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IWC脱退による商業捕鯨再開は脆い前提に立っていないか? [クジラ]

 日本政府は2018年12月26日、国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)への脱退通告を行いました。この通告は2019年6月30日に効力が発生し、これ以降日本はIWCの非加盟国となります。これにより、商業捕鯨を排他的経済水域内で再開するとしています。

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【国際捕鯨委員会第67回会合(2018年)の模様】

 しかしこれには国際法上の問題があります。日本も締約国となっている国連海洋法条約第五部「排他的経済水域」の第65条で「いずれの国も、海産哺乳動物の保存のために協力するものとし、特に、鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する」と規定されています。つまり、排他的経済水域であったとしても、「適当な国際機関を通じて活動する」法的義務が存在します。
 これに対して水産庁などは「IWC科学委員会や本委員会にオブザーバーとして出席する」ことにより「適当な国際機関を通じて活動する」の義務を満たすと判断しています。しかし通常この条項は「国連海洋法条約の締約国はクジラの管理について、適切な国際機関に参加して、あるいは適切な国際機関の定めたルールに則って活動しなければならない」と解すべきものだとの主張が当然なされ得るでしょうし、そのような解釈が自然のように思われます。従ってIWCに参加せず、またそのルールにも服せずに排他的経済水域内で商業捕鯨を実施することは国際法違反、すなわち脱法操業、IUU漁業であると批判されることになるでしょう。
 また、日本のこの政策の担当者は、IWCではオブザーバー参加があたかも未来永劫無条件であるように誤解されているようにも思われますが、そうだとしたら政策判断として大変危ういと言わざるを得ません。
 オブザーバー参加に関する規定はIWCの設立条約である国際捕鯨取締条約の本文にも、4分の3の多数で改正が可能な附表(Schedule)にもありません。この規定は議事手続規則に存在します。
 現行の議事手続規則C.1(a)項では「条約の締約国でないいかなる国及び国際機関も、委員会にオブザーバーとしてすることができる」とされており、したがって他のIWC加盟加国の意向にかかわらず、オブザーバー参加ができます。
 しかしながら、議事手続規則は改正を行うことができます。そして、議事手続規則の改正は単純過半数で足ります(議事手続規則E.3(a))。
 つまり、議事手続規則を変更し、例えば「条約の締約国ではないが、条約の下で定められた規則に従っている国に対しては協力的非加盟国としてオブザーバー参加を認める(注:つまり、それ以外はオブザーバー参加を認めない)。協力的非加盟国であるかどうかは、IWCで決定する」としてしまうと、オブザーバーからも排除されてしまうことになってしまいます。
 「たとえ非加盟国であったとしても、当該海産種を管理する国際機関のルールを守らなければならないし、そうでなければ漁獲は認められない」という一般的ルールは公海の漁業資源管理のための枠組み条約的な役割を果たしている「国連公海漁業協定」にも定められています。
 すなわち、同協定第8条4項では「小地域的若しくは地域的な漁業管理のための機関の加盟国若しくはそのような枠組みの参加国又は当該機関若しくは枠組みが定めた保存管理措置の適用に同意する国のみが、当該保存管理措置が適用される漁業資源を利用する機会を有する」と定められています。
 この条約は魚類、軟体動物、及び甲殻類が適用対象であり(条約第1条1項(c))、鯨類は適用の対象ではないため、上記条項の適用は受けませんが、「IWCでも国連公海漁業協定の趣旨を汲み、このため議事手続を改正するのだ」と改正を正当化することが可能ではないかと思われます。
 オブザーバー参加が認められず、かつIWCに代替するような「適当な国際機関」を北太平洋で設立し日本がその加盟国となっていなければ、排他的経済水域限定の商業捕鯨操業さえ、その道を断たれる可能性があります。議事手続規則を改正してオブザーバーから排除するというのは、ある意味で容易に考えつくことができる戦術をIWC加盟国が一つも思い至らないとは想像しがたいようにも思われます。したがって、「オブザーバー参加による国連海洋法条約第65条を満たす」作戦は極めて危うい前提に上に立っていると言わざるを得ないでしょう。
 

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天下りましておめでとうございます(水産庁の天下り)・シリーズ2019 [水産行政]

 業界紙の2019年元旦号に、水産業界団体からの新年挨拶の広告記事がありました。
 昨年もブログで紹介したのですが、各業界団体の役員の名前が並んでいるので、水産庁等のOBがいる団体と役員に赤の丸印でハイライトしてみました。

20190101_業界団体年賀広告.jpg

 以下、一覧にしてみました。ご参考までに。参照先がわかるようにハイパーリンクがあるものについては青でハイライトされています。また、役員報酬がわかるものについては、役員報酬規程にハイパーリンクをつけています。加えて、補助金受入額がわかるものについては、引用先をハイパーリンクで付して記載してみました(順次アップデート予定です)。

大日本水産会
白須敏朗会長(年俸:1860万円) ← 元農林水産事務次官・水産庁長官
山下潤副会長 ← 水産庁次長
重義行専務理事(年俸:1550万円) ← 水産庁増殖推進部長

日本漁船保険組合
本田直久常務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁漁港漁場整備部防災漁村課長

