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「クロマグロ産卵親魚をいくら獲りまくっても大丈夫」なのか:専門家の見解 [マグロ]

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【2018年6月11日に衆院議員会館で開催されたクロマグロ緊急フォーラムの模様】

 先日のブログでは、クロマグロ漁獲規制に関する沿岸漁業者緊急フォーラムについて書きました。

 沿岸の漁業者の皆さんの一致した意見は、「我々にばかり重い負担を負わせる一方、資源に深刻なダメージを与えている筈の産卵期(ちょうど今頃です)のまき網漁獲はなぜ規制が緩いのだ」というものでした。

 これに対して水産庁は「親が減っても子供の数(加入)とは関係がない。ゆえに産卵期の親を取っても資源に問題はない」と頑なにまき網漁業者を擁護し続けました。ちなみにそのことと日本の主なまき網団体*にはすべて水産庁のOBが再就職されていることとは、何の関係もないと強く信じたいところです。

* ここに言う「主なまき網団体」とは「全国まき網漁業協会(全まき)」、「北部太平洋まき網漁業協同組合連合会(北まき)」、「日本遠洋旋網漁業協同組合(遠まき)」、及び「海外まき網漁業協会(海まき)」のことを指します。なお、まったくの余談ですが「全国まき網漁業協会」常勤役員規定第3条によると、常勤役員の年俸は1千万円です。前任の専務理事の元水産庁研究部資源課長の方は2004年9月30日から2016年12月13日まで約12年在籍されたので、退職金を別として計約1億2千万円の給与を在任中に受け取ったことになります。農林水産省統計による沿岸漁家の2016年の平均漁労所得は235万円ですので、全まき役員12年間で得られた水産庁OBの収入は、沿岸漁家漁労所得の51年分に相当することになります(2016年平均を所与とした場合)。言わば沿岸の漁師さんの一生分の収入(20~70歳の50年間を働いたと仮定した場合)は、水産庁を退職した後まき網団体に再就職した水産庁OBの12年間の給与所得のみで得られた収入と同じという計算なります。なかなか儲かるお仕事のようです。


 では、専門家は「産卵期の親魚漁獲」をどのように見ているでしょうか。

 まず大西洋・地中海のマグロ類を管理する「大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)」事務局次長を歴任された、三宅眞博士のコメント。

「本来、最も効果的な対策は、産卵期・場を禁漁にすることです。科学者はこれを最初から唱えてきています」

「過剰な漁獲能力の削減急務:水産総合研究センター遠洋水産研究所客員研究員・三宅眞氏に聞く」『OPRTニューズレター』No. 33(2009年1月)、2頁

 このコメントは東大西洋・地中海のクロマグロの乱獲が明るみとなり規制強化が強く叫ばれていた2009年のもので、三宅博士は「しかし、各国の思惑がからみ、科学者が禁漁期と禁漁区を設けるように勧告しても無視され、代わりに、割当量を減らすことで対応しようということになっております」と続けて発言されています。
 
 こうした漁獲国の手ぬるい姿勢に対して国際的な批判が強まり、西大西洋・地中海でのまき網操業は約11か月間禁漁されることになりました。これに関して「地中海ではむしろ産卵期にクロマグロを取っている」と水産庁は主張しています。しかしICCAT科学委員会議長は、巻網の解禁漁期を1か月に制限していることは「産卵期のうちの重要な時期を禁漁していることに相当する」とコメントしています*。

【*出典:ICCAT, “REPORT for biennial period, 2010 – 11 PART I (2010) – Vol. 1 English version: COM,” 2011, p. 266.


 規制の強化によって最も削られたのは、資源に対するインパクトが大きいまき網にすることは大西洋・地中海では自明の理でした。以下は西大西洋・地中海でのクロマグロ漁獲量を漁法別で示したICCATのグラフです。下図緑色の「purse seine(まき網)」が最も削減幅が大きいことがわかります。

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ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 102.


