So-net無料ブログ作成
検索選択
前の10件 | -

日経特集記事「守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本 」 [漁業資源管理]

 先日取材を受けました日本経済新聞社記事を以下一部紹介いたします。
 共有資源論のエリノア・オストロムが指摘しているように、コミュニティの自主管理がうまくゆくためには、きちんとした履行監視と違反者に対する罰則のシステムがなければなりません。日本の自主管理にはこれがないため、うまくゆかない、ということになってしまいます。

=======================================================================

 【守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本】

 「かつて漁業大国として名をはせた日本。しかし、水揚げ高は大きく減っている。資源管理は全く野放図というわけではないが、対象となる魚種が少ないなどの課題がある。

 TAC(トータル・アローアブル・キャッチ)と呼ばれる漁獲可能量があり、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、マサバ・ゴマサバ、スルメイカ、ズワイガニの7魚種に適用している。TACは7魚種それぞれの資源動向などを調査して決めた生物学的許容漁獲量(ABC)に、社会的・経済的要因を加味して決められ、各都道府県に割り当てられる。

■効力の乏しい漁獲規制

 だが水産庁の元職員で漁業資源課長などを務めた東京財団上席研究員の小松正之氏は「TACは事実上、乱獲を許す水準に設定されている」と憤る。ABCには「これ以下の漁獲量なら明らかに安全」ということを示すABCターゲットと、「これ以上の漁獲量は明らかな乱獲」を意味するABCリミットという2つの値がある。小松氏によると、TACはABCリミットを上回る値に決められることが多いという。一方で水産庁資源管理部管理課は「ここ数年はABCリミットとTACの水準をそろえている」と反論する。

 日本がTACを定めるのは7魚種のみ。一方でニュージーランドは628系群(系は一つの魚種の中で産卵場、産卵期、回遊経路などが同じ集団を指す)、米は約500系群、欧州は38魚種。小松氏は「TAC魚種は日本だけ圧倒的に少ない。魚種が豊富な東北でとれる魚20種類くらいにTACを設定すれば、日本全体でとれる魚の7~8割はカバーできる」と話し、TACを定める魚種を増やすべきだと主張する。

(中略)

 日本でTACが決められている7つ以外の魚種は、国や都道府県による公的管理と、漁業者による自主的管理の組み合わせにより資源が管理されている。

 公的な規制には漁業者に与える漁業許可や免許のなかで禁漁期間などを定める「漁業調整による公的規制」、とってよい魚の大きさや時期などを決める「漁業調整規則」、保護区の規定について定めた「海区漁業調整委員会の指示」がある。さらに各都道府県が地元にとって重要な魚種について「資源管理指針」を策定する。その指針に基づき、漁協や漁連が「資源管理計画」「漁場利用計画」を決める。指針と計画をつくる管理体系は2011年から始まったものだ。

 例えば宮城県は資源管理指針でクロマグロについて「休漁に取り組む必要がある」としている。これに基づき、牡鹿漁協では具体的な休漁日数や休漁方法を定めた資源管理計画を決めている。ただ、こうした都道府県の指針と漁協・漁連の計画に強制力はなく、計画に従う従わないは漁業者に任されている。

 漁業者に自主管理を守るよう促すために国がつくったのが、全国漁業共済組合連合会による補助だ。漁業者が都道府県のつくる資源管理計画を守れば、漁業者の収入が減少した場合に、全国漁業共済組合連合会から国と漁業者が拠出した積立金が支払われる仕組みだ。

 ところが、この制度は自主管理を守らせる仕組みとしては不十分だ。日本経済新聞が入手した資料では、宮城県内の各漁協がつくった14の資源管理計画の参加者数に占める共済の加入者数は平均38%だった。なかでも資源が減っているとされるスルメイカについては県漁協がつくった計画に参加する漁業経営体が55あるものの、うち共済加入者はひとりもいなかった。

 早稲田大学地域・地域間研究機構で環境政策論が専門の真田康弘客員次席研究員は「共済に入っていない漁業者には効かないインセンティブだ」と語る。「罰則のある漁業法や漁業調整規則違反でも、罰金だけなど大した罰則がないため、違反を抑止する十分な動機づけにはなっていない」と分析する。自主管理に任せる日本のやり方は意味をなさないものとなっている。

 水産庁漁政課の栗原秀忠課長は「日本は幼魚の発生量が毎年大きく変わる。一律で公的に規制しようとしても迅速に対応できず無理がある」と話す。

■守られない自主規制

 宮城県石巻市の底引き網漁師、阿部幸一氏は「自主規制を守っていない人はたくさん見たことがある」と話す。阿部氏が漁をする海域でもヒラメやアナゴ、マコガレイなどの魚種についてとってもよい大きさや時期、区域が指針や計画で決められている。

 こうした事態を受け、水産庁は15年度から全国の資源管理計画の有効性などを確かめる作業を始めた。多くの漁協や漁連は通常、計画そのものを公表していないが、水産庁は検証作業の結果を公表する方針だ。

 TACの7魚種は漁業者らが自由に競争してとりあい、漁獲量がTACに達した時点で漁獲をやめることになる。TACなど漁獲規制のない魚種はそれぞれの漁業者がより多くの魚をとろうとする。日本はTACの魚種が少ないため、自然と水産資源が枯渇しやすい。

 日本と違い、世界の主要な漁業大国ではTACで決められた国全体の漁獲総量をそれぞれの漁業者に割り当てる個別割り当て方式(IQ)がとられている。自分に割り当てられた量だけとってしまえば漁は終わりになるため、他の漁業者との競争意識が生まれにくく乱獲になりにくいとされる。

(以下略)」

========================================================================

非常に丁寧に取材された記事です。全文は以下のリンク先から読むことができますので、ご関心のある方は是非。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO20037620W7A810C1000000/
【「守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本 :三陸沖の不都合な真実(中) 」日本経済新聞電子版2017/8/17 6:35】


nice!(0)  コメント(0) 

太平洋クロマグロに関する西日本新聞記事 [マグロ]

 先日取材を受けた西日本新聞記事です。
 太平洋クロマグロに関しては、8月28日(月)から9月1日(金)まで韓国・釜山で開催される中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委員会年次会合で関係国による協議が行われます。私も政府とは独立したオブザーバーとして出席する予定です。

====================================================================

20170825_クロマグロ枠拡大に道 28日から国際会議 日本提案へ 漁業者配慮も合意不透明 _西日本.jpg

「クロマグロ枠 拡大に道 28日から国際会議 日本提案へ 漁業者配慮も合意不透明」【西日本新聞2017.8.25】

 「高級すしネタとして人気がある太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際会議が28日から韓国・釜山で開かれる。日本は「資源回復が見込める場合は漁獲枠の上積みができる」ルールを盛り込んだ規制案を提案する。長崎県や福岡県など九州にも多い沿岸漁業者を中心に漁獲制限への不満が高まっているため、漁獲枠拡大に道を残した案だが、米国など資源回復を優先する参加国は厳しい反応を示すとみられ、合意できるかどうかは不透明だ。

 国際会議は、米国、中国、韓国、台湾などが参加する「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の北小委員会。太平洋クロマグロの親魚は、乱獲が原因で資源量がピーク時の1割程度まで減少しており、WCPFCは、2024年に4万1千トンまで回復させることを目標にしている。

 日本提案は、24年までの目標達成確率が60%を下回れば漁獲枠を自動的に削減させるが、65%以上になれば上積みする仕組み。資源状況の把握を迅速化するため、現行は2年に1度の調査を毎年実施する。漁獲枠上積みを含む提案について、水産庁は「漁業者が漁獲制限に取り組むやる気につながる」と説明する。

 背景には、沿岸で小型魚(30キロ未満)を狙うことの多い漁業者を中心に不満が高まっていることがある。長崎県対馬市の一本釣り漁師、宇津井千可志さん(59)は「資源管理はもちろん必要」とした上で「今の枠では小規模な漁業者は生活していけない」と訴える。

