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国際捕鯨委員会第67回会合と日本提案 [クジラ]

 9月10日(月)から14日(金)までブラジル・フロリアノポリスで開催されていた国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)第67回総会が終了しました。

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【国際捕鯨委員会第67回総会の模様。提供:佐久間淳子氏】

 総会ではブラジルなどが20年にわたり採択を求めてきた南大西洋サンクチュアリ(鯨類保護区)提案は賛成39、反対25、棄権3と採択に必要な4分の3の多数を得られず否決された一方、同じくブラジルなどが提案した商業捕鯨モラトリアムの重要性を再確認し「致死的調査は不必要」とした「フロリアノポリス宣言」などが賛成40、反対27と採択に必要な過半数の多数を得て可決。また先住民生存捕鯨の捕獲枠の改訂がオーストラリアやニュージーランドといった原則として商業捕鯨を一切認めない立場の国も賛成する中賛成58、反対7、棄権5と採択に必要な4分の3の多数を得て可決されました。

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【フロリアノポリス宣言表決結果】

 ちなみにIWCでは法的拘束力のある付表の改正(サンクチュアリ提案や捕獲枠の改訂提案等)は採択に4分の3、IWCの組織内部的な事項以外については法的拘束力がない決議案は過半数の多数で可決されます。

 この会議で日本側は「The Way Forward」と題するパッケージ提案を上程しました。これは現在のIWCが商業捕鯨の再開を認めず機能不全に陥っているとの認識の下、「持続可能な捕鯨委員会」を総会の下部機関として設立、現在付表の修正は総会で4分の3の多数が必要なところ、これら下部機関でコンセンサスで合意された提案は総会で過半数の多数が得られれば可決されるよう条約を改正(このため条約改正のための全権会議を招集)、持続的な利用が可能と認められたクジラについては商業的な捕獲を可能にするよう付表を改正する、という内容でした。なお「持続可能な捕鯨委員会」設立及び条約改正全権会議を求めるものは過半数の多数で可決が可能な決議案です。

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【提案を説明する日本政府代表】
 
 内容が決議案から付表の修正、さらには条約改正までを含む極めて包括的なもので、日本側はこの提案のコンセンサスを目指すとの意向でした。今回のIWCは数十年ぶりに日本人が議長を務めることから、日本国内の一部には商業捕鯨の再開に期待感も広がっていたようで、鈴木俊一・自民党捕鯨議員連盟会長が「今回のIWCが商業捕鯨復活に向けて画期的な第一歩となるよう議連としても見守ってゆきたい」と代表団に発破をかけ(水産経済新聞2018年8月9日)議員を現地に派遣するなど、採択を目指し並々ならぬ意欲で日本側代表団は会議に臨んだようです。

 しかしこの提案を一見して、残念ながらなぜ採択の見込みが絶望的なものを出してくるのか、非常に不思議に思っていました。総会でオーストラリア代表が、「この提案は、これが失敗に帰すということはっきりわかっていて、失敗することを意図して考えられ提案されたものであるとの結論する他ない(It is hard to avoid the very difficult conclusion that the proposal was designed and brought forward with the intent of clear knowledge that it will be failed.)」と発言していましたが、日本提案の状況を的確に言い表していると考えられます。かつてIWC政府代表代理として捕鯨交渉のタフ・ネゴシエイターとして名を馳せた小松正之・東京財団研究所上席研究員も「率直に言って、非現実的」と批判されていました(みなと新聞2018年9月10日)。実際、コンセンサスどころか、日本提案は賛成27、反対41、棄権2と過半数を大きく割り込み否決されました。

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【日本提案に対し「わざと失敗することがわかっていて提案しているのでないか」と批判する豪州代表ニック・ゲールズ博士。代表の発言の後会場の一部から拍手が起こりました。】

 そもそもこの提案が正式に公表されたのは7月と総会の僅か3か月前。実際に総会でも「3か月前に突然出てきた」との発言が複数よりあったことから、実際に各国に提示されたのも時期的にあまり変わらなかったようです。ハードルが高い提案であればあるほど、十分事前に提示して各国に対して説明と根回しが必要なはずで、これでは外交手法として残念ながら稚拙と言わざるを得ません。

 たまたま提案が公表された7月にワシントン条約動物委員会に出席していたのですが、たまたま会議にIWCでは最も保護的なポジションを取るあるラテンアメリカ諸国のIWCにも来ているという代表に日本提案をどう思うかと聞いたところ、到底賛成できないとのことでした。オーストラリアはもとより会議に先立って「日本提案には絶対反対」の立場を明確にしていましたし、IWCに出席するNGOも強く反対の立場でした。ラテンアメリカ諸国やEU諸国はこうしたNGOの意見が強く反映されることから、もとより採択される見込みは全くなかったと言ってよいでしょう。

 日本側は、「この日本側の提案は一回限りのものであり、もし採択されなかった場合は次回の総会には出さない。もしこの提案が否決されたならば、IWC脱退も考えざるを得ない」と交渉を試みていたようにも側聞しました。しかし、この提案に合意が得られなかった場合脱退も選択肢かとの質問に対し、水産庁の担当者は「その議論は時期尚早」と業界紙のインタビューで答えていました(みなと新聞2018年7月31日)。もちろん一般の外国人は日本語はわからないでしょうが、東京に在外公館を有している国々は関係する報道はくまなく読んで適宜本国に伝達しているはずですので、これでは「脱退を検討する」とのポジションはブラフ(はったり)であるとあらかじめシグナルを送っているに等しいと言えます。残念ながらやはり交渉手法として稚拙と言わざるを得ないでしょう。