全国漁業信用基金協会
藤井富美雄専務理事(年俸webで非公開) ← 元漁政部水産経営課経営改善班課長補佐

海外漁業協力財団(7億9千万円を国庫補助金として受入れ(2018年度予算))
竹中美晴理事長(年俸:614万円以内) ← 農林水産審議官
遠藤久専務理事(年俸:1410万円以内) ← 水産庁資源管理部審議官

全国漁業共済組合連合会
内海和彦常務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁漁政部参事官

日本水産資源保護協会(1億2千万円を国庫補助金として受入れ(2018年度予算))
下村政雄(役職名不明)(年俸webで非公開) ← 水産庁振興部振興課長

全国豊かな海づくり推進協会(1億2千万円の補助金を受入れ(2018年度予算))
濱田研一専務理事(年俸:800万円) ← 水産庁漁政部漁業保険課長

全国水産技術者協会
川口恭一会長(年俸webで非公開) ← 水産庁次長
原武史理事長(年俸webで非公開) ← 水産庁中央水産研究所 所長
井上潔専務理事(年俸webで非公開) ← 水産総合研究センター 理事
關哲夫理事(年俸webで非公開) ← 水産総合研究センター 東北区水産研究所 所長
中添純一理事(年俸webで非公開) ← 水産総合研究センター 中央水産研究所 所長
福永辰廣理事(年俸webで非公開) ← 水産総合研究センター 業務推進部 次長
山田久(年俸webで非公開) ← 水産総合研究センター 中央水産研究所 所長

日本トロール底魚協会
岡本純一郎(年俸webで非公開) ← 水産庁遠洋課長

全国底曳網漁業連合会
富岡啓二会長理事(年俸webで非公開) ← 資源管理部漁業調整課付(農林水産省大臣官房政策課調査官)

全国まき網漁業協会
武井篤専務理事(年俸:1000万円) ← 水産庁資源管理部参事官

日本かつお・まぐろ漁業協同組合
山下潤代表理事組合長(年俸webで非公開) ← 水産庁次長

海外まき網漁業協会
中前明会長(年俸webで非公開) ← 水産庁次長

全国いか釣り漁業協会
川口恭一会長(年俸webで非公開) ← 水産庁次長
堀尾保之専務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁漁政部漁業保険管理官

全国さんま棒受漁業協同組合
大石浩平専務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁漁政部漁業保険管理官

全国定置漁業協会
森義信専務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁境港漁業調整事務所長

責任あるまぐろ漁業推進機構(1733万円を補助金として受入れ(2018年度予算))
長畠大四郎専務理事(年俸:1000万円) ← 水産庁漁政部漁業保険管理官

全国水産卸協会
篠田幸昌専務理事(年俸webで非公開) ← 林野庁次長

海洋水産システム協会(3億3千万円を国庫補助金として受入れ(2018年度予算))
津端英樹会長(年俸:事務局長と併せ合計2100万円以内) ← 水産庁増殖推進部付
平石一夫事務局長(年俸:会長と併せ合計2100万円以内) ← 水産庁増殖推進部研究指導課海洋技術室長

マリノフォーラム21(1億2千万円を国庫受託収益として受入れ(2018年度予算))
井貫晴介代表理事会長(年俸:1080万円) ← 水産庁増殖推進部長

全国漁港漁場協会
橋本牧会長(年俸:1200万円) ← 水産庁漁港漁場整備部長

漁港漁場漁村総合研究所
髙吉晋吾理事長(年俸webで非公開) ← 水産庁漁港漁場整備部長
吉竹正明常務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁漁政部漁政課付(水産庁漁政部漁政課管理官)


水産土木建設技術センター
宇賀神義宣理事長(年俸webで非公開) ← 水産庁漁港漁場整備部長
丹羽行専務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁資源管理部国際課国際水産情報分析官

全国漁港・漁村振興漁業協同組合連合会
橋本牧代表理事会長(年俸webで非公開) ← 水産庁漁港漁場整備部長

全国漁港漁場新技術研究会
橋本牧会長(年俸webで非公開) ← 水産庁漁港漁場整備部長

海と渚環境美化・油濁対策機構(4600万円を補助金として受入れ(2018年度予算))
粂知文専務理事(年俸:800万円以内) ← 水産庁資源管理部審議官

海洋生物環境研究所
香川謙二理事長(年俸:1016万円) ← 水産庁次長

全国水産加工業協同組合連合会
提坂猛常務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁増殖推進部付 兼 内閣官房内閣参事官(内閣官房副長官補付)

全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会
奥野勝専務理事(年俸webで非公開) ← 水産庁増殖推進部付  

漁業情報サービスセンター(3億4千万円を国庫補助金として受入れ(2018年度予算))
川口恭一会長(年俸:1210万円) ← 水産庁次長
淀江哲也専務理事(年俸:1090万円) ← 水産庁漁政部漁業保険管理官
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日本のIWC脱退:外交的失敗の帰結だ【共同通信配信コラム記事】 [クジラ]

先日共同通信から配信され、地方紙各紙に掲載された日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退に関するコラムを転載しました。もしよろしければご参考までに。

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【2018年9月に開催された国際捕鯨委員会本会合の模様】

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視標「IWC脱退」
国際社会で信頼なくす 
 外交的失敗の帰結だ  早稲田大学客員准教授 真田康弘 