 米国は24年までの目標達成前に漁獲枠を拡大することには慎重な姿勢。さらに、日本は今年6月までの期間で、小型魚の漁獲規制を守れなかった。日本は34年に親魚を13万トンまで回復させる長期目標を盛り込み、資源回復に取り組む姿勢を示しているが、受け入れられるかは不透明だ。

 資源管理政策に詳しい早稲田大の真田康弘客員講師は、漁獲枠上積みの仕組みを念頭に「短期的には漁業者を救済するように見えるが、長期的な視野がない。資源回復を遅らせてしまうことになりかねない」と日本提案に懐疑的だ。 (塩塚未)」
nice!(0)  コメント(0) 

福島民友掲載拙稿「水産物の(東京五輪)調達方針『失格』」 [東京五輪]

 福島民友に掲載された拙寄稿記事「水産物の調達方針「失格」」【福島民友2017年7月23日=共同通信配信】のテキストを以下転載します。なお、テキスト最後の写真は新聞には掲載されていません。

=================================================================

東京五輪の大会組織委員会はこの3月、大会で供される水産物に関する調達コードの第1版を発表した。五輪では回を追うごとに環境への配慮が重視されるようになっている。ロンドン大会では水産物は全て環境や資源保護に配慮した「持続可能な漁業」から調達されるべきだとされ、これはリオデジャネイロ大会にも引き継がれた。
 東京五輪もこのバトンを引き継ぐはずだったが、残念ながら発表された調達方針は、持続可能な漁業への配慮からは程遠く「失格」と言えるものとなっている。
 コードは、水産物は国産を優先するとともに、「海洋管理協議会(MSC)」や「水産養殖管理協議会(ASC)」という国際的に権威ある水産物認証製品のほか、「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」や「養殖エコラベル(AEL)」などの日本国内の認証を受けたものも認めた。
 さらに各漁協レベルなどで自主的に策定される資源管理計画などの下に漁獲・養殖されているものについても「適切な資源管理が行われている水産物」として、調達対象に含めるとしている。
 MSCとASCが国際的な非営利団体が実施する海のエコラベルとして世界各国で受け入れられているのに対し、MELもAELも日本の水産業界団体が中心となってつくった認証プログラムで、審査の過程が透明性を著しく欠いていることなどが専門家から指摘されている。
 MELでは産卵期のクロマグロの親魚を一網打尽にする非持続的な漁業までも認証されている。AELに至っては認証審査のための国の補助金が切れる年度末ぎりぎりに一挙に17もの漁業に認証を与えておきながら、審査の概要すら明らかにされていない。いずれも信頼するに足る認証制度と言えない。
 それでも認証対象の漁業が少ないため、「これでは国産品を提供できない」と危惧した業界団体や水産庁の強い主張に基づいて「資源管理計画などがあればいい」との方針が加えられた。
 だが、これらの計画は一般に公開されていないばかりか、その作成は漁業者側に委ねられている。
 水産庁によると、この結果、日本の水産物の約9割がカバーされたという。つまり「国産ならほぼ何でもあり」ということだ。だが、対象魚種の中には、水産庁の資源評価で「資源状態が低位」とされたものが多数あり、「持続可能な水産物」とするには疑問だ。
 五輪の調達方針で持続可能性を明確にすれば、乱獲で疲弊する日本の水産業を立て直す契機となったはずだった。だが、現状は、持続可能性をなくし、衰退の一途をたどる日本の水産業を追認するにすぎない。
 五輪関連の調達では、木材製品の条件も緩やか過ぎるとの批判や、新国立競技場の建設に使われる木材から、海外で違法伐採されたものが排除できない制度になっていることが環境保護団体などから指摘されている。
 確かに五輪で調達される水産物や林産物は量的に限られる。だが、五輪は、厳格な調達方針を持つことで、持続可能な水産業や林業を普及させるきっかけとなり得る。それこそが五輪のレガシーとなるはずだ。東京五輪の調達基準は抜本的な見直しが必要だ。

IMG_9007.JPG
IMG_9008.JPG
【MSC認証水産物が並ぶロンドンのスーパー「Waitrose」の鮮魚売り場。ロンドン五輪はイギリスにおけるMSC認証水産物の飛躍的な増加の契機となった(撮影:2016年3月)】

nice!(1)  コメント(0) 

シラスウナギの輸入量 [ウナギ]

 現在ウナギはゼロからの養殖ができないため、天然のウナギ稚魚(シラスウナギ)を捕獲し、これを養殖池に入れて育てることになります。
 国産のウナギを養殖するには国内でのシラスウナギの量だけでは足りないため、外国から輸入することになります。2007年までは主として台湾から輸入していましたが、台湾がウナギの稚魚の輸出を禁止したため、香港経由で入ってくることになりました。この場合、台湾→香港→日本となりますが、このうち台湾→香港のルートが「密輸」ということになります。

eel.jpg

 以下が、シラスウナギの輸入がどこから入ってきているのかを財務省貿易統計に基づいて主たる輸入国を抽出してグラフ化したものです。台湾からの輸入が途絶えたとたんに香港からの輸入が激増し、現在に至っていることがわかります。また、昨年はその前の年に比べて香港からの輸入が倍増していることがわかります。この他やや気になるのは、フィリピンからの輸入が増えている点です。

ウナギ稚魚の輸入量.jpg
nice!(0)  コメント(0) 

ワシントン条約動物委員会報告 [国際会議]

2017年8月4日に国連大学ビル1階の「地球環境パートナーシッププラザ」で開催されたワシントン条約動物委員会報告会での私のパワーポイント資料をアップロードしました。以下からダウンロードできます。

https://www.dropbox.com/s/cfyciywjt0xpuwb/CITES%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%A7%94%E5%A0%B1%E5%91%8A%282017.08.04%29.pdf?dl=0
【真田康弘「ワシントン条約(CITES) 第29回動物委員会(2017)報告」】

IMG_2074.JPG

nice!(0)  コメント(0) 

ウナギとワシントン条約(『WEDGE』掲載記事) [ウナギ]

ウナギとワシントン条約に関して『WEDGE』に掲載した拙稿を以下掲載します(写真は『WEDGE』に掲載されたものとは異なります)。

IMG_0002.JPG
【ワシントン条約第17回締約国会議(2016年)】

===================================================================

狭まるウナギ包囲網、「何でも反対」の日本に開けられた「蟻の一穴」
(『WEDGE』2016年12月号、46-48頁)

