEWS%20No.62%20%282015.12.25%29%20Sanada.pdf?dl=0
【真田康弘「日本の調査捕鯨は違法か:義務的管轄権受諾宣言とNEWREP-A最終案」『IKA Net News』第62号(2015)、5~12頁】
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新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)・IWC科学委員会レビュー [クジラ]

 先頃北太平洋で実施されていた日本の今年度分の調査捕鯨が終了したところですが、今回は『IKA-NET News』68号(2017年8月)に寄稿した北太平洋での調査捕鯨に関するIWC科学委員会での議論について書いたエッセイをアップしました。
 なお、元の原稿についてはPDFファイルにしたものをこの文章の一番最後にあるリンク先からダウンロードすることができるようにしました。

IMG_0201.JPG
【IWC第66回隔年会合(2016)の模様。筆者撮影】

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新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)・IWC科学委員会レビュー
真田康弘(早稲田大学)


 
 2017年5月、国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)科学委員会会合がスロベニアで開催され、日本が同年より実施する新北西太平洋鯨類科学調査計画(Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific: NEWREP-NP)に対するレビューが行われた。NEWREP-NPについては2017年4月、IWC科学委員会の下に設けられた専門家パネルが評価報告書を発表し、新調査計画をほぼ全面否定するにも等しい判断を下すとともに多数の勧告を行い、これら勧告での事項が実施され評価を受けるまでは捕獲を伴う調査を行うべきでないとの結論を提示していたが 、IWC科学委員会はこうしした専門家パネルの勧告を承認(endorse)した 。
本小論では、NEPREP-NPの調査計画の主たる内容と専門家パネルの要旨を振り返ったのち、科学委員会での議論の内容を紹介するとともに、この評価のインプリケーションを指摘することとしたい。 

1. NEWREP-NP調査計画

 日本は北太平洋では1994年から1999年にかけて「北西太平洋鯨類捕獲調査(Japanese Whale Research Program under Special Permit in the Northwestern Part of the North Pacific: JARPN)」、2000年と2001年の予備調査を経て2002年から2016年にかけて「第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(Cetacean Studies in the Western North Pacific under Special Permit: JARPN II)」と呼ばれる調査捕鯨を実施してきた。JARPAN IIでは「鯨類は、人間の食用に漁獲されるものの3倍から5倍の海洋資源を消費していると推定される」として「鯨類と漁業の競合関係を調査し、日本をはじめとする周辺各国にとって重要な漁場である、北太平洋西部の海洋生態系における鯨類の役割を明らかにすることを主眼」とすることが謳われた 。
 予備調査を含むと足掛け17年に及び、累年総計で数百億円規模と思料される日本の水産資源管理史上最大規模の研究プロジェクトの一つであったJARPN IIはしかしながら、「クジラが多くの魚を食べて漁業と競合している関係を明らかにした生態系モデルを構築する」との目的の達成に失敗する結果となった。JARPN IIの最終評価を行うため2016年2月に開催されたIWC科学委員会独立専門家パネルに対して日本側が「鯨と魚の餌を巡る競合」に関して提示したのは「三陸沖のイカナゴの約10%をミンククジラが捕食している」との仮説のみにとどまり 、これについても専門家パネルは「モデルで用いられているデータには誤りがあることが明らかとなったため、イカナゴに関するモデルの結果をパネルとして評価することはできない」と退けるとともに、提出された全ての研究結果は「複数の点で不完全」で「予備的(preliminary)なものにとどまっている」と評価した 。専門家パネルは、生態系モデリングというJARPN II最大の目的の達成度に関し、「鯨類や他の海洋生物資源ないし生態系の保全管理の改善をもたらすものとはならなかった 」と結論付けた。
 JARPN IIレビューでのこうした評価に直面した水産庁は、新調査計画NEWREP-NPでは「餌の競合を巡る生態系モデルの構築」を調査目的から外し、①日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出と、②沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出の2つに主たる調査目的を絞った新調査捕鯨計画案を策定、2016年秋に発表している 。
 IWCでは商業捕鯨が再開された場合「改訂管理方式(Revised Management Procedure: RMP)」というスキームにより捕獲枠の算定が行われることがIWCで合意されている。商業捕鯨の中止がIWCで決定された最大の原因の一つとして、捕獲頭数算定に必要な種々のデータに不確実性が伴うことから、捕獲枠に関するコンセンサスを得られなかったことが挙げられる。そこでRMPでは、種々の不確実性をシミュレーションとして組み入れつつ、①過去の捕獲頭数と、②現在の推定生息数、という2つのデータのみで捕獲枠を計算することが可能となっている。その一方、その他の補助的データをRMPのシミュレーションに組み込むと、より精緻なモデルを構築することも可能である。致死的調査によってしか入手不可能なデータがRMPにおけるモデル構築の精緻化に役立つのであれば、調査捕鯨の正当性を科学的に裏付けることも不可能ではない。ほぼ何の成果も生み出さなかった生態系モデルの構築という目的をそぎ落とし、対外的にも説明可能なものとしようと試みたと言える。捕獲頭数に関しては、ミンククジラを沖合域で27頭、沿岸域で147頭捕獲、イワシクジラを140頭捕獲、とされた。