 日本政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。これ以上IWCに留まっても商業捕鯨再開の道筋が描けないので脱退で再開を図るという。しかし脱退は南極海の調査捕鯨からの撤退を意味し、南極海での商業捕鯨再開を長く求めてきた日本にとっては、IWCでの外交的失敗の帰結であるとも言える。
 そして日本周辺での商業捕鯨の実施も容易ではない。政府は排他的経済水域(EEZ)と領海内でのみ商業捕鯨を再開するとした。だが、日本も加盟する国連海洋法条約では、鯨類の保全管理は「適当な国際機関を通じて活動」しなければならないと規定している。従って日本のEEZや領海内でも商業捕鯨を再開する場合、IWCに代わる国際機関の設立するなどの対応が必要になる可能性が高い。
 カナダはIWC非加盟だが、先住民に年数頭のホッキョククジラ捕獲を許可しており、IWCに報告書等を提出。これにより「適当な国際機関を通じて活動」したこととしている。
 日本も再開後はIWCにオブザーバーとして参加し、報告書などを提出することで上記条項を満たすと主張すると思われるが、先住民の年数頭程度の捕獲と、100頭を超えるような商業的な捕獲とは規模や意味合いが異なり、EEZや領海内であっても国際社会からの批判は免れない。国際法的にも疑義が生じる。
 日本は「国際社会における法の支配」を外交の大原則としており、この意味からも脱退は、国際社会での日本の信頼性を低めこそすれ、高めることにはなり得ない。
 IWCの設立根拠である国際捕鯨取締条約第8条は、締約国政府が「科学的研究のため」であれば独自に捕獲許可を発給できると規定しており、日本はこれまでこの条項を援用し南極海での調査捕鯨を実施してきた。だが、脱退すると、これができなくなる。
 「南極海など公海での調査捕鯨を中止し、捕鯨はEEZ内に限定する」という案は約20年前に妥協案として当時のIWC議長から提起されたことがある。これが、IWCで成立し得る数少ない妥協案だと多くの識者が指摘していた。
 IWC内部にいても得られた可能性があることを、脱退で実現したというのは外交の失敗だと言える。南極海の捕鯨から撤退し、活動を大幅に縮小するという外交的敗北を「IWCからの堂々退場」というナショナリズム的レトリックで言い換え、糊塗(こと)することは正しい姿勢とはいえない。
 日本国内での捕鯨賛成論は純粋な「捕鯨支持」というより、ナショナリズム的感情に基づく「反・反捕鯨」と言うべき部分が少なくない。脱退はそうした心情を満たすものとはなるだろう。だが、その結果、得られるものは少なく、失うものは大きい。

【「静岡新聞」2018年12月28日付・「宮崎日日新聞」2018年12月27日付等掲載】
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イワシクジラワシントン条約:ワシントン条約第70回常設委員会報告 [クジラ]

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【ワシントン条約第70回常設委員会の模様】

 この2018年10月にソチで開催されたワシントン条約常設委員会には私もオブザーバーとして出席しましたが、この委員会では日本が調査捕鯨として公海で捕獲しているイワシクジラの国内水揚げが議題となり、ワシントン条約違反と認定されました。これにより翌2019年2月1日までに日本は是正措置を条約事務局に報告し、5月よりスリランカで開催されるワシントン条約締約国会議と併せて開催される次回常設委員会で日本の是正措置を審議する予定です。
 上記ソチ開催の常設委員会のイワシクジラ問題に関する審議の模様と結果についての小論をJWCS(野生生物保全論研究会)のニューズレターに寄稿し、このほどウェブにアップされました。以下からアクセスすることができます。ご参考までに。
 
https://www.jwcs.org/data/1812_sanada.pdf
【真田康弘「イワシクジラとワシントン条約:第70 回ワシントン条約常設委員会参加報告」『JWCS通信』第85号(2018年)、2~7頁】

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【赤の広場】




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国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案 [クジラ]

 9月10日(月)から14日(金)までブラジル・フロリアノポリスで開催されていた国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)第67回総会が終了しました。

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【国際捕鯨委員会第67回総会の模様。提供:佐久間淳子氏】

 総会ではブラジルなどが20年にわたり採択を求めてきた南大西洋サンクチュアリ(鯨類保護区)提案は賛成39、反対25、棄権3と採択に必要な4分の3の多数を得られず否決された一方、同じくブラジルなどが提案した商業捕鯨モラトリアムの重要性を再確認し「致死的調査は不必要」とした「フロリアノポリス宣言」などが賛成40、反対27と採択に必要な過半数の多数を得て可決。また先住民生存捕鯨の捕獲枠の改訂がオーストラリアやニュージーランドといった原則として商業捕鯨を一切認めない立場の国も賛成する中賛成58、反対7、棄権5と採択に必要な4分の3の多数を得て可決されました。

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【フロリアノポリス宣言表決結果】

 ちなみにIWCでは法的拘束力のある付表の改正(サンクチュアリ提案や捕獲枠の改訂提案等)は採択に4分の3、IWCの組織内部的な事項以外については法的拘束力がない決議案は過半数の多数で可決されます。

 この会議で日本側は「The Way Forward」と題するパッケージ提案を上程しました。これは現在のIWCが商業捕鯨の再開を認めず機能不全に陥っているとの認識の下、「持続可能な捕鯨委員会」を総会の下部機関として設立、現在付表の修正は総会で4分の3の多数が必要なところ、これら下部機関でコンセンサスで合意された提案は総会で過半数の多数が得られれば可決されるよう条約を改正(このため条約改正のための全権会議を招集)、持続的な利用が可能と認められたクジラについては商業的な捕獲を可能にするよう付表を改正する、という内容でした。なお「持続可能な捕鯨委員会」設立及び条約改正全権会議を求めるものは過半数の多数で可決が可能な決議案です。