 9月24日から10月4日まで、南ア・ヨハネスブルグで野生動植物の国際取引等を規制するワシントン条約の第17回締約国会合(COP17)が開かれた。この会合は3年に一度の割合で開催されるが、今回の目玉は、象牙国内市場閉鎖決議などゾウに関係するものと、サメの付属書掲載提案、及びウナギに関する決議案等であった。筆者は2013年にバンコクで開催された前回締約国会合に引き続き、政府とは独立のオブザーバーとして会議の模様を傍聴したが、日本代表団の対応ぶりに当惑を禁じ得なかった。
 今回のCOP17では海産種に関し、サメとエイの一部を付属書Ⅱに掲載する提案が上程された。対して日本(海産種については水産庁主管)は一貫して「海産種は各海域や対象魚種ごとに設けられている地域漁業管理機関で扱うべきで、ワシントン条約での付属書掲載提案に原則全て反対」という方針を取っており 、一人長時間の熱弁を振るい反対討論を行った。「漁業国の力が強く、環境NGOの力が弱い地域漁業管理機関でこの問題を処理したい。ワシントン条約のようなオープンなフォーラムで扱いたくない」というのが本音なのであろう。
 しかし、日本の主張に賛意を表明する国は少数にとどまった。地域漁業管理機関でのサメの管理は十分とは言い難く、管理措置の強化に日本が必ずしも前向きとは言えないことをこの機関に加盟する国々は身をもって知っている。これでは日本の主張に支持が集まるはずがない。これまで海産種の付属書掲載には否定的だった中国すら抑制的な態度をとり、同じく海産種掲載に消極的な韓国は何も発言しなかったことから、日本の強硬論だけが浮き上がり、提案は採択に必要な3分の2を大きく上回る約8割の支持を得て採択された。
 日本の会議での「孤高」とも言える態度はこればかりではない。海産種ではないが、チチカカ湖にしか生息しない絶滅危惧種チチカカミズガエルを付属書Ⅰに掲載して保護してくれと生息国のボリビアとペルーが共同提案した。これに対して日本はただ一国、付属書Ⅰの掲載基準を満たしているのかと反対発言を行った。会場は日本代表団を冷笑するかのような沈黙に包まれ、結局日本がこれを取り下げてコンセンサス採択されたとき、会場の各国代表団及びオブザーバーからひときわ大きな歓声と拍手が沸き起こった。一人ワシントン条約で「悪役」を貫く日本に対する当てつけであることは明白だった。
IMG_9942.JPG
IMG_9944.JPG
【ワシントン条約第13回締約国会議でNGOが配布したチチカカミズガエルのバッジ】

 そんな日本でもEUから提案されたウナギ調査を求める決議案には賛成せざるを得なかった。ウナギについてはこのCOPで付属書掲載提案が出されるのではと日本のウナギ業界関係者は懸念していたが、結局EUは付属書掲載ではなく、ワシントン条約の下で生息状況や国際取引の現状が十分把握されていないウナギに関して調査を行い、これをもとに次回のCOPでどのような対応を取るべきか討議しようという提案を上程した。これに対して日本は、この問題は地域的な協力の枠組みによって解決されるべきであるとワシントン条約での取引規制に消極的な態度を見せつつも、反対は見送った。「調査にも反対」というのは、さすがにどの国からも支持されないと考えたからであろう。

叩けばホコリだらけのウナギの漁獲と流通

 日本のこうした資源管理に消極的な姿勢は、ウナギ資源の枯渇を招き、様々な問題を惹き起こしている。 『Wedge』でも報じていたように、ウナギの漁獲や流通は叩けばホコリがいくらでも出ることは、日本の関係者の間では周知の事実である。シラスウナギ(ウナギの稚魚)は台湾が輸出禁止措置を取って以降それまで輸入実績がほとんどない香港からの輸入が激増している。香港経由の密輸であることは明らかである(『Wedge』2015年8月号、2016年8月号)。 10月末に中央大学・日本自然保護協会等の主催で東京で開催されたシンポジウム「うなぎ未来会議」 では、昨年漁期に国内で養殖したウナギの約7割が無報告採捕物または違法取引物と推定されるとの衝撃的な報告も行われた 。
 1955年ころには200トン以上あったシラスウナギの国内採捕量は現在約15トン程度と10分の1以下に激減している(水産庁(2016)「ウナギをめぐる状況と対策について」3頁)。「闇屋が跋扈し、国際的なシラス・ブローカーが暗躍し、暴力団も関与している」とWedge 2015年8月号でも報じられたように、ウナギに関する違法・脱法行為の指摘と黒い噂は絶えず、 事実、今年に入ってからもシラスウナギの密漁もしくは無許可所持で暴力団員が宮崎県と香川県で逮捕される事件が発生している。
 ウナギ資源の減少に対し、国際自然保護連合(IUCN)は絶滅の危機にある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」でヨーロッパウナギを2008年に絶滅危惧カテゴリーとして最も上位の絶滅危惧1A類 、ニホンウナギは2014年にこれより1ランク下の絶滅危惧IB類に指定した。あくまでIUCNの「レッドリスト」の分類上の話であるが、ニホンウナギと同様に絶滅危惧1B類に指定されているものとして、シロナガスクジラ、タンチョウヅルやトキなどが挙げられる。
 ワシントン条約でもヨーロッパウナギは付属書Ⅱに掲載されて輸出入規制がかかっており、主たる原産国であるEUは輸出許可を現在発給していない。上記二種以外に関しても、IUCNはアメリカウナギをニホンウナギと同じく絶滅危惧IB類に、東南アジアなどに生息するビカーラ種についても準絶滅危惧種に指定している。ビカーラ種が指定された理由の一つは、他のウナギの乱獲によりこの種を代替品として利用する需要が高まることを懸念していることによる。
 日本も内外の圧力に押される形での対策に迫られている。2012年より政府は関係国と協議を開始し、2014年9月、ニホンウナギの池入れ量を直近の数量から2割削減し、異種ウナギ(ビカーラ種など)については直近3カ年の水準より増やさないとの日本・中国・韓国・台湾共同声明を発表、以後法的拘束力のある枠組みを設立するための非公式協議を行っている。
 しかし、池入れ量の2割削減は科学的根拠に基づいておらず、これによって資源の持続性が担保されるものではない。業界団体「日本鰻輸入組合」主催の会議においてすら、台湾の専門家から「現行の池入れ制限では多すぎる。これではEUは納得しない」と指摘されている。法的拘束力ある枠組に関する交渉も、中国の協議不参加等により一向に進展が見られない。
 こうした手緩い対策に関する関係者の認識は残念ながら不十分と言うほかない。日本鰻輸入組合の代表は「組合として台湾からのシラス輸入防止に向けて何らかの対策をうつつもりはない。香港からの輸入は日本政府も認めている」と主張し(Wedge2016年8月号)、水産庁も「闇流通はシラス高騰につながるものの、資源管理とは別問題。闇流通のシラスも最終的には養殖池に入る」と強調、現行の池入れ量規制でもシラスの過剰採捕を防げると結論づけている(みなと新聞2016年10月17日)。
 主管庁の消極的な対応はとりわけ憂慮すべきであり、これでは「日本の担当官庁は乱獲、違法行為と組織犯罪の横行に対して何ら有効な手を打たず、反社会勢力を助長する結果となっている」との批判すら国際社会から招きかねない。今回のワシントン条約COPでは組織犯罪について今まで以上に厳しい目が向けられるようになっている。ワシントン条約のウナギ決議は、調査を通じて「ウナギの闇」を国際社会に広く知らしめ、ワシントン条約を通じた取引制限につながる「蟻の一穴」となる可能性があるだろう。
 ただ、次回19年のワシントン条約COPまでまだ時間は残されている。有効な対策を何ら打とうとしない主管庁に業を煮やした政治も最近動きがみられる。自民党水産部会等の会合同会議の場で井林辰憲衆院議員は「(取引には)反社会的勢力の介在も指摘されている。警察関係者も招き、話を聞くべきだ」と提案、小林史明衆院議員と中谷元衆院議員もウナギの資源管理を担保する上で流通の透明性が必要と訴えている(みなと新聞2016年10月17日)。
 ウナギの持続的な管理に対する組織面でのキャパシティと意思が十分と言えない主管庁にのみこの問題を委ねるべきではない。組織犯罪という面から警察庁、密輸対策として税関及び海上保安庁、資源管理という面から環境省という「オールジャパン」でこの問題に対処すべきであると言えよう。将来にわたりウナギを食べ続けてゆくためにも、ウナギ資源の危機に関する一般やメディアの関心の高まり、これを背景とした政治からのインプット、行政一丸となった取り組みが今こそ必要とされている。

webcast.jpg
【ワシントン条約第17回締約国会議(2016年)を傍聴する筆者】


ニホンウナギに関する東京新聞記事 [ウナギ]

 先日取材を受けたウナギに関する東京新聞記事です。
 実際に先週開催されたワシントン条約動物委員会に参加した際の印象ですが、確かに現在ニホンウナギに対する関心は大きいとは言えませんが、台湾からの密輸問題等がクローズアップされれば付属書掲載提案が出される可能性が大きいのではないかとも思われます。