2. NEWREP-NP専門家パネル報告

 2016年11月に発表されたNEWREP-NPの説明に際し、森下丈二IWC日本政府代表は「科学的な根拠に基づき、持続可能な捕鯨の再開をこれまで以上に明確に打ち出した」と調査計画の内容に胸を張った 。
 この調査計画案の評価を行うため、IWC科学委員会の下で設置された独立専門家パネルの評価会合が2017年1月30日から2月3日まで開催された。しかしながら日本側の同調査計画への自信とは対照的に、パネルの科学者たちはNEWREP-NPに対し厳しい評価を下した。
 専門家パネルの指摘・勧告事項は多岐にわたるが、そのなかの一つとして挙げられているのが、北太平洋沖合の広大な海域(下図の7WR、7E、8、9)での捕獲頭数が27頭であるのに比べて三陸・釧路沿岸(下図の7CSと7CNの海域)での捕獲頭数が100頭にものぼっており、捕獲が沿岸部に偏り過ぎている点である。沿岸域での調査は沿岸の小規模捕鯨船により行われると調査計画書では明記されており、これでは沿岸の捕鯨業者により多くのクジラを捕獲してもらうためという経済的・商業的見地からの配慮に基づくものではないかとの批判を受けても仕方のないものとなっている。
NEWREP-NP map 2.jpg
 さらに問題として専門家パネルが指摘したのが、沿岸捕鯨業者によって実施される沿岸での捕獲が通例の鯨類の科学調査としては大きく異なっている点である。通常の調査では、偏りが生じないようにするため、予め決められたラインの上を調査船は航行し、原則としてここから外れることはない。ところが沿岸での調査では、確かに30カイリまでは調査船は決められた航路にそって航行するが、もしクジラに遭遇しなかった場合は、30カイリ以降はミンククジラを捕獲するため自由に船を動かしてよいという計画になっている。また、30カイリまでにクジラに遭遇して捕獲した場合、クジラを水揚げするため港に戻るが、その途中で新たにクジラに遭遇した場合、これも捕獲して良いことになっている。加えて、天候が悪くなると予想される場合も、30カイリに到達する前であっても自由に船を動かしてよいことになっている 。
 こうした「科学調査」の建前から大きく外れた方法は、やはり小型捕鯨業者がより確実にクジラを捕獲できるようにとの経済的・商業的配慮に基づくものではないかとの誹りを免れない。専門家パネルも、調査計画では「日本沿岸域のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の時空分布」が調査目的になっている筈なのに、これではサンプルに偏りが出てしまい、この調査目的達成に対して重大な障害となってしまうではないか、と批判する。NEWREP-NPの「提案者は本件を徹底的に検討(thoroughly consider)し、現行のデータ収集計画に対する更なる正当化・修正を提示しなければならない 」と専門家パネルは厳しい要求を突き付けた。
 調査計画での捕獲数についても、日本側の計画案では、なぜこの頭数が必要なのか、合理的な説明が十分になされていない、とも専門家パネルは指摘している。日本側はミンククジラ127頭の捕獲がなぜ必要かとの点に対して、この頭数の捕獲を行った場合、メスのミンククジラ1頭が子供を何頭産むかの割合の10年間で30%以上の減少を検知することができるようにするためである、と説明している 。これに対して専門家パネルは、メスが子供を産む割合が10年間で30%減少したことを検知することができれば、どの程度捕獲枠算定の精緻化に貢献することができるのか、その理由を日本側が具体的な数字を提示して説明していないと批判した。
 イワシクジラについても同様である。日本側は、サンプル数についてこのクジラの自然死亡率推定を算定根拠としている 。このデータを得られれば、新調査計画の目的の一つであるイワシクジラ捕獲枠算定の精緻化に貢献することができるからだとの理屈である。しかしながら、このクジラを140頭捕獲採集することで、どの程度の捕獲枠の精緻化が図られるのか、それについての説明がなされていない。従って専門家パネルはイワシクジラについても、この頭数の捕獲が必要であることの論証に失敗しているとの判断を下した 。
 致死的調査の必要性そのものについても、専門家パネルは否定的評価を行っている。現在クジラを含め動物の調査では皮膚の一部を採取し、これをDNA検査等に用いる「バイオプシー」という方法が用いられている。日本側は自らが調査の対象とするミンククジラ等についてはバイオプシー調査の成功率が低いため、捕獲して調査を行わざるを得ないとの主張を行ってきた。しかし専門家パネルは、これまで非致死的調査が試みられたのは北太平洋のミンククジラは23頭にしかすぎず、調査自体の絶対数が極めて少なく、調査時間も足りていないとし、バイオプシー調査が効率的なあるかどうか、より丁寧に評価を行うべきであるとの勧告を行った 。また、確かに年齢等一部のデータを入手するためには致死的調査が必要であり、こうしたデータが鯨類の保全管理の改善に貢献する可能性が理論上存在しているが、どの種のデータを集めればどの程度NEPRE-NPでの調査目的を達成することができるのか、定量的な評価を行うべきであるとの勧告を行っている 。
 さらに問題とされたのが、現行の調査計画案では一部の捕獲対象について資源を減少させる恐れがある点だった。
 日本側はミンククジラの資源に与える影響の分析に関して、日本周辺には日本海・黄海・東シナ海個体群(J ストック)とオホーツク海・西太平洋個体群(O ストック)の2つの個体群が存在するとの前提で行っている。ところが北西太平洋のミンククジラについてはさらに個体群が分類できるとの仮説が存在しており、日本も個体群の同定をNEWREP-NPの目的の一つとしている。にもかかわらず日本側はこれらの前提を検討していない。加えて、たとえ日本側の個体群の数に関する前提に基づくとしても、Jストックが混獲等により減少する可能性が存在している。これは懸念すべき問題であると指摘したのである 。
 これら諸々の欠点として指摘した事項を総括するかたちで専門家パネルは、①致死的調査部分についてのサンプリング・デザインとサンプル数が十分正当化できていない、②追加的な年齢データが保全管理の顕著な改善に資するとの十分な正当化ができていない、③ミンククジラ捕獲が資源に与える影響についての評価(とりわけ、現在提案者が採用している方法を取った場合、幾つかのシナリオではJストックが減少することになる点)、の3点を主たる懸念事項と挙げ、以下のように評価した。