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【提案を説明する日本政府代表】
 
 内容が決議案から付表の修正、さらには条約改正までを含む極めて包括的なもので、日本側はこの提案のコンセンサスを目指すとの意向でした。今回のIWCは数十年ぶりに日本人が議長を務めることから、日本国内の一部には商業捕鯨の再開に期待感も広がっていたようで、鈴木俊一・自民党捕鯨議員連盟会長が「今回のIWCが商業捕鯨復活に向けて画期的な第一歩となるよう議連としても見守ってゆきたい」と代表団に発破をかけ(水産経済新聞2018年8月9日)議員を現地に派遣するなど、採択を目指し並々ならぬ意欲で日本側代表団は会議に臨んだようです。

 しかしこの提案を一見して、残念ながらなぜ採択の見込みが絶望的なものを出してくるのか、非常に不思議に思っていました。総会でオーストラリア代表が、「この提案は、これが失敗に帰すということはっきりわかっていて、失敗することを意図して考えられ提案されたものであるとの結論する他ない(It is hard to avoid the very difficult conclusion that the proposal was designed and brought forward with the intent of clear knowledge that it will be failed.)」と発言していましたが、日本提案の状況を的確に言い表していると考えられます。かつてIWC政府代表代理として捕鯨交渉のタフ・ネゴシエイターとして名を馳せた小松正之・東京財団研究所上席研究員も「率直に言って、非現実的」と批判されていました(みなと新聞2018年9月10日)。実際、コンセンサスどころか、日本提案は賛成27、反対41、棄権2と過半数を大きく割り込み否決されました。

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【日本提案に対し「わざと失敗することがわかっていて提案しているのでないか」と批判する豪州代表ニック・ゲールズ博士。代表の発言の後会場の一部から拍手が起こりました。】

 そもそもこの提案が正式に公表されたのは7月と総会の僅か3か月前。実際に総会でも「3か月前に突然出てきた」との発言が複数よりあったことから、実際に各国に提示されたのも時期的にあまり変わらなかったようです。ハードルが高い提案であればあるほど、十分事前に提示して各国に対して説明と根回しが必要なはずで、これでは外交手法として残念ながら稚拙と言わざるを得ません。

 たまたま提案が公表された7月にワシントン条約動物委員会に出席していたのですが、たまたま会議にIWCでは最も保護的なポジションを取るあるラテンアメリカ諸国のIWCにも来ているという代表に日本提案をどう思うかと聞いたところ、到底賛成できないとのことでした。オーストラリアはもとより会議に先立って「日本提案には絶対反対」の立場を明確にしていましたし、IWCに出席するNGOも強く反対の立場でした。ラテンアメリカ諸国やEU諸国はこうしたNGOの意見が強く反映されることから、もとより採択される見込みは全くなかったと言ってよいでしょう。

 日本側は、「この日本側の提案は一回限りのものであり、もし採択されなかった場合は次回の総会には出さない。もしこの提案が否決されたならば、IWC脱退も考えざるを得ない」と交渉を試みていたようにも側聞しました。しかし、この提案に合意が得られなかった場合脱退も選択肢かとの質問に対し、水産庁の担当者は「その議論は時期尚早」と業界紙のインタビューで答えていました(みなと新聞2018年7月31日)。もちろん一般の外国人は日本語はわからないでしょうが、東京に在外公館を有している国々は関係する報道はくまなく読んで適宜本国に伝達しているはずですので、これでは「脱退を検討する」とのポジションはブラフ(はったり)であるとあらかじめシグナルを送っているに等しいと言えます。残念ながらやはり交渉手法として稚拙と言わざるを得ないでしょう。

 日本案否決後、谷内正明農林水産副大臣は「あらゆる選択肢を精査せざるをえない」と発言し、「IWCからの脱退の可能性に言及」と報じられました。

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 問題となったところを、以下そのまま見てみましょう。

“We continuously believe the potential of IWC as a forum of global governance for the conservation and management of whale resources. And therefore, we wish to continue in cooperation with the IWC in various ways to achieve the objective of the Convention enshrined in the Convention. However, if scientific evidence and diversity are not respected, if commercial whaling based on science is completely denied, and if there is no possibility for the different positions and views to coexist with mutual understanding and respect, then Japan will be pressed to undertake fundamental reassessment of its position as a member of the IWC where every possible option will be scrutinized.”