20170725_ニホンウナギ 台湾 絶滅危惧種へ 日本が輸出入交渉 資源保護 流れに逆行?_東京.jpg

「ニホンウナギ 台湾 絶滅危惧種へ 日本が輸出入交渉」【東京新聞2017.7.25特報1面】

「今日は土用の丑(うし)の日。といえば、ウナギのかば焼きだが、ニホンウナギが日本に続き、台湾でも絶滅危惧種に指定されることになった。そうした中、国と業界団体は台湾との輸出入を解禁する交渉を進めている。国際的な「密輸」を透明化するためというが、「絶滅危惧種保護」の流れに逆行しないか。(橋本誠)
 台湾政府は十九日、ニホンウナギを絶滅危惧種(レッドリスト)に指定することを明らかにした。
 「レッドリストに入ると聞いて、驚いた。かなり資源状態が悪いということだ」。野生生物の取引監視団体「トラフィック」の白石広美さんは、この指定を深刻に受け止める。ちなみにニホンウナギは日本の環境省、国際自然保護連合(IUCN)も、絶滅危惧種に指定している。
 ニホンウナギの養鰻(ようまん)の種苗となる稚魚(シラスウナギ)は、日台間で輸出入が事実上禁じられている。水産庁によると、日本から台湾への輸出が市場への影響を懸念する日本側の業者の要望で、一九七六年に禁止に。台湾側は解除を求めたがかなわず、二〇〇七年から対抗措置として日本への輸出を禁止した。
 稚魚の輸入はほぼ全量が台湾からだったが、〇七年以降は香港からに変わり、今年も四・一トンが輸入されている。だが、香港では漁はほとんどされておらず、台湾産の稚魚が香港経由で日本に輸出されているのは「公然の秘密」。昨年十一月には、香港へ向かう台湾人らの荷物から三十二万匹の稚魚が見つかり、台湾の空港で押収された。
 こうした不透明な流通を正常化するとして、水産庁と養鰻業界は日台の輸出入禁止の解除を台湾側と協議している。水産庁の担当者は「日本、台湾、中国、韓国で資源管理を話し合い、養殖する量に上限を設けたため、日台間の輸出制限に意味が無くなった。台湾から直接輸入できるようになれば、香港を経由することもなくなる」と説明する。
 昨年のワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)締約国会議で、全てのウナギ種の資源状況と取引について議論する提案が採択されたことも影響している。日本養鰻漁業協同組合連合会の担当者は「稚魚の減少に加え、ワシントン条約の話もあり、このままでは養鰻業ができなくなる。ウナギを消費者に供給する責任もある」と話す。
 しかし、輸入解禁の動きには疑問点も多い。日本自然保護協会の辻村千尋保護室長は「日本に入るウナギの半分以上は、どこから来ているか分からない状態。そういう中で、ただ台湾から直接輸入できるようにすれば、密漁された稚魚も合法的に輸入されたように見えてしまう」と批判する。
 根本的には、生産と流通履歴の管理徹底が必要と指摘。「稚魚を取る業者から市場に回す業者まで、全段階で記録をとり、何日間かけて、何トン取ったのか報告させるべきだ。それ抜きには輸入禁止以外に、密漁は止められない」と訴える。白石さんも「輸出時に台湾政府が事前承認する形にすべきだ」と求める。
 早稲田大地域・地域間研究機構の真田康弘客員次席研究員(環境政策)は「そもそも絶滅危惧種に指定される種の輸出が解禁される可能性があるのか」と疑問を呈すとともに、日本側が働き掛けて輸出を解禁させる考え方が「資源保護に逆行する」と断言する。
 「短期的には稚魚の輸入を合法化できても、乱獲が続くことで、将来ウナギが食べられなくなる可能性がある。国際的な日本のイメージが悪化するのも必至。ワシントン条約による規制も避けられなくなる」」

水産庁の天下り・まき網業界編(『WEDGE』2017年8月号記事補足) [水産行政]

 『WEDGE』2017年8月号に共著で4月に開催されたISC(北太平洋まぐろ類国際科学委員会ステークホルダー会議)での「やらせ発言」について書きましたが、その中で巻網業界主要4団体に水産庁OBの天下りポストがある旨言及しましたが、個別については字数の関係から触れませんでしたので、以下補足します。ご参考までに。


武井篤さん 水産庁資源管理部参事官 → 全国まき網漁業協会専務理事
成子隆英さん 水産庁増殖推進部長 → 北部太平洋まき網漁業協同組合連合会会長
加藤久雄さん 水産庁漁業調整課長 → 日本遠洋旋網漁業協同組合顧問 → 同組合長
中前明さん 水産庁次長 → 水産総合研究センター理事長 → 海外まき網漁業協会会長


 武井篤さんの前任として全国まき網漁業協会の専務理事を務めていらっしゃったのが、元水産庁資源課長の中森光征さんです。したがって、中森さんから武井さんにスムースに天下りのバトンタッチが行われたこととなります。武井さんは2016年12月の臨時総会で専務理事に就任されましたが、その1か月後の2017年1月30日付業界紙『みなと新聞』に前職の水産庁では研究畑が長く、「巻網漁業はまだ勉強中」と語っておられます。

 中前さんは一旦水産庁の外郭団体の水産総合研究センター(現・水産研究・教育機構)の理事長に就任してからですので、「天下り」ではなく「渡り」と言ったほうが良いかもしれません。

 なお、現在水産研究・教育機構の理事長は、元水産庁次長の宮原正典さんです。宮原さんは「やらせ発言」が問題になったISCに対して太平洋クロマグロの資源評価を委嘱しているWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)で太平洋クロマグロなど日本近海を含む北太平洋を管轄する北小委員会の議長を一貫して務めていらっしゃっており、ISCステークホルダー会議にも参加されました。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10164
【(『WEDGE』2017年8月号記事】

IMG_0992.JPG

新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー [クジラ]

 今回は、『 IKA-NET NEWS』67号に掲載した日本の北太平洋新調査捕鯨計画についてのエッセイ「新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー」をそのまま以下掲載しました。

=====================================================================
 新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー
                                  真田康弘
 
 2017年4月、IWC科学委員会は日本が同年より実施を計画している新北西太平洋鯨類科学調査計画(New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific: NEWREP-NP)に対する専門家パネル評価報告書を発表したが、その内容は調査捕鯨の継続を企図する日本政府側にとって極めて厳しいものとなった。新たな調査計画では捕獲予定頭数の算定根拠が不明確であるのみならず、なぜそもそも捕獲が必要なのかの立証すらも十分でなく、資源に対する悪影響が及ぶ可能性すら否定できないとして、これらについての問題が克服されない限り、致死的調査は行うべきではない、と新調査計画をほぼ全面否定するにも等しい判断を下したからである。
 では、なぜIWC科学委専門家パネルはここまで厳しい判断を下したのであろうか。本小論ではまず新調査捕鯨計画の概要を簡単に紹介した後、専門家パネルで指摘された主たる問題点につき検討を行い、最後に若干の考察を加えるものとしたい。