 
本パネルは、(NEPREP-NPの)主たる目的及び二次的目的が保全管理のために重要であると認めるが、その貢献度にはばらつきがある旨合意する。(NEPRE-NP)提案者の行った作業にかかわらず、現在の計画案について以下の旨を結論する。(1)本調査提案は致死的サンプリングの必要性とサンプル数についてその正当性を十分に立証できてはいない。とりわけ、IWCにおける管理保全措置の改善にどの程度資するのかを定量的に立証できてはいない。(2)本調査提案は基本的な計画部分に欠陥がある(17)。

 「なぜこの頭数を捕るのか説明できていない」「そもそも計画の基本部分から欠陥がある」との全面否定に近い評価の後、専門家パネルは、NEPREP-NPの致死的サンプリングを伴う部分については同パネル報告書で同定した点につき追加的作業を行い、かつこれがレビューされるまで、実施されるべきでないとの勧告を行った。

3. NEWREP-NP修正調査計画案

 専門家パネルの極めて厳しい評価を受け、日本側はNEWRE-NPの計画案を一部修正し、これを2017年5月に開催されたIWC科学委員会に提出した。
 最終案では「沿岸域でのミンククジラの捕獲が沖合と比較して多すぎる」との専門家パネルから指摘を踏まえ、沖合(前掲図の7WR、7E、8、9の海域)の捕獲頭数は27頭から43頭に増やされ、三陸・釧路沿岸(前掲図の7CS及び7CNの海域)での捕獲頭数は100頭から80頭に引き下げられている。これは、当初案では沖合域25%、沿岸域75%の比率で捕獲枠を配分していたところ、最終案では沖合域40%、沿岸域60%としたことに基づいている(18)。「本来は50%・50%が望ましいが操業上の理由も鑑みて40%・60%の比率とした」と理由が述べられているが、そもそもなぜ50%・50%が望ましいのか、なぜ最終的に40%・60%の比率にしたのか、その理由はどこにも付されていない。
 ミンククジラ加入が10年間で30%変化することが、捕獲枠の改善にどの程度資するのか、定量的な説明がなされていないため、ゆえにこのサンプル数の算定根拠は正当化されない、との専門家パネルの指摘について、日本側は、専門家パネルに応えて定量的な根拠を示すのではなく、クジラの加入の変化が捕獲枠の改善に資することは疑いがなく、また他の地域漁業管理機関で同様のデータを用いているとし、専門家パネルが求めているような詳細な説明をする必要はないとの反論を行った(19)。専門家パネルの勧告の受け入れが拒否されたと言える。
 専門家パネルはイワシクジラについても、このクジラを140頭捕獲採集することでどの程度の捕獲枠の精緻化が図られるのか、数値としての具体的な論証がなされていないとして、この頭数の捕獲が必要であることの論証に失敗しているとの判断を下している。日本側が提出した最終的な調査計画では捕獲頭数は134頭と6頭を減じているものの、その算定根拠を示した説明書(20)も、当初案と概ね変わるものではなく、ここでも専門家パネル勧告の受け入れを事実上拒否するかたちとなっている。
 先述の通り、今回の新北太平洋調査捕鯨では、沿岸については、30カイリまでは直線状のあらかじめ定められた航路を走るが、これを超えて航行してもなお予定の頭数のクジラを捕獲することができなかった場合、あとは自由に動き回ってクジラを捕まえて構わない等とされており、これについて専門家パネルは「これではサンプルの代表性が保てない」と批判している。これに対して日本側は、自分たちが調査で得ようとしているのは統計学的な捕獲時の年齢解析のために必要な年齢データであるが、これについてはランダムサンプリングは必要がないと反論し(21)、調査計画の変更はなされなかった。

4. 科学委員会での議論と結論

 以上のように、日本側は専門家パネルの勧告の最も基本的部分について、事実上受け入れを拒否したと言える。
 これでは、各国の科学者からの批判の反発を受けないはずがない。事実、2017年5月に開催されたIWC科学委員会でも、多くの科学者からNEPRE-NPに対する批判が加えられた。計17カ国(22)とIUCNの科学者は連名で、NEPREP-NPと前年より実施されている南極海での調査捕鯨NEWREP-Aはともにサンプリングのデザインやサンプル数について十分な正当化が行われておらず、なぜ追加の年齢データが鯨類の保全管理に有用であるのかについても説明に失敗していると指摘するとともに、NEWREP-NPの現行の捕獲予定頭数では、ミンククジラの日本海系群(Jストック)に対する悪影響を否定できない、と捕獲を伴う調査の停止を要求した(23)。
 これに対して日本及びその他一部の科学者は、科学委員会での調査捕鯨の是非の検討に関して批判側が要求するまでのレベルの正当化を行う必要なく、調査の実施は正当化されたと主張した(24)。
最終的に科学委員会報告書では上記の両論が併記される結果となった。専門家パネルでは調査計画の提案国科学者は調査計画に対する評価には参加できない仕組みになっている一方、科学委員会ではそうなっておらず、また多数決により結論を決定する仕組みでもないため、日本があくまで「調査計画の妥当性は立証された」と主張し続ければ両論併記となってしまうためである。
 他方注目すべきこととして指摘されるべきは、同委員会報告書には以下の文章が盛り込まれた点である。
   