「我々は鯨類資源の保全管理のフォーラムとしてのIWCの可能性を引き続き信じております。従いまして、この条約の目的を達成するため、様々なかたちでIWCとの協力を引き続き行っていきたく思っております。しかしながら、もし科学的証拠と多様性が完全に否定され、もし科学に基づく商業捕鯨が完全に否定され、そしてもし異なった立場や見解が相互の理解と尊重の下に共存する可能性がない場合、日本はIWCの加盟国として立場を抜本的に再検討せざるを得ないこととなり、全てのオプションを精査せざるを得なくなるでしょう」


 以上のステートメントでは、「鯨類資源の保全管理のフォーラムとしてのIWCの可能性を引き続き信じ」、「様々なかたちでIWCとの協力を引き続き行っていきたい」とされている一方、 「全てのオプションを精査せざるを得ない」とのくだりのまえにif(もしも)が3つもついており、しかも「脱退」の文言は入っていません。少なくとも現時点では脱退の可能性は大きな選択肢とは到底言えないと考えられます。

 ちなみに日本が「脱退の可能性」に初めて言及したのは今から約四半世紀前の1992年のことです。

 この年開催されたIWCでは、商業捕鯨再開にさらに条件を付す決議案が圧倒的多数で採択されました。この決定を受け、日本政府代表団の島一雄代表(水産庁次長)は「もし科学的証拠に基づく議論が尊重されないとすれば、IWCは本来の機能を停止したと言わざるを得ない」とした上で「(このままでは)IWCからの脱退を求める国内の圧力は強まるばかりだ」と指摘、国内政治・世論の動向次第では、脱退も検討せざるを得ない、との認識を明らかにしています(読売新聞1992年7月4日「日本がIWC脱退を示唆 不公平な運営非難 政府代表演説 総会が閉幕」)。

 この1992年の島代表のステートメントでは「脱退」の文言に言及されており、今年のIWCでの谷内副大臣の発言よりも意味的に強い内容を含んでいると言えます。もとより少なくともこのころから日本は「全てのオプション」を精査している筈であり、したがって四半世紀以上「全てのオプション」が検討され続けてきたとも言えるでしょう。
 国際捕鯨取締条約第8条で科学調査目的の捕獲については条約規制の適用除外とすると定められており、日本はこれを援用して南極海と北太平洋で調査捕鯨を実施しています。また、国連海洋法条約は第65条で「鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動しなければならない」と規定されています。このため、今回IWC議長を務めた森下丈二・IWC日本政府代表が指摘しているように「IWCを抜けた時点で、南極海での捕鯨が、事実上許されなくなる。南極海を捨てる覚悟がある時のみ、この(脱退という)選択肢を探れる」と言えます(みなと新聞2016年12月16日)。

 さて、余談なのですが、IWC総会は毎回のごとく時に討議がヒートアップし、熱い議論が行われることがあります。特に商業捕鯨の再開やサンクチュアリ提案などに関しては今回もそうでした。

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【日本提案に対してコメントするアルゼンチン代表】

 反捕鯨国はEU、ラテンアメリカ諸国、オーストラリア、ニュージーランド、そして常にどんな議題でも一家言有するモナコ、商業捕鯨再開支持側では日本、アイスランド、ノルウェー、アンティグア・バーブーダ、そして今回はセネガルが熱い論客でした。

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【熱弁するセネガル代表】

 数的に劣る日本側は勢力を増やすため新規加盟を促す作戦を取っており、この結果8月下旬に「日本から支援を受けた西アフリカのリベリアがIWCに加盟」しました(産経ニュース電子版。2018年9月5日)。ということで今回新規加盟のリベリアから2人代表が出席し日本支持側として発言してくれていたのですが、やはり正直クジラなどには関心がそれほど強くないからか、もう1人の自国代表が発言している時ですらスマートフォンに夢中。ある意味で現在のIWCのある側面を象徴するようにも思えました。

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【ブラジル提案に対して発言するリベリア代表】

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【発言終了後のリベリア代表。横のルクセンブルク代表もスマホに熱心です】

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ワシントン条約事務局、イワシクジラの水揚げが条約規定に反するとの報告書を発表 [クジラ]

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【イワシクジラ。出典:Wikipedia Commons

 2018年8月24日(金)、ワシントン条約事務局が日本のイワシクジラ調査捕鯨に伴う鯨肉の水揚げに関する報告書(SC70 Doc. 27.3.4)を発表しました。

 日本は現在北太平洋と南極海で調査捕鯨を実施しています。北太平洋で調査捕獲対象としているのはミンククジラとイワシクジラの2種類です。

 ワシントン条約では上記鯨種をともに附属書Ⅰに掲載されています。日本はこの掲載に関し、ミンククジラについては留保を付けて条約の適用を受けないことになっていますが、北太平洋のイワシクジラについては留保を付けておらず、条約の義務に服する必要があります。

 条約では附属書Ⅰに掲載された種については、「主として商業的目的」に利用される場合の輸出入並びに再輸出及び海からの持込みを行うことは認められていません(条約第3条)。ここでの「海からの持込み」とは、公海上での魚や海産種の漁獲・捕獲・採取などを指します。

 ここでの「主として商業的目的」の利用の解釈については、「非商業的側面が明らかに支配的である(clearly predominate)と言えない全ての利用は主として商業的性質を有すると見なされるべきで、付属書I掲載種の輸入は許可されるべきではなく、使用目的が明らかに非商業的であるとの挙証責任は輸入をする側が負う」との決議が日本も賛成する形で採択されています(Resolution Conf. 5.10 (Rev. CoP15))。

 昨2017年12月にジュネーブで開催されたワシントン条約常設委員会では、日本のイワシクジラ調査捕獲に伴う鯨肉の利用が、「主として商業目的」に該当しており、条約違反ではないかとの問題が審議されました。ここでは日本のイワシクジラ肉の持込みがワシントン条約上合法であるとの発言をした国は一か国もおらず、「条約違反だ」などとの厳しい声が相次ぎました。最終的に事務局が日本に調査団を派遣し、そこで得られた結果などをもとに報告書を作成し、その報告書を2018年10月に開催される次回の常設委員会で検討することになりました。