1. これまでの北西太平洋での調査捕鯨: JARPN II

 これまで北太平洋では、「第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(Cetacean Studies in the Western North Pacific under Special Permit: JARPN II)」と呼ばれる調査捕鯨が、2000年と2001年の予備調査を経て2002年から2016年にかけて実施されてきた。毎年のサンプル数は、当初ミンククジラ150頭(沖合100頭、三陸・釧路沿岸50頭)、ニタリクジラ50頭、イワシクジラ50頭、マッコウクジラ10頭とされたが、2005年にはミンククジラのサンプル数が220頭(沖合100頭、三陸・釧路沿岸120頭)、イワシクジラは100頭に増やされた。しかし2014年、国際司法裁判所の捕鯨判決敗訴後、①沖合のミンククジラの捕獲を中止、②沿岸のミンククジラの捕獲頭数を120頭から100頭に縮小、③イワシクジラの捕獲頭数を100頭から90頭に縮小、④ニタリクジラの捕獲頭数を50頭から20頭に縮小、⑤マッコウクジラの捕獲を中止している。
 しかし、こうした捕獲頭数の削減は、ICJ判決のわずか十数日後に決定されており、科学的知見を十分に踏まえた判断とは考えにくい。加えて、判決直前の2013年における沖合でのミンククジラ実捕獲は3頭、マッコウクジラは1頭であり、サンプル数を操業実態に合わせただけとの疑念を拭い得ないものであった。2014年のIWC科学委員会の場で日本はサンプル数を減らした理由について、これは調査目的をJARPN II最大の目的とされる海洋生態系での鯨類の役割の究明と生態系モデルの構築に絞ったからだ、と説明を行ったが(1)、この説明に対して科学委員会は説明不十分として追加説明を求め(2)、JARPN IIについての評価を行ったIWC科学委専門家パネルも同様に、なぜ捕獲頭数を変更したのか、その明確な理由を提示せよ、との勧告を行っている(3)。これに対して日本側は、すでに科学委員会に提出した文書で説明は尽くされているとして(4)、サンプル数修正についての追加説明の努力を諦めざるを得なかった。
 JARPN IIで最大の研究目的とされていたのは、「クジラが多くの魚を食べていて、人間の漁業と競合しているはずだから、この関係を明らかにした生態系モデルを構築して、資源管理に役立てるのだ」というものであった。クジラと他の魚類等を巡る生態系モデルを極めて限定された種のクジラの研究だけで可能なのかという疑問は当初より提起されていたが、JARPN IIの結果をレビューした専門家パネルは、生態系モデリングというJARPN II最大の目的の達成度に関し「現段階ではモデリングの結果は戦略的(資源)管理への対処には適してはいないと本パネルは結論する。少なくとも現状において、鯨類や他の海洋生物資源ないし生態系の保全管理の改善をもたらすものとはならなかった(5)」とほぼ全面否定の評価を下している。

2. NEWREP-NP調査計画

 日本が南極海捕鯨裁判で敗訴した要因の一つとしては、南極での調査捕鯨でも生態系モデルの構築を調査目的と掲げていながら、実際はミンククジラの捕獲ばかりを行い、他の海洋生物の研究も、またモデル構築作業も怠っていた結果、論理的整合性のつかない主張をせざるを得ない結果に追い込まれてしまったことが挙げられる。JARPN IIレビューでも生態系モデルに対して全面否定に近い評価に直面した水産庁は、新調査計画でこの部分を断念せざるを得なくなった。この結果、主要調査目的を①日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出と、②沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出の2つに主たる調査目的を絞った新調査捕鯨計画案を策定、2016年秋に発表している(6)。
 IWCでは商業捕鯨が再開された場合「改訂管理方式(Revised Management Procedure: RMP)」というスキームにより捕獲枠の算定が行われることがIWCで合意されている。商業捕鯨の中止がIWCで決定された最大の原因の一つとして、捕獲頭数算定に必要な種々のデータに不確実性が伴うことから、捕獲枠に関するコンセンサスを得られなかったことが挙げられる。そこでRMPでは、種々の不確実性をシミュレーションとして組み入れつつ、①過去の捕獲頭数と、②現在の推定生息数、という2つのデータのみで捕獲枠を計算することが可能となっている。その一方、その他の補助的データをRMPのシミュレーションに組み込むと、より現実にフィットした精緻なモデルを構築することも可能である。致死的調査によってしか入手不可能なデータがRMPにおけるモデル構築の精緻化に役立つのであれば、調査捕鯨の正当性を科学的に裏付けることも不可能ではない。生態系モデルの構築という余計な「突っ込みどころ」をそぎ落とし、対外的にも説明可能なものとしようと試みたと言えよう。
 以下がNEWREP-NPの主たる調査目的(primary objectives)と二次的調査目的(secondary objectives)である。

① 日本沿岸域におけるミンククジラのより精緻な捕獲枠算出
(i) 日本沿岸域のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の分布構造の解明
(ii) 日本沿岸域におけるJ個体群及びO個体群の資源量推定
(iii) 太平洋側O個体群に関し枝分かれした個体群が存在しないことの検証
(iv) 年齢データを用いてRMPを改善
(v) レジームシフトがクジラに与える影響について検討

② 沖合におけるイワシクジラの妥当な捕獲枠算出
(i) 北太平洋イワシクジラの資源量推定
(ii) RMP Implementationのための北太平洋イワシクジラの生物学的・生態学的パラメータの推定
(iii) RMP Implementationのための北太平洋イワシクジラの個体群構造に関する追加的分析
(iv) 北太平洋イワシクジラのRMP ISTsの具体化
(v) レジームシフトがクジラに与える影響についての検討

 捕獲頭数に関しては、①ICJ判決後中止していた沖合のミンククジラの調査捕鯨を復活し、27頭を捕獲、②沿岸ミンククジラの捕獲を100頭から147頭に増加、③イワシクジラの捕獲を90頭から140頭に増加、④ニタリクジラの捕獲は行わず、⑤マッコウクジラの調査捕獲も実施しない、との内容になっていた。
 以上の調査報告書を一読して筆者が気がかりに思ったのは、ミンククジラに関する捕獲枠が沖合が27頭であるの比べて沿岸分が147頭と突出して多い点であった。とりわけ三陸・釧路沿岸の極めて狭小な海域で100頭が捕獲予定である一方、それよりはるかに広大な沖合での海域の捕獲枠が27頭に過ぎない(図1参照)。商業捕鯨が再開できない沿岸捕鯨業者救済のために捕獲枠を手厚く取った一方、沖合はイワシクジラ主体に操業を行うという商業的・政治的見地から捕獲計画を立てた印象がぬぐえないものであった。
NEWREP-NP map 2.jpg
【図1:NEWREP-NP調査海域図。この図の海域7CSと7CNで100頭、海域7WR・7E・8・9の海域で27頭、海域11で47頭捕獲するという計画であった。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” pp. 81, 84.】

3. NEWREP-NP専門家パネル報告

(1) 専門家パネルの構成

 専門家パネルは2017年1月30日から2月3日まで、日本鯨類研究所や共同船舶が所在する豊海振興ビルから徒歩僅か2分のところにある東京・豊海センタービルで開催された。専門家パネルはIWC科学委議長のCaterina Fortuna(イタリア)ら5カ国(米国6名、英国、イタリア、オランダ、ドイツ各1名)の計10名から構成された。パネルでは午前中に日本側より調査計画の説明と質疑応答が行われるオープンセッション(パネルメンバー、日本側、及びオブザーバーが参加)が開催され、午後はパネルメンバーのみでのクローズドセッションが開催され、調査計画及びパネル報告書の検討が行われるという形式が取られた。日本側提案者として水産庁(諸貫秀樹ら)、森下丈二IWC日本政府代表、東京海洋大(加藤秀弘、北門利英)、日本鯨類研究所、水産研究・教育機構の国際水産資源研究所等が参加した(7)。