The Committee endorses the recommendations of the Panel, recognizing that it was based on the information available at the time, although the proponents stated that they did not agree with all the recommendations. The proponents also stated that they had provided substantial new information at this meeting in responding to the Panel’s report that in their view responded adequately to its recommendations(25).(筆者強調)
 

 「調査計画提案者側は専門家パネルの結論の全てに合意しているわけではない。また、提案者側は、パネル報告に応えるかたちで相当程度の新規の情報を本委員会会合に提出し、パネル勧告に十分回答したとの主張を行っている」としつつも、「委員会全体としてはパネルの勧告を承認(endorse)する」との一文が盛り込まれたのである。
 先述したとおり、専門家パネルはNEPREP-NPが現段階では致死的調査を行う必要性やサンプル数の妥当性を立証できていないと評価するとともに、致死的サンプリングを伴う部分については同パネル報告書で同定した点につき追加的作業を行い、これがレビューされるまで、実施されるべきでないとの勧告を行っている。したがって「専門家パネルの勧告を科学委員会は承認した」との一文は、今後の調査捕鯨を巡る国際的議論で極めて重要な意味を有する可能性がある。事実、米国海洋大気庁に所属する鯨類研究者のフィリップ・クラブハムは科学誌『Nature』の「Correspondence」欄に寄稿した「日本、再び(調査)捕鯨のレビューを無視」と題する短報で「専門家パネルは更なる検討が行われるまで開始されるべきでないと勧告し、IWC科学委は専門家パネルの勧告を承認(endorse)した」と指摘している(26)。
 
5. 国内・国際社会の反応と今後の展望

 IWC科学委員会終了後、水産庁は6月7日に会見を開き、「捕鯨に強硬に反対する学者からの反論があったものの、一定の理解は得られた」としてNEWREP-NPの実行を決定したと発表(27)、11日より北海道・網走沿岸域で、14日から沖合海域での調査捕鯨が開始された。
 これに対してジョシュ・フライデンバーグ・オーストラリア環境相は7月20日声明を発表し、日本の北太平洋の調査捕鯨の一方的実施に対して「深く失望する」とし、「日本は2014年の国際司法裁判所の決定を無視していることがより明白なものとなりつつある」と非難した(28)。ニュージーランドのジェリー・ブラウンリー外相も翌21日、北太平洋での調査捕鯨実施は「国際捕鯨員会、同科学委員会、及び専門家パネルの勧告に背くものだ」とし「極めて失望している」との声明を発表した(29)。
 さらに7月27日、EUは声明を発表、専門家パネルの勧告事項が実施されレビューされるまで致死的調査を行うべきでないとの勧告を行っていることを指摘し、また同パネルではミンククジラ日本海系群がNEPREP-NPの下では20%減少する可能性があると指摘されていることに強い懸念を表明するとともに、こうした専門家パネルの勧告はIWC科学委員会でも承認(endorse)されているとし、日本に対して北太平洋で調査捕鯨の再考を求めている。
 確かに国際捕鯨取締条約では第8条で、科学調査を目的とする場合、条約の締約国は捕獲特別許可を発給することができると定めており、日本はこの条文を援用し調査捕鯨を行ってきた。しかしながら、国際司法裁判所は南極海調査捕鯨を巡る判決において、「特別許可にもとづく鯨の捕獲、殺害及び処理が科学的研究を目的としたものか否かは、(特別許可を発給した)当該締約国の認識にのみ委ねることはできない(30)」とし、科学目的か否かは調査計画案と実際に行われた調査の種々の要素が、調査計画で謳われている目的に照らして合理的か否かにより客観的に判断されると判示している。日本もこの判決を受け入れており、IWCも科学委員会に対し、現在進行中の調査捕鯨及び新たな調査捕鯨計画が捕鯨判決に判示された基準に適合しているかどうか評価を行い、IWCに助言を行う指示するとともに、IWCで科学委員会からの評価と助言に基づき調査捕鯨に関する審議を行うまで調査捕獲許可発給を行わないよう要請する決議を採択している(決議2014-5)。
 2016年のIWCではこれに加えて、科学委員会からの調査捕鯨計画に関する評価と助言をまとめ、IWCに提出することを主たる役割とする常設作業部会を設置する決議が採択されている(決議2016-2)。先に触れたように、科学委員会では調査捕鯨を実施しようとする国が審議に加わるため、両論併記にならざるを得ないという欠陥を有している。作業部会はこれを補うため、この作業部会で検討される調査捕鯨を行おうとする国はオブザーバーとしては参加できるが、作業部会のメンバーとはなることはできない構成となっている。
 日本は上記の決議にいずれも反対票を投じ、決議には拘束されない旨表明し、上記2決議に基づく初めての評価が行われる2018年のIWC隔年会合を待つことなくNEWREP-NPを実施している。しかしながら国際司法裁判所判決を踏まえると、上記決議に基づく調査捕獲許可に対するIWCでの判断が国際的意義を持つことは避けられないと考えられる。とりわけ、もし他国が再び日本を国際裁判で提訴した場合、重要な参照軸となるであろう。その意味からも、2018年にブラジルで開催予定IWCでの審議の結果が注目される。