 産卵親魚の漁獲について、次に海洋環境学・水産海洋学がご専門の東京大学教授・木村伸吾先生の『クローズアップ現代』でのコメント

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産卵前の産卵親魚を取るというのは、資源にとって、とっても悪いことですね

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産卵する時期のものを避けて漁獲をかけるというような漁業資源の管理の仕方というのが望まれます

NHK、「クローズアップ現代:食卓の魚高騰! 海の資源をどう守る」、2015年4月15日(水)放送


 次に、生態学・水産学がご専門の横浜国立大学教授・松田裕之先生の、今回のクロマグロ大型魚沿岸規制に関してのパブリックコメント

「クロマグロは産卵期に産卵場に密集する。ミナミマグロがIUCNが絶滅危惧種に指定した時、その反論の根拠に産卵期の漁業を禁止していることをあげた。産卵場での漁獲を許せば一層の資源枯渇は技術的に可能です
横浜国大 松田裕之公開書簡「クロマグロ漁獲枠配分のパブリックコメントへの意見」、2018年6月6日


 次に、北太平洋のマグロ資源の資源評価をしている「北太平洋まぐろ類国際科学小委員会(ISC)」議長のジョン・ホームズ博士。

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【ISC会合で説明するジョン・ホームズ博士(一番前で立っている男性)。2018年5月31日】

「そもそも、産卵期の産卵場所にその様な船(=巻き網漁船)が居る事自体、おかしな話だ。この資源量は我が国(カナダ)だったら即時禁漁となる数字だ」

【ISC太平洋クロマグロMSE(管理戦略評価)ワークショップで会議終了後、森聡之さんの質問に答えて。2018年5月31日・横浜。森聡之さんFB、2018年6月1日付記事。なおこの会議には私も出席し、森さんたちがホームズさん達と歓談する横にいました。ちなみにその後で一緒に歓談していた方に対して、「何か都合のいい答えを外人から聞こうとするのはおやめになってはいかがでしょうか」と水産庁系研究機関に属する研究者の方からメールがやってきたとのことです。独立した科学者に意見を聞くことで何か都合の悪いことでもあるのでしょうか。興味深い出来事です。】


 そして、前回のブログ記事でもアップしたとおり、水産研究・教育機構の国際水産資源研究所でこの問題を統括し、ISCでも日本をリードした中塚周哉・くろまぐろ資源グループ グループ長、石田行正・水産庁遠洋水産研究所元日本海区水産研究所所長、水産研究・教育機構 国際水産資源研究所・福田漠生研究員、秋田鉄也研究員の『Marine Policy』掲載論文。ここでは資源が30,000トン、初期資源量比約5%の時点で「親が減ると、子も減る」状態が起こると主張されていました。現段階で公開されている最新の資源評価では親魚量は16,557トンなので、これを下回っていることになります。したがって公開されている最新の資源評価(2016年公表)に基づき、かつ上記論文の結論が正しいと仮定するならば、現状では「親が減ると、子も減る」ということを水産研究・教育機構の国際水産資源研究所に所属する執筆研究者の方々は論文で力強く主張されています。水産庁系の研究機関に所属されながらも、役所の意見とは異なり、研究者としての立場を貫かれている姿勢には頭が下がる思いです。

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Nakatsuka, S., Ishida, Y., Fukuda, H., & Akita, T., “A limit reference point to prevent recruitment overfishing of Pacific bluefin tuna.” Marine Policy, 78(August 2017), 110. 横軸で示されている親魚資源量(SSB)が約3万トンまでは子供の数(加入:recruitment)と正比例関係にあることを示されており、これは論文の結果が正しいと仮定すると、親魚資源量が3万トンを下回ると子の数が減ることを示している】


 以上から鑑みても、この問題を専門とする大多数の科学者は「クロマグロのような一度に卵をたくさん産むような資源であったとしても、資源が激減した状態になると、親が減ると当然子も減る」ということで概ね意見の一致を見ているように思われます。親が減ると子が減るのは一般常識としても極めて当然で、こうした一般常識や科学者の見解を真っ向から否定するのは、役所の一部とこのマグロを漁獲している大中規模まき網業界、及びそれらに繋がる方面のみと言えるのかもしれません。

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【太平洋クロマグロの産卵親魚資源量と加入量。ISC, "2016 Pacific Bluefin Tuna Stock Assessment: Report of the Pacific Bluefin Tuna Working Group," July 2016, p. 79.のデータをもとに作図】

 ちなみに上図が太平洋クロマグロの産卵親魚資源量と加入量のデータをもとに作図したものです。この図一つからして、親魚の数と小魚の数は全く関係なく動いているとは到底断言し得ないように思えますが。私には難しいことは全くよくわかりませんが、なんで「親の数と子供の数は関係ない」といつまでも言い張り続けられるのか、もし常にそうであるとするならば、私にはむしろそのことのほうが専門の一つである政治学的な観点からも興味深く思うところです。


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