(2) 調査の目的

 IWCでは「Annex P」と呼ばれる定める手続きに基づき、提出された調査捕鯨計画案に対するレビューが行われる。レビューは提出された調査計画が、鯨類及びその他の海洋生物資源の保全管理に貢献し得るか、致死的調査以外の代替手段はないか、等々といった観点から行われる。
 NEWREP-NPでの調査目的が鯨類資源等の保全管理に役立つのかという点に関し専門家パネルは、種々の注文を付けている。まず目的①(iv)及び②2(v)でレジームシフトが鯨類にどのような影響を与えるかが調査目的として掲げられている点について疑問を呈する。「レジームシフト」というのは海洋環境が数十年間隔で変化し、海洋生態系が大きく変化する現象のことを指す。確かに海洋環境の大幅な変化によって、クジラの食べる魚の量が大幅に変化し、それが捕食者であるクジラの生息数に対して影響を与えるということは理論的に想像することができる。しかし、NEWREP-NPの実施予定期間は12年間であるにすぎない。レジームシフトは通常数十年単位の変化であるため、12年の調査期間では多く見積もっても1回のレジームシフトがあるのがせいぜいということになる。調査期間に照らして合理性に欠くのではないかとの指摘である。専門家パネルは、これについては主たる研究目的として扱うのではなく、補足的なものにしたほうがよいであろうと勧告する(8) 。
 また日本側が今回主たる目的と主張するRMPへの貢献に関しても疑義を提示する。目的②(ii)のイワシクジラの生物学的・生態学的パラメータの推定はRMPによる鯨類の管理に最重要なものとは言えず、②(iii)の北太平洋イワシクジラの個体群構造に関する追加的分析についても、調査を通じて得られる新情報がRMP改善にどの程度寄与するのかが不明だ、と指摘している(9)。
 加えて、致死的調査の部分がNEWRE-NPで目指されている目的に寄与するかについて、①(i)のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の時空分布という目的に関しては、これまでの調査捕鯨等で得られた既存のサンプルを利用して研究できることが多いはずであり、捕獲を通じて新たにサンプルを得ることによって個体群構造の解明に寄与する可能性は低いと指摘する。また①(iv) と②(ii)で目指されているRMP改善に関しても、既に多数のサンプルがあるのだから、新たなサンプル収集が上記目的に果たして貢献するのか不明だ、疑問を提起した。同様に②(iii)の北太平洋イワシクジラの個体群構造に関する追加的分析に関しは、致死的部分は鯨類の保全管理には有用でないと結論付けた(10)。

(3) 沿岸捕鯨のデザイン

 ミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸でバランスを失していることについても専門家パネルは厳しい批判を行っている。まず前述したとおり、北太平洋沖合での捕獲頭数がたった27頭であるのに比べて三陸・釧路沿岸での捕獲頭数が100頭にものぼっており、これでは港の近くでの捕獲が過剰であると指摘する。
 さらに問題として指摘したのが、沿岸での捕獲が通例の鯨類の科学調査としては大きく異なっている点である。通常の調査では、偏りが生じないようにするため、予め決められたラインの上を調査船は航行し、原則としてここから外れることはない。ところが沿岸での調査では、確かに30カイリまでは調査船は決められた航路にそって航行するが、もしクジラに遭遇しなかった場合は、30カイリ以降はミンククジラを捕獲するため自由に船を動かしてよいという計画になっている(図2参照)。調査計画では「日本沿岸域のミンククジラ日本海個体群(J-stock)の時空分布」が調査目的になっているにもかかわらず、これではサンプルに偏りが出てしまい、この調査目的達成に対して重大な障害となってしまうではないか、と専門家パネルは批判する。「調査提案者は本件も徹底的に検討すべきであり、現行のデータ収集計画を妥当とする更なる根拠もしくは計画の修正案を提示せよ」と専門家パネルは事実上計画の見直しを要求した(11)。
NEWREP-NP coastal vessels .jpg
【図2:沿岸調査捕鯨船の航路。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

(4) サンプル数

 新北太平洋調査捕鯨計画案の目的の一つが、捕獲によって耳垢を調べることによってクジラの年齢を特定し、このデータをミンククジラの捕獲枠算定に用いられるRMPに役立てることにより、捕獲頭数算定の精緻化に貢献するということにある。この目的を達成するためとして北太平洋三陸・釧路沿岸及び北太平洋沖合分として127頭の捕獲が必要であると日本側は主張する。127頭のミンククジラを捕獲して調査を行った場合、メスのミンククジラ1頭が子供を何頭産むかの割合が10年間で30%以上減少すれば、それを検知することができるからである、というのがその算定根拠とされた(12)。
 ところが、日本側はメスが子供を産む割合が10年間で30%減少したことを検知することができれば、どのように捕獲枠算定の精緻化に貢献することができるのか、その理由を提示していないと専門家パネルは批判する。確かにメスのクジラがどの程度の子供を産むかの割合の変化を知ることは、捕獲枠の算定の精緻化に役立つとの一般論は成り立つし、事実日本側はその旨の主張を行っている。しかしそのことと127頭の捕獲枠が必要であるとの論証は別の話であり、日本側は30%の変化がどの程度捕獲枠の精緻化に貢献するのか、具体的な数字を提示しての説明をどこにも行っていない。加えて、サンプル数は太平洋側の個体群は単一であるとの前提から算出されているが、新調査捕鯨計画での調査目的の一つは、太平洋側O個体群に関し枝分かれした個体群が存在するかしないかを検証することとなっている。これでは結論が前提に既に含まれてしまっていることになってしまう。以上の点等を鑑み、専門家パネルは「提案側は(北太平洋三陸・釧路沿岸での)サンプル数を論証できていない」と結論付けた(13)。
 他方イワシクジラのサンプル数に関して日本側は、このクジラの自然死亡率推定を算定根拠としている(14)。このデータを得られれば、新調査計画の目的の一つであるイワシクジラ捕獲枠算定の精緻化に貢献することができるからだとの理屈である。ところがこれについても、ではこのクジラを140頭捕獲採集することで、どの程度の捕獲枠の精緻化が図られるのか、それを数値としての具体的な論証がなされていない。従って専門家パネルはイワシクジラについても、やはりこの頭数の捕獲が必要であることの論証に失敗しているとの判断を下した(15)。

(5) 致死的調査の必要性

 致死的調査に代替する非致死的調査の一つとして世界で広く用いられるようになってきているのが、バイオプシー調査である。これは、「バイオプシー銃」からバイオプシーダートをクジラに放つなどの方法で皮膚の一部を採取し、これをDNA検査等に用いる方法である。クジラについてもバイオプシー調査は広く取り入れられつつあり、オーストラリアはこの方法で南極海のミンククジラ等の調査を行っている。
日本側はなぜこうしたバイオプシー調査では調査目的達成が不可能で、致死的調査が必要かについて以下のように説明する。すなわち、日本としてもバイオプシー調査を試み、確かにイワシクジラについては成功率が約5割程度であるが、俊敏に動くミンククジラの成功率は25%程度と低い。これに比較してミンククジラの致死的手法によるサンプル採取の成功率は6割以上である。非致死的調査は費用もかかり現実的でない、との理屈である。
 しかし専門家パネルはこれに納得しない。そもそも日本側の提出した文書によると、これまで非致死的調査が試みられたのは北太平洋のミンククジラは23頭にしかすぎず、調査自体の絶対数が極めて少なく、調査時間も足りていない。JARPA IIレビュー時に専門家パネルはバイオプシー調査に熟達した科学者を関与させるべきだと勧告したにもかかわらず、これも日本側は守っていない。日本は致死的調査ばかりに熱心で、非致死的調査を疎かにしておいて、それで「非致死的調査は現実的でない」というのでは到底納得できないとの理屈である。以上の観点から、専門家パネルは「バイオプシー調査が効率的なあるかどうか、もっときちんと評価せよ」との勧告を行った(16)。また、確かに年齢等一部のデータを入手するためには致死的調査が必要であり、こうしたデータが鯨類の保全管理の改善に貢献する可能性が理論上存在しているが、どの種のデータを集めればどの程度NEPRE-NPでの調査目的を達成することができるのか、定量的な評価を行うべきであるとの勧告を行っている(17)。