 日本案否決後、谷内正明農林水産副大臣は「あらゆる選択肢を精査せざるをえない」と発言し、「IWCからの脱退の可能性に言及」と報じられました。

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 問題となったところを、以下そのまま見てみましょう。

“We continuously believe the potential of IWC as a forum of global governance for the conservation and management of whale resources. And therefore, we wish to continue in cooperation with the IWC in various ways to achieve the objective of the Convention enshrined in the Convention. However, if scientific evidence and diversity are not respected, if commercial whaling based on science is completely denied, and if there is no possibility for the different positions and views to coexist with mutual understanding and respect, then Japan will be pressed to undertake fundamental reassessment of its position as a member of the IWC where every possible option will be scrutinized.”

「我々は鯨類資源の保全管理のフォーラムとしてのIWCの可能性を引き続き信じております。従いまして、この条約の目的を達成するため、様々なかたちでIWCとの協力を引き続き行っていきたく思っております。しかしながら、もし科学的証拠と多様性が完全に否定され、もし科学に基づく商業捕鯨が完全に否定され、そしてもし異なった立場や見解が相互の理解と尊重の下に共存する可能性がない場合、日本はIWCの加盟国として立場を抜本的に再検討せざるを得ないこととなり、全てのオプションを精査せざるを得なくなるでしょう」


 以上のステートメントでは、「鯨類資源の保全管理のフォーラムとしてのIWCの可能性を引き続き信じ」、「様々なかたちでIWCとの協力を引き続き行っていきたい」とされている一方、 「全てのオプションを精査せざるを得ない」とのくだりのまえにif(もしも)が3つもついており、しかも「脱退」の文言は入っていません。少なくとも現時点では脱退の可能性は大きな選択肢とは到底言えないと考えられます。

 ちなみに日本が「脱退の可能性」に初めて言及したのは今から約四半世紀前の1992年のことです。

 この年開催されたIWCでは、商業捕鯨再開にさらに条件を付す決議案が圧倒的多数で採択されました。この決定を受け、日本政府代表団の島一雄代表(水産庁次長)は「もし科学的証拠に基づく議論が尊重されないとすれば、IWCは本来の機能を停止したと言わざるを得ない」とした上で「(このままでは)IWCからの脱退を求める国内の圧力は強まるばかりだ」と指摘、国内政治・世論の動向次第では、脱退も検討せざるを得ない、との認識を明らかにしています(読売新聞1992年7月4日「日本がIWC脱退を示唆 不公平な運営非難 政府代表演説 総会が閉幕」)。

 この1992年の島代表のステートメントでは「脱退」の文言に言及されており、今年のIWCでの谷内副大臣の発言よりも意味的に強い内容を含んでいると言えます。もとより少なくともこのころから日本は「全てのオプション」を精査している筈であり、したがって四半世紀以上「全てのオプション」が検討され続けてきたとも言えるでしょう。
 国際捕鯨取締条約第8条で科学調査目的の捕獲については条約規制の適用除外とすると定められており、日本はこれを援用して南極海と北太平洋で調査捕鯨を実施しています。また、国連海洋法条約は第65条で「鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動しなければならない」と規定されています。このため、今回IWC議長を務めた森下丈二・IWC日本政府代表が指摘しているように「IWCを抜けた時点で、南極海での捕鯨が、事実上許されなくなる。南極海を捨てる覚悟がある時のみ、この(脱退という)選択肢を探れる」と言えます(みなと新聞2016年12月16日)。

 さて、余談なのですが、IWC総会は毎回のごとく時に討議がヒートアップし、熱い議論が行われることがあります。特に商業捕鯨の再開やサンクチュアリ提案などに関しては今回もそうでした。

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【日本提案に対してコメントするアルゼンチン代表】

 反捕鯨国はEU、ラテンアメリカ諸国、オーストラリア、ニュージーランド、そして常にどんな議題でも一家言有するモナコ、商業捕鯨再開支持側では日本、アイスランド、ノルウェー、アンティグア・バーブーダ、そして今回はセネガルが熱い論客でした。

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【熱弁するセネガル代表】

 数的に劣る日本側は勢力を増やすため新規加盟を促す作戦を取っており、この結果8月下旬に「日本から支援を受けた西アフリカのリベリアがIWCに加盟」しました(産経ニュース電子版。2018年9月5日)。ということで今回新規加盟のリベリアから2人代表が出席し日本支持側として発言してくれていたのですが、やはり正直クジラなどには関心がそれほど強くないからか、もう1人の自国代表が発言している時ですらスマートフォンに夢中。ある意味で現在のIWCのある側面を象徴するようにも思えました。

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【ブラジル提案に対して発言するリベリア代表】

リベリアスマホ(day3午後・フロリアノポリス宣言)③(発言終了後).jpg
【発言終了後のリベリア代表。横のルクセンブルク代表もスマホに熱心です】

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