(1) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 44.
(2) IWC, “Report of the Scientific Committee,” SC/67A/Rep01 (2017)rev1, June 7, 2017, p. 110.
(3) 日本国政府「第二期北西太平洋鯨類捕獲調査計画(JARPNII)(仮訳)」、2002年、4~5頁。http://www.icrwhale.org/pdf/SC54O2Japane.pdf
(4) IWC, “Report of the Expert Panel of the final review on the western North Pacific Japanese Special Permit program (JARPN II), 22-26 February 2016, Tokyo, Japan,” SC/66b/Rep06, 2016, p. 34.
(5) Ibid., p. 35.
(6) Ibid.
(7) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP).”
(8) 水産経済新聞2016年11月11日付。
(9) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” pp. 81-82.
(10) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 29.
(11) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 18.
(12) Ibid, p. 33.
(13) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 31.
(14) Ibid., p. 15.
(15) Ibid., p. 35.
(16) Ibid., p. 15.
(17) Ibid., p. 44.
(18) Government of Japan, “Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 114.
(19) Government of Japan, “Proponents preliminary response to the Report of the Expert Panel to review the proposal for NEWREP-NP),” SC/67A/SCSP/01, p. 12.
(20) Government of Japan, “Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” Annex 16, pp. 165-168.
(21) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 70.
(22) スペイン、ブラジル、コスタリカ、米国、ドイツ、ルクセンブルク、豪州、コロンビア、アルゼンチン、クロアチア、イタリア、英国、ニュージーランド、フランス、ベルギー、オランダ、ポルトガル。
(23) IWC, “Report of the Scientific Committee, Annex P: Statements Related to Item 19. Special Permits,” SC/67A/Rep01 (2017), p. 18.
(24) 科学委員会に出席した諸貫秀樹漁業交渉官によると、「日本を擁護したのはアイスランド、ノルウェー、セントルシア」であったとしている。『水産タイムス』2017年6月12日。
(25) IWC, “Report of the Scientific Committee,” SC/67A/Rep01 (2017)rev1, June 7, 2017, p. 110.括弧内は筆者による追加。
(26) Phillip J. Clapham, “Whaling permits: Japan disregards whaling review again,” Nature, Vol. 547 (July 6, 2017), p. 32.
(27) 諸貫秀樹水産庁漁業交渉官の発言。水産経済新聞2017年6月8日付。
(28) Department of the Environment and Energy, “Australia strongly opposes Japanese whaling plans,” July 20, 2017, http://www.environment.gov.au/minister/frydenberg/media-releases/mr20170720.html.
(29) New Zealand Herald, July 21, 2017.
(30) Whaling in the Antarctic (Australia v. Japan: New Zealand intervening), p. 28, para. 61.


https://www.dropbox.com/s/9d2p7vofnk8irss/%E6%96%B0%E5%8C%97%E8%A5%BF%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E9%AF%A8%E9%A1%9E%E7%A7%91%E5%AD%A6%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E8%A8%88%E7%94%BB%28NEREP-NP%29%E3%83%BBIWC%E7%A7%91%E5%AD%A6%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC.pdf?dl=0
【真田康弘「新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)・IWC科学委員会レビュー」『IKA-NET New』第68号(2017)、5 ~12頁】

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水産庁の天下り・水産土木編 [水産行政]

 以前拙ブログでも触れたのですが、2017年度の水産関係予算で最も多い費目は、公共事業で、718億円・全体の約40%を占めます。漁港の整備などです。つまり、水産関係予算では魚や海に対して使う予算ではなく、陸地の土木工事系の予算が最も多いということになります。

2017水産関係予算①.jpg

http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-05-12
【拙ブログ「2017年度水産関係予算」】

 たまたま今日(2017年10月25日)の水産紙『みなと新聞』を見ていたら、全国漁港漁場協会なる団体が主催する『全国漁港漁場大会』が31日に開催されるとの記事がでており、水産庁の担当官の岡貞行漁港漁場整備部長と業界団体代表のインタビューが掲載され、漁港漁場整備部長は「ハード面での予算確保が重要」と来年度もさらに漁港整備への予算を確保・増額への意気込みを力強く語っておられます。

http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/73872
【みなと新聞2017年10月25日付「31日、岩手で全国漁港漁場大会」】

 その記事の下に業界団体の広告記事がででいました。それが以下のものです。

20171025_31日、岩手で全国漁港漁場大会  業界団体広告 _みなと.jpg 

 ここに掲載されている業界団体代表の皆さんの過去の経歴は以下の通りとなります。

白須敏朗・大日本水産会会長=元水産庁長官・農林水産事務次官

宇賀神義宣・水産土木建設技術センター理事長=元水産庁漁港漁場整備部長

影山智将・漁港漁場漁村総合研究所理事長=元水産庁漁港漁場整備部長

長野章・全日本漁港建設協会会長=元水産庁漁港漁場整備部長

津端英樹・海洋水産システム協会会長=元水産庁漁政部漁業保険課長

橋本牧・全国漁港漁場協会会長(漁港漁場新技術研究会会長・全国漁港・漁村振興漁業協同組合連合会代表理事会長)=元水産庁漁港漁場整備部長


 全て水産庁OB、とりわけ漁港漁場整備部長が多いことがわかります。

http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-05-11
【拙ブログ「水産庁の天下り(2013~2015年度分)」。宇賀神義宣さん、橋本牧さんの経歴について記述があります。】
http://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_merumaga/sub85_050906.html
【水産庁HP。影山智将さんが2005年9月の段階で漁港漁場整備部長であることがわかります。】
http://ci.nii.ac.jp/naid/40005698132
【全国漁港協会発行『漁港』書誌。2003年発行第45巻1号に「新春対談--長野章(漁港漁場整備部長)・坂井淳((社)全国漁港協会会長) 」というものがあります。】