(6) 資源への影響

 専門家パネルは日本が実施しようとする調査捕鯨は鯨類資源に対する悪影響を与えるも排除できない、とも主張する。
日本側はミンククジラの資源に与える影響の分析に関して、日本周辺には日本海・黄海・東シナ海個体群(J ストック)とオホーツク海・西太平洋個体群(O ストック)の2つの個体群が存在するとの前提で行っている。ところが北西太平洋のミンククジラについてはさらにさらに個体群を分類できるとの仮説が存在しており、日本も個体群の同定をNEWREP-NPの目的の一つとしている。にもかかわらず日本側はこれらの前提を検討していない。加えて、たとえ日本側の個体群の数に関する前提に基づくとしても、Jストックが混獲等により減少する可能性が存在している。これは懸念すべき問題であると指摘したのである(18)。

(7) ロジスティクスとプロジェクト管理

 ロジスティクス面に関して日本側は、日本鯨類研究所では11名の科学者と2名の技術者がNEPREP-NPに携わるとともに、8つの研究機関や大学から約40名の科学者が関与することになるとして、調査は問題なく実施できる体制がそろっていると説明したが、専門家パネルは「これら日本鯨類研究所の研究者はNEWREP-NPだけに関与しているわけではなく、南極海の調査捕鯨NEWREP-Aやこれまで北太平洋で実施してきたJARPN IIの分析の完成にも携わるはずだ」と述べるとともに、JARPN IIの時から指摘していたことだが、日本はクジラを捕獲することにはやたら熱心だが、その捕獲したクジラを使っての定量分析やモデル構築作業が十分なされていない、事実  JARPN IIの文責すら未だ終わっていないではないかと批判する。
 以上に基づき専門家パネルは「NEWREP-NPの研究デザイン、データ分析、及びレビューの改善を行うための、十分高い訓練を受け有能な分析者・モデラーを雇用することを強く勧告する」と述べる(19)。現在の研究体制・人員では分析を行うに十分ではないとの強い批判と捉えられよう。

(8) 結論

 これら諸々の欠点として指摘した事項を総括するかたちで専門家パネルは、①致死的調査部分についてのサンプリング・デザインとサンプル数が十分正当化できていない、②追加的な年齢データが保全管理の顕著な改善に資するとの十分な正当化ができていない、③ミンククジラ捕獲が資源に与える影響についての評価(とりわけ、現在提案者が採用している方法を取った場合、幾つかのシナリオではJストックが減少することになる点)、の3点を主たる懸念事項と挙げ、以下の旨を述べる。

 「本パネルは、(NEPREP-NPの)主たる目的及び二次的目的が保全管理のために重要であると認めるが、その貢献度にはばらつきがある旨合意する。(NEPRE-NP)提案者の行った作業にかかわらず、以下の旨を結論する。(1)本調査提案は致死的サンプリングの必要性とサンプル数についてその正当性を十分に立証できてはいない。とりわけ、IWCにおける管理保全措置の改善にどの程度資するのかを定量的に立証できてはいない。(2)本調査提案の計画の基本的部分に欠陥がある(20)」

 以上を踏まえ、専門家パネルは、NEPREP-NPの致死的サンプリングを伴う部分については同パネル報告書で同定した点につき追加的作業を行い修正を加えるまで実施すべきでないとの判断を下した。

4. 結びに代えて

 NEPREP-NPに対する極めて厳しい判断に直面した日本側は2017年4月5日、計画の一部見直しを行う旨を明らかにし、5月に開催されたIWC科学委員会に対し、当初案でミンククジラ174頭とイワシクジラ140頭を捕獲する予定にしていたところ、ミンククジラ170頭とイワシクジラ134頭に修正した案を提出した。ミンククジラに関しては、沖合を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸を100頭から80頭に引き下げている。このままでは捕獲頭数について到底合理的な主張をすることができないと判断したためであろう(図3参照)。
NEWREP-NP ミンククジラ捕獲頭数.jpg
【図3: NEWREP-NPでのミンククジラ捕獲予定頭数】

 しかし専門家パネルは捕獲頭数に関する問題にも含め計29項目の勧告を行っている。科学委員会は決定を多数決で行うわけではなく、日本側科学者も出席できるため、あくまで自らが「これで十分な説明はついている」と主張し続ければ、科学委員会としてのコンセンサスは得られず、調査捕鯨に賛成する意見が科学委員会で示されたとの記録が残る。日本側としては、調査捕鯨に賛成の意見もあったとして、計画を実施するのであろうと予想される。
 しかしながら国際司法裁判所判決で示された通り、科学調査目的のための捕獲は、調査捕鯨実施国の一方的判断のみによって行うことはできず、調査目的に照らして捕獲頭数が合理的か等客観的な基準によって判断されるべきであるとされている。日本側がどの程度十分合理的な主張を行うことができたか、それに対して各国の科学者はどのような判断を下したかは、科学委員会報告書の発表を待つほかないが、おそらく各国の科学者を納得させる説明を行うことは極めて困難であることが予想される。
 北西太平洋の調査捕鯨は、商業捕鯨モラトリアムにより操業ができなくなっている沿岸捕鯨業者の救済と南極海調査捕鯨を実施している遠洋捕鯨業者(共同船舶)が南極以外でも「裏作」として操業できるようにしているという科学的観点とは異なる背景から実施されていると言え、これに半ば無理やり調査目的を後付けでくっつけている印象を拭えない。
 商業捕鯨モラトリアムの解除がなされない最大の要因は南極での調査名目での捕鯨を続けていることにある。このままでは理論的には再び他国が北太平洋の調査捕鯨を国際法違反であるとして国際海洋法裁判所等に提訴する可能性すら排除できず、こうなった場合、日本は南極海捕鯨裁判同様、あるいはそれ以上に苦しい弁明を強いられる可能性もあるだろう。そもそも、科学を政治的観点から歪曲することは、既にマグロ等において失われつつあるとも危惧される日本の漁業外交における科学的信頼性を更に毀損することにも繋がる。商業捕鯨の再開を真に望むのであれば、「調査捕鯨」という条約の言わば抜け道を用いて苦しい言い訳をこれからも続け、さらに商業捕鯨再開の道を自ら遠ざけるのではなく、全ての国あるいは少なくともモラトリアム解除に必要な4分の3の多数がIWCで得られるような妥協案の策定の努力を行うことが必要なのではないだろうか。


(1) Government of Japan, “Response to SC 65b recommendation on Japan’s Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific (JARPN II),” SC/66a/SP/10, 2015, p. 2.
(2) IWC, “Report of the Scientific Committee (Bled, Slovenia, 12-24 May 2014),” IWC/SC/Rep01 (2014), June 9, 2014, p. 74.
(3) IWC, “Report of the Expert Panel,” SC/66b/Rep06, 2016, p. 10.
(4) Tsutomu Tamura, et. al., “Response to the Report of the Expert Panel,” SC/66b/SP/01, 2016, p. 3.
(5) IWC, “Report of the Expert Panel,” SC/66b/Rep06, 2016, p. 35.
(6) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP).”
(7) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 51, Annex A.
(8) Ibid., p. 20.
(9) Ibid., p. 21.
(10) Ibid., pp. 42-43.
(11) Ibid., p. 29.
(12) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 18.
(13) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 30.
(14) Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 33.
(15) IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 31.
(16) Ibid., p. 15.
(17) Ibid., p. 15.
(18) Ibid., p. 15.
(19) Ibid., p. 36.
(20) Ibid., p. 44.