 今回発表されたのは、その報告書です。端的に言いますと、日本のイワシクジラ調査捕獲に伴うイワシクジラ肉の国内持込みはワシントン条約違反である旨を強く示唆する内容となりました。

 一応事務局の報告書では、①常設委員会が日本のイワシクジラの調査捕獲にともなう鯨肉持込みがワシントン条約違反であると判断する場合、②常設委員会が日本のイワシクジラの調査捕獲にともなう鯨肉持込みがワシントン条約違反ではないと判断する場合、の二通りの選択肢を用意して、常設委員会に下駄を預ける形式にはなっています。しかし、事務局は日本のイワシクジラ肉の日本への持込みは「主として商業的目的」に該当すると判断するとともに、もし常設委がワシントン条約違反ではないと判断する場合には、条約の諸規定やワシントン条約で採択された決議から逸脱することになる、と述べているため、事実上の一択になっています。

 日本の担当部局である水産庁は、「科学調査目的の捕獲は国際捕鯨取締条約で認められている。ゆえにこれはワシントン条約での「主として商業的目的」での利用に該当しない」と主張していました。

 しかしこれについて条約事務局は、「国際捕鯨取締条約の規定を遵守することは、ワシントン条約を遵守することとは別である。そもそも国際捕鯨委員会やその他のどの関係国際機関も、日本の調査捕鯨が国際捕鯨取締条約を遵守したものだと判断していないではないか」とばっさり事務局報告書10頁)。

 結論としては、日本の現在実施しているイワシクジラの「海からの持込み」の調査捕獲許可発給の形式等が適切でないので、これを是正するよう常設委に勧告するとともに、「常設委員会がどう判断するかによりけりだが」との条件を付けていますが、常設委が日本に対して「主として商業的目的」に該当するようなイワシクジラ肉の日本への持ち込みを停止するよう勧告することもあり得るだろう、また必要なら、日本に対してどのような是正措置を取ったかを来年2月までに報告するよう求める勧告することをあり得るだろう、との事務局案勧告を行っています(条約事務局報告書13頁)。

 10月にロシアのソチで開催される常設委員会は私もオブザーバーとして参加する予定ですので、この議論の行方をしっかりウォッチしてみようと思っています。

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ワシントン条約動物委員会参加報告会(2018.7.30)資料アップロード [ウナギ]

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 2018年7月に開催されたワシントン条約動物委員会の参加報告を7月30日(月)19時より、表参道・国連大学ビル隣の東京ウィメンズプラザ(1F・視聴覚室)で行います。「ウナギはワシントン条約に掲載されるのか」といった問題や、クジラなど他の海産種の問題などをお話しする予定です。

 報告会に参加される方、あるいは参加はしないが興味がおありの方のため、私の報告のパワーポイント資料は、以下のリンク先からダウンロードすることができるようにいたしました。ご参考までに。
 
 なお、参加希望されます方は、件名を「CITES報告会」としてevent(a)jwcs.org( (a)を@にしてください)に申し込みください。

https://www.dropbox.com/s/hi3ufaza5dnaz3i/CITES%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%A7%94%E5%A0%B1%E5%91%8A%282018.07.30%29.pptx?dl=0
【JWCS(野生生物保全論研究会)主催「ワシントン条約動物委員会 参加報告会」発表用パワーポイントスライド】

https://www.jwcs.org/event/844/
【JWCS「ワシントン条約動物委員会 参加報告会」告知・申し込み】


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今年漁期の稚ウナギ(シラスウナギ)採捕実績 [ウナギ]

 来週の7月16日(月)からジュネーブでワシントン条約動物委員会が開催されます。ウナギについても検討が加えられる予定です。

 ウナギは現在のところ、完全な養殖はできません。「シラスウナギ」と呼ばれる稚魚のウナギを捕まえてきて、これを養殖池に入れることになります。
 このシラスウナギの不漁が今年広く報道されました。最終的にどうなったかについて以下グラフにしてまとめてみました。今漁期に100kg以上の採捕量があった都道府県を抽出したものです。

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* 小数点以下四捨五入
* 千葉県は採捕上限を定めていない。
* 採捕量は『日本養殖新聞』2018年6月15日付「〈保存版〉2018年国内外シラスウナギ池入れデータ」参照。
* 採捕上限についての出典は以下の通り。千葉県・茨城県・神奈川県・三重県・徳島県:県担当者からの聞き取り。静岡県:みなと新聞2018年2月2日。愛知県:みなと新聞2018年3月30日。高知県:日本経済新聞2018年2月28日。宮崎県:みなと新聞2018年4月2日。鹿児島県:みなと新聞2018年4月9日。

 上記グラフからもわかるように、いずれの県でも採捕量は前年を下回り、特に神奈川、愛知、三重、徳島、高知、宮崎、鹿児島で大幅に落ち込んでいることがわかります。
 今年漁期の始まり(2017年終り~2018年初め)、シラスウナギは大不漁に見舞われましたが、それを何とか補ったのが漁期の終わり(2018年3~4月)の関東地方等東日本でまとまった採捕が見られたことです。しかし千葉県はそもそも採捕上限を設けておらず、茨城県や神奈川県の採捕上限も実際の採捕量からかけ離れたものが設定されていることが上記の表からも理解されます。これではせっかく遅れて回遊してきたシラスウナギをあるだけ捕ってしまうことに繋がりかねません。 