 宇賀神義宣・元水産庁漁港漁場整備部長が理事長を務める水産土木建設技術センターの常勤役員のうち2名は以下の通りとなっています。
丹羽行・水産土木建設技術センター専務理事=元水産庁資源管理部国際課国際水産情報分析官(九州漁業調整事務所長)

荒川敏久・水産土木建設技術センター常務理事=元長崎県水産部長


 影山智将・元水産庁漁港漁場整備部長が理事長を務める漁港漁場漁村総合研究所の役員名簿で常勤役員を調べてみたところ、以下のようになりました。
長元雅寛・漁港漁場漁村総合研究所 常務理事=元水産庁船舶管理室長

 常勤役員は影山智将さんと長元雅寛のみですので、全て水産庁OBによって占められていることになります。

 長野章・元水産庁漁港漁場整備部長が会長を務める全日本漁港建設協会の役員名簿で常勤役員を調べたところ、以下のようになりました。
森田正博・全日本漁港建設協会事務局長(常務理事)=元水産庁漁政部漁政課付(北海道漁業調整事務所長)

 常勤役員は長野章さんと森田正博さんのみですので、全て水産庁OBによって占められていることになります。

https://web.gogo.jp/library/58d8822a490358483545e577/58eb496c700f4ab75591c935.pdf
【水産土木建設技術センター・役員名簿】
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-05-11
【拙ブログ。丹羽行・水産土木建設技術センター専務理事が水産庁資源管理部国際課国際水産情報分析官であった旨記しています。】
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/20510
【『みなと新聞』2013年1月14日配信「『年頭所感』荒川敏久・長崎県水産部長 」】
http://www.jific.or.jp/about/officer.html
【漁港漁場漁村総合研究所役員名簿】
http://www.maff.go.jp/j/org/who/meibo/140121.html
【農林水産省HP。農林水産省幹部職員名簿 平成26年1月21日現在】
http://www.zengyoken.jp/about/director.html
【全日本漁港建設協会役員名簿】
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-05-11
【拙ブログ。森田正博・全日本漁港建設協会事務局長が水産庁漁政部漁政課付(北海道漁業調整事務所長)であった旨記しています。】
 

 役員報酬についても調べてみました。

 水産土木建設技術センターについては、個々の役員の報酬はわかりませんでしたが、平成27(西暦2015)年度の事業計画では、役員報酬として合計3420万円が計上されていました。

 漁港漁場協会会長(橋本牧元水産庁漁港漁場整備部長)の報酬は、年間1200万円以内とのことです。

 海洋水産システム協会(津端英樹・元水産庁漁政部漁業保険課長)の常勤役員の給与は、合計年間2100万円以内でした。なかなかの好待遇です。


http://www.fidec.or.jp/library/58d8822a490358483545e577/58eb496741ccd2d554bf9ee5.pdf
【水産土木建設技術センター平成27 年度事業計画】
http://www.systemkyokai.or.jp/k-index.htm
【海洋水産システム協会・常勤役員報酬規程。同規定第3条に「常勤役員の報酬額は、合計21,000,000円以内とする」と規定されている。】
http://www.gyokou.or.jp/about/pdf/yakuin_housyu.pdf
【公益社団法人全国漁港漁場協会 役員の報酬等並びに費用に関する規程。別表で、会長は1200万円以内、専務理事は1080万円以内、常務理事は960万円以内とされています。】
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日経特集記事「守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本 」 [漁業資源管理]

 先日取材を受けました日本経済新聞社記事を以下一部紹介いたします。
 共有資源論のエリノア・オストロムが指摘しているように、コミュニティの自主管理がうまくゆくためには、きちんとした履行監視と違反者に対する罰則のシステムがなければなりません。日本の自主管理にはこれがないため、うまくゆかない、ということになってしまいます。

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 【守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本】

 「かつて漁業大国として名をはせた日本。しかし、水揚げ高は大きく減っている。資源管理は全く野放図というわけではないが、対象となる魚種が少ないなどの課題がある。

 TAC(トータル・アローアブル・キャッチ)と呼ばれる漁獲可能量があり、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、マサバ・ゴマサバ、スルメイカ、ズワイガニの7魚種に適用している。TACは7魚種それぞれの資源動向などを調査して決めた生物学的許容漁獲量(ABC)に、社会的・経済的要因を加味して決められ、各都道府県に割り当てられる。

■効力の乏しい漁獲規制

 だが水産庁の元職員で漁業資源課長などを務めた東京財団上席研究員の小松正之氏は「TACは事実上、乱獲を許す水準に設定されている」と憤る。ABCには「これ以下の漁獲量なら明らかに安全」ということを示すABCターゲットと、「これ以上の漁獲量は明らかな乱獲」を意味するABCリミットという2つの値がある。小松氏によると、TACはABCリミットを上回る値に決められることが多いという。一方で水産庁資源管理部管理課は「ここ数年はABCリミットとTACの水準をそろえている」と反論する。

 日本がTACを定めるのは7魚種のみ。一方でニュージーランドは628系群(系は一つの魚種の中で産卵場、産卵期、回遊経路などが同じ集団を指す)、米は約500系群、欧州は38魚種。小松氏は「TAC魚種は日本だけ圧倒的に少ない。魚種が豊富な東北でとれる魚20種類くらいにTACを設定すれば、日本全体でとれる魚の7~8割はカバーできる」と話し、TACを定める魚種を増やすべきだと主張する。