北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について:専門家パネル勧告と調査計画最終案 [クジラ]

現在商業捕鯨は日本も加盟する国際捕鯨委員会(IWC)の下で行うことが許されていませんが、同委員会を設けた国際捕鯨取締条約では、第8条で「締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究を目的として(for purposes of scientific research)鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる」と定めています。

但し、南極海捕鯨事件判決で国際司法裁判所(ICJ)は、「要請された特別許可に基づく鯨の捕獲、殺害及び処理が科学的研究を目的としたものか否かは、当該(=捕獲許可を発給した)締約国の認識にのみ委ねることはできない」と、科学研究目的の捕獲許可発給は発給国の一方的判断にのみよるのではないと、判示しています。
ICJ, Whaling in the Antarctic (Australia v. Japan: New Zealand Intervening), Judgement of 31 March 2014, p. 28, para. 61.

ICJでは、当該捕獲許可が第8条に合致するためには、それが客観的に(1)「科学的であること」と(2)科学的研究を目的としたものでなければならないとしており、科学的研究を目的としたものと言えるためには、 調査計画案と実際に行われた調査の種々の要素が、調査計画で謳われている目的に照らして合理的か否かで判断すべきである、と判示しています。

この判決を日本は受け入れており、国際捕鯨委員会でも、調査捕鯨計画については上記判決を組み込んだ評価を行う旨決議しています。

したがって、捕獲頭数等が調査目的に照らして客観的に合理的か否か、国際法上合法であるか(つまり国際法上の脱法操業となっていないか)については、国際捕鯨委員会及びその下部組織である科学委員会での加盟国及び科学者の評価が重要な意味を持つことになり得るでしょう。

日本は今年より北太平洋での新調査捕鯨計画(NEWREP-NP)を実施しますが、これについては2017年1月30日から2月3日に開催されたNEWREP-NP評価のためのIWC科学委員会独立専門家パネルでは、日本政府側の提示した捕獲頭数等に対して調査目的から合理的に説明ができないと事実上全面否定する判断を下したことから、これを受け日本側は調査計画を一部修正しました。
細目については拙ブログ「北太平洋新調査捕鯨計画:IWC科学委での賛否動向について」(http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-06-11)に表を掲載しましたが、以下、主要な論点につきIWC科学委専門家パネル報告の主旨と、これを受け日本側がどのように修正したか見てゆくことにします。

==============================================================

まず、日本側が当初案で提示した「ミンククジラ合計174頭、イワシクジラ合計140頭」という捕獲頭数について専門家パネルは、この頭数は科学的・合理的にその正当性は立証されない、と全会一致で判断しました。なぜこの頭数であるのか、目的に照らして合理的とは言えない、というものです*。

* IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), pp. 39-31.


特にに問題とされたのが、太平洋でのミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸で大きく異なっていることでした。当初計画では下図の「7CS」と「7CN」という黄色に塗った海域で100頭、「11」という肌色に塗った海域で47頭、「7WR」「7E」「8」及び「9」という水色に塗った海域で27頭を捕獲する計画となっています。
NEWREP-NP map 2.jpg

しかしこの図からもわかる通り、水色のエリアで27頭しか捕獲しないのに、沿岸のごく限られたエリアで残りの147頭を捕獲するということになっています。これは余りにアンバランスで科学的な説明がつかない、というのが専門家パネルの全員一致の見解でした。

これを受け、沖合海域(上記図で水色に塗られた海域)を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸(上記図で黄色に塗られた海域)を100頭から80頭に引き下げました。

これは、当初案では沿岸域(7CS・7CN)75%、沖合域(7WR・7E・8・9)25%の比率で捕獲枠を配分していたところ、最終案では沿岸域60%、沖合域40%としたことによります。

NEWREP-NP ミンククジラ捕獲頭数.jpg
【修正されたミンククジラの捕獲予定頭数。網走沿岸域(海域11:肌色部分)は47頭、釧路・三陸沿岸部分(海域7CS・7CN:黄色部分)は80頭、北太平洋沖合(海域7WR・7E・8・9:水色部分)は43頭である。】

サンプル数の算定根拠は以下のようになっています。

ミンククジラ太平洋側(海域7~9)
当初案
① 成熟したO個体群の雌クジラ加入が10年間で30%変化したことが分かるためのサンプル数として計算し、107頭と算出。
② 沿岸域(7CS・7CN)75%、沖合域(7WR・7E・8・9)25%の比率で配分すると、沿岸域80頭、沖合域27頭
③ 沿岸域にはJ個体群が20%混交するためその分上乗せし、沿岸域100頭、沖合域27頭、合計127頭

http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-3.pdf
【Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP), pp. 25, 109-130.】

最終案
① 成熟したO個体群の雌クジラ加入が10年間で30%変化したことが分かるためのサンプル数として計算し、107頭と算出。
② 沿岸域(7CS・7CN)60%、沖合域(7WR・7E・8・9)40%の比率で配分すると、沿岸域64頭、沖合域43頭
③ 沿岸域にはJ個体群が20%混交するためその分上乗せし、沿岸域80頭、沖合域43頭、合計123頭

http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-6.pdf
【Government of Japan, “Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP), pp. 27, 111-147.】


専門家パネルでは、そもそもクジラ加入が10年間で30%変化することが、捕獲枠の改善にどの程度資するのか、定量的な説明がなされていないため、ゆえにこのサンプル数の算定根拠は正当化されない、と判断しました。

これに対して日本側は、専門家パネルに応えて定量的な根拠を示すのではなく、クジラの加入の変化が捕獲枠の改善に資することは疑いがなく、また他の国際漁業管理機関で同様のデータを用いている、との反論を行いました。したがって、更なる算定根拠の正当化を求める専門家パネルの勧告は拒否されたかたちとなりました。
比率が60%対40%にした根拠については、最終報告書においてその詳細についての言及は見当たらないように思われます。


また、今回の新北太平洋調査捕鯨では、沿岸については、①30カイリまでは直線状のあらかじめ定められた航路を走るが、②30カイリを超えて航行してもなお予定の頭数のクジラを捕獲することができなかった場合、あとは自由に動き回ってクジラを捕まえて構わない、という計画になっています。また、30カイリ以内で1頭捕獲できた場合は陸揚げするため港に帰り、帰る途中でクジラを発見したら、これを捕獲しても構わない、ともなっています。

NEWREP-NP coastal vessels .jpg
【沿岸の調査捕鯨の航路イメージ。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。cは30カイリ内で1頭捕獲できたため、港に帰ろうとしている。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

これについて専門家パネルは、これではサンプルの代表性が保てず、科学的に正当化されない、と全員一致の判断を下しました。
これについて日本側は、自分たちが調査で得ようとしているのは統計学的な捕獲時の年齢解析のために必要な年齢データであるが、これについてはランダムサンプリングは必要がないと反論し*、結果として、沿岸域について「30カイリを超えれば、自由に捕獲できる」とする調査計画の変更はなされませんでした。したがって、専門家パネルの勧告は受け入れが拒否されたかたちとなりました。

* IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 70.

最後にイワシクジラについて、自然死亡率の推定を行うためとして、140頭の捕獲を行うと当初計画で提案しました。

これに対して専門家パネルは、イワシクジラを140頭捕獲採集することで、どの程度の捕獲枠の精緻化が図られるのか、それを数値としての具体的な論証がなされていないとして、この頭数の捕獲が必要であることの論証に失敗しているとの判断を、やはり全会一致で下しました。

これに対する日本側の対応ですが、IWC科学委員会位の後日本側が提出した最終的な調査計画では、イワシクジラについてはやはり捕獲頭数は134頭と6頭を減じていますが、その算定根拠を示した説明書(Annex 16)も、当初案と概ね変わらないものとなっています。したがって、専門家パネルの勧告は受け入れが拒否されたかたちになりました。


次回の国際捕鯨委員会は来年ブラジルで開催予定ですが、専門家パネルの勧告の上記部分については少なくとも受け入れを事実上拒否した北太平洋新調査捕鯨計画は、相当程度の議論を呼ぶことになることが予想されます。

IMG_0203.JPG
【昨2016年スロベニアで開催されたIWC隔年会合の模様。筆者撮影】

前の10件 | -