 以下はシラスウナギがどれだか養殖池に入れられたかを示したものです。ここからも、その量が年を追うごとに減っていっていることがわかります。

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* 2003-2017年度の池入れ量は、水産庁「ニホンウナギ稚魚(シラスウナギ)の池入れ動向について」、2002年以前及び2018年度については、日本養殖新聞2018年6月15日付を参照。

 天然ウナギの漁獲量です。1961年に3,387トンだったものが、2015年にはわずか70トンに減少しています。

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* データ出典:e-Stat・ 政府統計の総合窓口「海面漁業生産統計調査」

 なお、ニホンウナギについては、その減少の度合いから鑑み、ワシントン条約附属書Ⅱの掲載基準を十分に満たすと考えられます。その理由については拙ブログ「ニホンウナギはワシントン条約の付属書掲載基準を満たすのか?」に書きましたので、ご関心がありましたらご覧ください。


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公平さを欠く沿岸漁業者へのクロマグロ漁獲枠配分 [マグロ]

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【スーパーで廉価に出回るまき網により漁獲されたクロマグロ。】

 この時期、まき網で水揚げされたクロマグロがいたるところで廉価で販売されています。産卵親魚を狙ってまき網で一網打尽にされたクロマグロ。処理がよくないため、残念ながら非常に品質のよろしくないものが少ないありません。
 
 このようにまき網が大量に漁獲している一方、沿岸の零細漁業者は公平性を欠いた漁獲枠の配分に途方に暮れています。先日、沿岸漁業者には寝耳に水の形で30kg以上の漁獲枠が発表され、パブコメの期間も2週間程度と極めて少ないうちに、言わば彼らの頭ごなしで決められてしまいました。これに対する沿岸漁業者の強い憤りと不満は当然と言えます。

 クロマグロは国際的には「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」で管理されていますが、日本のクロマグロ管理に対するあまりに後ろ向きな姿勢に対して2016年の年次会合では加盟各国からの批判が集中、日本はまさに非難の十字砲火を浴びることとなりました。私はいろいろな国際会議に出たことがありますが、あんなものすごい状態に遭遇したことはまずありません。
 
 その2016年の会議で日本側は「段階的な規制しか受け入れられないのは、日本には2万人以上の小規模漁業者や定置漁業者がいるからだ」と熱弁を振るって反駁していたのですが*、いざ規制をかけようとすると、沿岸は漁業をやめて下さい、廃業してくださいと言わんばかりの態度は、国際的に言っていることと国内でやることが違うではないですか、と思ってしまいます。

* WCPFC第13回年次会議報告書(会議議事録)、65頁にそのくだりがあります。
 
 大中まき網漁業には1年間で3,000トンもとることができるのに*、7月からはじまる漁期に沿岸漁業者に対して割り当てられた枠はたった1,174トン、まき網の3分の1です。

* 前年小型魚から大型魚に振り替えられた250トンを含む。

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【大型クロマグロの漁獲枠配分。水産庁「太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について」(2018年3月)、17頁。

 WPCFCでの国際的な合意では、大型魚は漁獲を2002~04年水準に抑制するとなっており、基準年は上記3年が使われているのですが、今回の配分はなぜだかまき網の漁獲枠配分が上記基準年より有利になる2015年と16年の平均が基準として用いられてしまいました。この結果、2002~04年のまき網以外の大型クロマグロの漁獲比率は36%であったところ、これが32%へとさらに減る事態に。

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【大型クロマグロ(30kg以上)の2002-04年漁獲量平均と、今回導入された大型クロマグロ漁獲枠。まき網の比率が高くなっていることがわかる。水産庁「太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について」(2017年8月)、48頁のデータをもとに作図。】

 こうした沿岸漁業者に対する著しく不公平な配分と日本の主なまき網団体*にはすべて水産庁のOBが再就職されていることとは、何の関係もないと強く信じたいところです。

 * ここに言う「主なまき網団体」とは「全国まき網漁業協会(全まき)」、「北部太平洋まき網漁業協同組合連合会(北まき)」、「日本遠洋旋網漁業協同組合(遠まき)」、及び「海外まき網漁業協会(海まき)」のことを指します。「全国まき網漁業協会」常勤役員規定第3条によると、同協会の常勤役員の年俸は1千万円です。前任の水産庁OBは2004年9月30日から2016年12月13日まで約12年在籍されたので、退職金を別として計約1億2千万円の給与を在任中に受け取ったことになります。したがって2016年の沿岸漁家の平均漁労所得が235万円(農水省統計より)であることを所与とすると、全国まき網漁業協会の理事を12年間務た水産庁OBの同協会からの給与所得は、沿岸漁家の生涯年収分(20~70歳の50年間を働いたと仮定した場合)と同じことになります。

 そもそもWCPFCでは条約第五条「保存及び管理の原則及び措置」の(h)において、「零細漁業者及び自給のための漁業者の利益を考慮に入れること」を加盟国に要求しています。
 また、日本のその策定に中心的役割を果たした国連食糧農業機関(FAO)「責任ある漁業のための行動規範」では、「生存漁業、小規模漁業及び沿岸小規模漁業を含む漁業者の利益が考慮されること」(7.2.2)、「伝統的な漁業慣行、生計を漁業資源に深く依存している原住民及び漁業共同体の必要性並びに関心に適切な認識が払われるべき」こと(7.6.6)が定められています。今回の漁獲配分は、上記の考え方に背くものと考えられます。