(中略)

 日本でTACが決められている7つ以外の魚種は、国や都道府県による公的管理と、漁業者による自主的管理の組み合わせにより資源が管理されている。

 公的な規制には漁業者に与える漁業許可や免許のなかで禁漁期間などを定める「漁業調整による公的規制」、とってよい魚の大きさや時期などを決める「漁業調整規則」、保護区の規定について定めた「海区漁業調整委員会の指示」がある。さらに各都道府県が地元にとって重要な魚種について「資源管理指針」を策定する。その指針に基づき、漁協や漁連が「資源管理計画」「漁場利用計画」を決める。指針と計画をつくる管理体系は2011年から始まったものだ。

 例えば宮城県は資源管理指針でクロマグロについて「休漁に取り組む必要がある」としている。これに基づき、牡鹿漁協では具体的な休漁日数や休漁方法を定めた資源管理計画を決めている。ただ、こうした都道府県の指針と漁協・漁連の計画に強制力はなく、計画に従う従わないは漁業者に任されている。

 漁業者に自主管理を守るよう促すために国がつくったのが、全国漁業共済組合連合会による補助だ。漁業者が都道府県のつくる資源管理計画を守れば、漁業者の収入が減少した場合に、全国漁業共済組合連合会から国と漁業者が拠出した積立金が支払われる仕組みだ。

 ところが、この制度は自主管理を守らせる仕組みとしては不十分だ。日本経済新聞が入手した資料では、宮城県内の各漁協がつくった14の資源管理計画の参加者数に占める共済の加入者数は平均38%だった。なかでも資源が減っているとされるスルメイカについては県漁協がつくった計画に参加する漁業経営体が55あるものの、うち共済加入者はひとりもいなかった。

 早稲田大学地域・地域間研究機構で環境政策論が専門の真田康弘客員次席研究員は「共済に入っていない漁業者には効かないインセンティブだ」と語る。「罰則のある漁業法や漁業調整規則違反でも、罰金だけなど大した罰則がないため、違反を抑止する十分な動機づけにはなっていない」と分析する。自主管理に任せる日本のやり方は意味をなさないものとなっている。

 水産庁漁政課の栗原秀忠課長は「日本は幼魚の発生量が毎年大きく変わる。一律で公的に規制しようとしても迅速に対応できず無理がある」と話す。

■守られない自主規制

 宮城県石巻市の底引き網漁師、阿部幸一氏は「自主規制を守っていない人はたくさん見たことがある」と話す。阿部氏が漁をする海域でもヒラメやアナゴ、マコガレイなどの魚種についてとってもよい大きさや時期、区域が指針や計画で決められている。

 こうした事態を受け、水産庁は15年度から全国の資源管理計画の有効性などを確かめる作業を始めた。多くの漁協や漁連は通常、計画そのものを公表していないが、水産庁は検証作業の結果を公表する方針だ。

 TACの7魚種は漁業者らが自由に競争してとりあい、漁獲量がTACに達した時点で漁獲をやめることになる。TACなど漁獲規制のない魚種はそれぞれの漁業者がより多くの魚をとろうとする。日本はTACの魚種が少ないため、自然と水産資源が枯渇しやすい。

 日本と違い、世界の主要な漁業大国ではTACで決められた国全体の漁獲総量をそれぞれの漁業者に割り当てる個別割り当て方式(IQ)がとられている。自分に割り当てられた量だけとってしまえば漁は終わりになるため、他の漁業者との競争意識が生まれにくく乱獲になりにくいとされる。

(以下略)」

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非常に丁寧に取材された記事です。全文は以下のリンク先から読むことができますので、ご関心のある方は是非。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO20037620W7A810C1000000/
【「守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本 :三陸沖の不都合な真実(中) 」日本経済新聞電子版2017/8/17 6:35】


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太平洋クロマグロに関する西日本新聞記事 [マグロ]

 先日取材を受けた西日本新聞記事です。
 太平洋クロマグロに関しては、8月28日(月)から9月1日(金)まで韓国・釜山で開催される中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委員会年次会合で関係国による協議が行われます。私も政府とは独立したオブザーバーとして出席する予定です。

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20170825_クロマグロ枠拡大に道 28日から国際会議 日本提案へ 漁業者配慮も合意不透明 _西日本.jpg

「クロマグロ枠 拡大に道 28日から国際会議 日本提案へ 漁業者配慮も合意不透明」【西日本新聞2017.8.25】

 「高級すしネタとして人気がある太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際会議が28日から韓国・釜山で開かれる。日本は「資源回復が見込める場合は漁獲枠の上積みができる」ルールを盛り込んだ規制案を提案する。長崎県や福岡県など九州にも多い沿岸漁業者を中心に漁獲制限への不満が高まっているため、漁獲枠拡大に道を残した案だが、米国など資源回復を優先する参加国は厳しい反応を示すとみられ、合意できるかどうかは不透明だ。

 国際会議は、米国、中国、韓国、台湾などが参加する「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の北小委員会。太平洋クロマグロの親魚は、乱獲が原因で資源量がピーク時の1割程度まで減少しており、WCPFCは、2024年に4万1千トンまで回復させることを目標にしている。

 日本提案は、24年までの目標達成確率が60%を下回れば漁獲枠を自動的に削減させるが、65%以上になれば上積みする仕組み。資源状況の把握を迅速化するため、現行は2年に1度の調査を毎年実施する。漁獲枠上積みを含む提案について、水産庁は「漁業者が漁獲制限に取り組むやる気につながる」と説明する。

 背景には、沿岸で小型魚(30キロ未満)を狙うことの多い漁業者を中心に不満が高まっていることがある。長崎県対馬市の一本釣り漁師、宇津井千可志さん(59)は「資源管理はもちろん必要」とした上で「今の枠では小規模な漁業者は生活していけない」と訴える。

 米国は24年までの目標達成前に漁獲枠を拡大することには慎重な姿勢。さらに、日本は今年6月までの期間で、小型魚の漁獲規制を守れなかった。日本は34年に親魚を13万トンまで回復させる長期目標を盛り込み、資源回復に取り組む姿勢を示しているが、受け入れられるかは不透明だ。

 資源管理政策に詳しい早稲田大の真田康弘客員講師は、漁獲枠上積みの仕組みを念頭に「短期的には漁業者を救済するように見えるが、長期的な視野がない。資源回復を遅らせてしまうことになりかねない」と日本提案に懐疑的だ。 (塩塚未)」
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福島民友掲載拙稿「水産物の(東京五輪)調達方針『失格』」 [東京五輪]

 福島民友に掲載された拙寄稿記事「水産物の調達方針「失格」」【福島民友2017年7月23日=共同通信配信】のテキストを以下転載します。なお、テキスト最後の写真は新聞には掲載されていません。

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東京五輪の大会組織委員会はこの3月、大会で供される水産物に関する調達コードの第1版を発表した。五輪では回を追うごとに環境への配慮が重視されるようになっている。ロンドン大会では水産物は全て環境や資源保護に配慮した「持続可能な漁業」から調達されるべきだとされ、これはリオデジャネイロ大会にも引き継がれた。
 東京五輪もこのバトンを引き継ぐはずだったが、残念ながら発表された調達方針は、持続可能な漁業への配慮からは程遠く「失格」と言えるものとなっている。
 コードは、水産物は国産を優先するとともに、「海洋管理協議会(MSC)」や「水産養殖管理協議会(ASC)」という国際的に権威ある水産物認証製品のほか、「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」や「養殖エコラベル(AEL)」などの日本国内の認証を受けたものも認めた。
 さらに各漁協レベルなどで自主的に策定される資源管理計画などの下に漁獲・養殖されているものについても「適切な資源管理が行われている水産物」として、調達対象に含めるとしている。
 MSCとASCが国際的な非営利団体が実施する海のエコラベルとして世界各国で受け入れられているのに対し、MELもAELも日本の水産業界団体が中心となってつくった認証プログラムで、審査の過程が透明性を著しく欠いていることなどが専門家から指摘されている。
 MELでは産卵期のクロマグロの親魚を一網打尽にする非持続的な漁業までも認証されている。AELに至っては認証審査のための国の補助金が切れる年度末ぎりぎりに一挙に17もの漁業に認証を与えておきながら、審査の概要すら明らかにされていない。いずれも信頼するに足る認証制度と言えない。
 それでも認証対象の漁業が少ないため、「これでは国産品を提供できない」と危惧した業界団体や水産庁の強い主張に基づいて「資源管理計画などがあればいい」との方針が加えられた。
 だが、これらの計画は一般に公開されていないばかりか、その作成は漁業者側に委ねられている。
 水産庁によると、この結果、日本の水産物の約9割がカバーされたという。つまり「国産ならほぼ何でもあり」ということだ。だが、対象魚種の中には、水産庁の資源評価で「資源状態が低位」とされたものが多数あり、「持続可能な水産物」とするには疑問だ。
 五輪の調達方針で持続可能性を明確にすれば、乱獲で疲弊する日本の水産業を立て直す契機となったはずだった。だが、現状は、持続可能性をなくし、衰退の一途をたどる日本の水産業を追認するにすぎない。
 五輪関連の調達では、木材製品の条件も緩やか過ぎるとの批判や、新国立競技場の建設に使われる木材から、海外で違法伐採されたものが排除できない制度になっていることが環境保護団体などから指摘されている。
 確かに五輪で調達される水産物や林産物は量的に限られる。だが、五輪は、厳格な調達方針を持つことで、持続可能な水産業や林業を普及させるきっかけとなり得る。それこそが五輪のレガシーとなるはずだ。東京五輪の調達基準は抜本的な見直しが必要だ。

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【MSC認証水産物が並ぶロンドンのスーパー「Waitrose」の鮮魚売り場。ロンドン五輪はイギリスにおけるMSC認証水産物の飛躍的な増加の契機となった(撮影:2016年3月)】

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シラスウナギの輸入量 [ウナギ]

 現在ウナギはゼロからの養殖ができないため、天然のウナギ稚魚(シラスウナギ)を捕獲し、これを養殖池に入れて育てることになります。
 国産のウナギを養殖するには国内でのシラスウナギの量だけでは足りないため、外国から輸入することになります。2007年までは主として台湾から輸入していましたが、台湾がウナギの稚魚の輸出を禁止したため、香港経由で入ってくることになりました。この場合、台湾→香港→日本となりますが、このうち台湾→香港のルートが「密輸」ということになります。

eel.jpg

 以下が、シラスウナギの輸入がどこから入ってきているのかを財務省貿易統計に基づいて主たる輸入国を抽出してグラフ化したものです。台湾からの輸入が途絶えたとたんに香港からの輸入が激増し、現在に至っていることがわかります。また、昨年はその前の年に比べて香港からの輸入が倍増していることがわかります。この他やや気になるのは、フィリピンからの輸入が増えている点です。

ウナギ稚魚の輸入量.jpg
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