 太平洋クロマグロの管理は前途多難ですが、地中海などを回遊する大西洋クロマグロは厳しい規制を導入、資源は現在大きく増加していると考えられています。資源管理の成功例です。

 では、そんな「成功事例」では漁獲枠の削減はどのように行われたか。以下のグラフからも明らかなように、最も厳しい削減の対象とされたのは大規模漁業であるまき網でした。

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【大西洋クロマグロの東大西洋および地中海における漁法別漁獲量と漁獲枠(TAC)。ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 102.

 以下は漁獲量がピークに達した2007年と、厳しい漁獲規制の導入に伴い漁獲量が最も少なかった2011年の漁獲量と比率をあらわしたものです。まき網は48,994トンの漁獲が4,306トンへの9割減、漁法に占めるシェアも80%から44%へとほぼ半減です。

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【東部大西洋・地中海における大西洋クロマグロの漁法別漁獲量。ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 98.のデータをもとに作図。】

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【東部大西洋・地中海における大西洋クロマグロの漁法別の漁獲比率。ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 98.のデータをもとに作図。】

 これに比べて、まき網漁業以外の漁獲量は、12,006トンから5,468トンに減ったものの、減少はマイナス54%と約半減にとどまり、2011年のシェアは56%と大幅に増加しています。これまで一番クロマグロを漁獲し、したがって一番責任が重く、かつ大規模漁業者であるまき網に対して大きな負担を要求したのは、FAO行動規範に照らしても当然のことでした。

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【太平洋クロマグロの漁法別漁獲量と産卵親魚資源量。単位:トン】

 ひるがえって日本ではどうでしょうか。以下は漁法別での漁獲量と親魚資源量、それから過去の総漁獲量の漁法別での比率です。まき網の累積漁獲量は5割を超えており、最も漁獲した以上、資源減少の一義的責任を当然負うべきでしょう。

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【太平洋クロマグロの漁法別漁獲割合】


 大型魚については、その第一段階として、現在行われている産卵親魚のまき網漁業の即時停止が望まれます。昨日のブログ記事で示した通り、現在のような資源状態で産卵親魚を大量に漁獲することは、資源の回復を著しく遅らせる可能性を排除できません。

 北太平洋のマグロに関しては、「北太平洋まぐろ類国際科学小委員会(ISC)」というグループが国際的な資源評価を行っています。しかしISCでは産卵期のまき網でのクロマグロ漁獲が資源にどのような影響を与えるかについて、まだアセスメントをしたことがありません前ISC議長のジェラルド・ディナードさんの発言。森聡之さんFB・20186月1日付)。ISCは水産庁の外郭団体である水産研究・教育機構のプレゼンスが非常に大きいのですが、そのことがアセスメントをしないでいることとは全く関係がないことを強く信じたいところです。

 アセスメントが存在しない場合はどうすればよいのか。それについて「予防原則」もしくは「予防的アプローチ」の考え方に即すべきと考えます。これは、「十分な科学的情報がないことをもって、保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」(WCPFC条約第六条二項)を意味し、1992年の地球サミットで採択された「環境と開発に関するリオ宣言」、FAO責任ある漁業のための行動規範、国連公海漁業協定などにも明文規定されており、環境や資源管理に関するグローバルな基準です。

 産卵親魚の大量漁獲に関しては「十分な科学的情報がない」以上、このことをもって漁獲の暫定停止という「保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」ことは、WCPFC条約の趣旨に合致するものと考えられます。

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 上図は2015年時点での漁港別の水揚量と価格です。ここからも明らかなように、一本釣りの大間のマグロは6,000円を超えているのに、境港は1200円台と全く値段が異なります。

 6月11日に衆院議員会館で開催されたクロマグロ緊急フォーラムでは、学習院大学の阪口功先生より、現行規制の問題点などについて講演が行われました。この場で阪口先生より、大型クロマグロのまき網とそれ以外の漁法に対する漁獲配分について、水産庁提示案、均等配分案、水産庁提示案逆比率案のそれぞれで、期待水揚げ額はどのようになるかが報告されました。これにまき網を漁獲停止にした場合の案をつけたものが下図です。

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【成魚漁獲の配分と総水揚げ額(単位:百万円)。阪口功(2018年6月11日)「日本におけるクロマグロ漁獲規制の問題点」(緊急フォーラム「クロマグロ漁獲規制の問題点」配布資料)39頁より作図。配分は留保前の水産庁案(大中まき網3,098トン、その他1,489トン)を使用し、大中まき網の築地中値平均764円、その他の築地中値平均を4,391円として計算(データソース:みなと新聞(時事水産情報))】

 まき網に倍以上の枠がある水産庁案ですら、まき網の期待水揚げ額は相対的に少なく、まき網への配分が少なければ少ないほど、経済的にも大きな水揚げ額が期待でき、まき網への配分がゼロの場合、期待水揚げ額は現行規制案の2倍となることがわかります。以上から鑑み、まき網の漁獲暫定停止は経済的合理性にも即したものであると考えられます。


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